第17話

『君は良く頑張った。どうかな?この辺で終わりにしないか?いくら君でも、もう無理だろう?』


 そう来るよな?


 いくら手負いの一機の戦人とはいえ、敵はどんな行動をしてくるかも分からない。先程のイグニッション・ツインドライブの件もある。


 もしかしたら、まだ隠し玉があるのかも知れない。

 そんな敵に対して投降を求めるのは当然だろう。


 どうする?ヤツの言葉に従って投降するか?


 流石に、もう無理だろう。九機の戦人に囲まれて機体稼働率も落ち、まともに動かす事も出来ない。


 落ち着いて、考えれば、子の状況は予測出来た筈だ。


 なら、イグニッションをせずに持久戦に持ち込んだ方が……。


 どちらにせよ、あの黒い戦人のレールガンでジリ貧か?


 どう考えても……駄目だ、精神的に楽な方、楽な方へ考えてしまう。


 ふと、第五小隊長真砂大地の言葉を思い出す。妹のサキさんを頼むと言っていたよな。


 僕のすべき事は、何だろう。


 サキさんを助ける。


 生きている仲間を助ける。


 僕のやるべき事は、復讐では無い。


 なら、まだやれる事はある筈。


 コクピットの脇に置いておいたドローンのコントローラを取る。


 ドローンは……案外、良い位置にいるじゃないか?



『どうしたのかな?黙ってしまって?今、君に出来る選択は余り無いと思うがね?』嬉しそうなワンウェイに声にイラッとしつつ、僕はコンソールパネルからプログラムを入力する。


「ほぅ、投降したどうなる?部下にしたいと言っていたけど、どれくらいの待遇で雇ってもらえるんだ?」


『おぉ、話を聞いて貰えるのかな?これは嬉しい』


 綾波二式から、地上に降りる。


 敵から見られない様に、戦人は立たせたまま降りる為、地上からはソコソコの高さではある。


 綾波二式の角張った装甲は降り易くなってはいるのだけど、この高さから降りるのは少し勇気がいる。


 僕の取った行動は、敵の死角から基地の中に入り、内部から、人質を救出する事。


 このまま戦人で戦うにしても、余りに戦力がなさ過ぎる。


 なら、上手く相手を欺いて、仲間を救出する。


 正直、どちらが正しいかなんて分かりはしない。


 なら、思いついた方に進んでみる。


 多少なら、策もあるしね……。


 遮蔽になった瓦礫の裏に隠れた僕は、ワンウェイと話を続ける。


『そうですね、貴方程の器量があるなら、幹部待遇でも良いと思っていますよ』もう、勝ちを確信しているのか、ワンウェイの含み笑いが聞こえる。


「幹部ねぇ、そんなに僕は安いのかい?」


 その言葉に、ワンウェイの高笑いが聞こえる。


『面白いねぇ君は?どんな待遇なら良いのかな?言ってみたまえ』


 良し、こちらの準備は出来た。


「そうだなぁ、そこで僕に見える様に……土下座でもしな」


 僕は手持ちのドローンのスイッチを入れる。


『何だと、貴様!!……何?』


 ドローンから、映し出された綾波二式のホログラフィが突然現れ、銃を撃つ。


 ちゃんと、起動音や射撃音も聞こえ、リアリティが凄い。


 流石、雄二作成のプログラム。


 次いでに、手持ちのボタンを押すと、僕の乗っていた綾波二式がハンドガンを撃つ。


 運良く、敵の強力の脚部に命中して一機が膝をつく。


「よし、今の内に!!」


 辺りは、突然の綾波二式の増援に慌て、ホログラフィの綾波二式を撃とうとしたり周りを警戒しようとしたりと大騒ぎになる。


 走りながら、見つからない様に手榴弾を投げ込んだり、少しでも成功率を上げる為に、こちらも必死だ。


『一体、何事だ!!何があったのだ!?』甲高いワンウェイの叫びが響く。


 ウルサイな、耳に響くんだよ……。


 何とか、基地のガレージの近くまで来れたのだが……。


 運命とは、時に無常だ……。人が必死に考えた作戦が、一つの偶然によって全て台無しになってしまう。


 それは、綾波二式のハンドガンによって脚部を損傷して、崩れていた剛力からの通信。


『司令官、戦人のパイロットと思わしき男が、基地に近づくのを発見!!』


 倒れた剛力の視点から、偶然見つけられてしまったらしい。


「くっ!!」


 基地に向かって必死に走る!! 


 冷静になった剛力が数機、こちらに向けライフルを構える。


『でかしたぞ!!良くもコケにしてくれた!!殺せ!!』ワンウェイの声と共に銃口を向けられている時の、緊張感に絶体絶命を感じ、とっさに頭を庇う。


 そして、一発のライフルの炸裂音。


 流石に駄目か!?みんなゴメン、折角僕の為に頑張ってくれたのに……真砂小隊長すみません、後でキツく叱って下さい……それに……あれ?


「えっ?あっ、あれっ?」いつまで立っても自分の体に異常が無いのを確かめつつ、辺りを見渡す。


 僕を撃とうとしていた戦人がコクピットを貫かれ、崩れ落ちている。


 一体!何が!?


『お待たせ〜ギリだなギリ、危なかったね~隊長』


 そして、僕の通信機に聞き慣れた友の、仲間の声が響いた。

















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