第11話

 整備に三十分、モービルクルーザーに付け替えて走り基地まで十分。四十分でどれだけ戦場を動いているのか?正直、焦る気持ちはあるが正規整備兵でも無い雄二や道力が頑張って整備してくれたこの機体、無下に扱う事なんて出来はしない。


 それに、第五や第七小隊が焦って無理をするとも思えない。大丈夫だ、理由も無く自分に言い聞かせて戦人を走らせる。


 基地まで後一キロの所で、炸裂音を聞き急停止、モービルクルーザーを脱着パージする。


 反動で十メートル程、地面を滑る事になったが、そんな事はどうでも良い。


 この距離からでは映像も届かない。


「こいつがあったな」

 雄二から、ドローンの使い方を教わっていた。もちろん、あいつ程上手く扱う事が出来る訳では無いが、それでも無いよりはマシだ。


 雄二は最大十機のドローンを同時に操作する事が出来るが、僕ではAI制御で二機のドローンを動かすのが精一杯だ。


 この辺は、僕でも使い易い様に制御用AIを雄二に組んで貰っている。


 ドローン二機を綾波二式のバックパックから発進させて偵察をさせる。


 有効範囲は約十キロ。


 ドローンのバッテリーを兼ねている専用バックパックを外し、地面に置いて発信基地とする。


 つまりこのバックパックの直径十キロがドローンの行動はんいとなる。


 モニターをドローンのカメラに同期させて仮称ドローン一号を右回りにドローン二号を左回りに展開させる。 


 数分で見覚えのある基地の周辺の林に近づいたのは分かるが……。


 何だ、この戦場跡は?重火器で粉砕されたのだろうか?木々や建物は薙ぎ倒されて防壁は半壊している。


「これは……不味いな……」

 思わずこぼれた言葉と冷や汗。段々と大きくなっていく機械の動作音。


 ドローンに映し出された映像に思わず、ドローンの操作レバーを持つ手が強くなる。


 地面に倒れている戦人の承認番号は綾波二式、部隊名は……第五小隊。部隊名の後にRの文字が書いてあると言う事は隊長機か?


 両足と頭部、左腕を破壊されていて、ピクリとも動かない。


「こちら、第六小隊だ!!第五小隊何があった!?」ふだんなら、敵の傍受も考えて、シークレットチャンネルを使っている所だったのだが、僕もかなり動揺していたのだろう、オープンチャンネルで通信してしまっていた。


『……だ……第六か……すまん……』ノイズ混じりの通信に機体の損傷と第五の隊長の負傷具合を知る。


 オープンチャンネルで、良かった……。


 今の彼では多分、シークレットチャンネルのパスコードを入力する事すら出来無かっただろう。


「一体、何が……」


 この感じ、もう長くもたないな……。


 それを知りながら、最後の言葉では無く、状況説明を求めた。


 ……恨みはあの世でお聞きします。


『すまない……奴らの挑発にのって……しまった』言葉と言葉の間に、血を吐いた様な咳が聞こえる。

 もう、休んで下さいと言いたい気持ちを堪える。


 第五小隊長から聞いた、大アジア帝国の司令官の挑発は、安っぽくて効果的だった。


 全てを聞いた僕は、人は怒りが過ぎると冷静になるんだなと知った……。









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