第8話

「何でこうなったのかな」いまだ戦場に残る硝煙のニオイに僕は顔をしかめる。


 戦いの終わった戦場。僕はまだ燃え残る剛力の残骸の前に一人立ち尽くしている。

 血に塗れたコクピット、残された……。ここで始めて李少尉の顔を知った。

「やり切れないな……」


 せめて遺品になる物でも無いだろうかと、探すと、少尉の首にペンダントを見つける。


「すみません」死者に謝りつつ何とかペンダントを外す。


 ペンダントは開く様になっていて、中には写真が入っていた。


 照れ笑いをする李少尉と腕にしがみついて笑っている女性。キレイな女性だ。


 写真には、中国語でと書かれていた。


「生きていれば、また会えたかも知れないのに……」


 ギリリと強く奥歯を噛み締める。


 そんな僕のつぶやきを聞いたのか、いつの間にか雄二が後ろに立っていた。


「どうした、何か見つけたのか?」


「雄二……」僕は、ペンダントを雄二に見せる。


「悲しくて悲しくて僕は涙ぐんでしまいましたってか?」

 わざと悪びれる様に振る舞う雄二。


「何が言いたいんだ雄二……」

 そんな友の真意を僕も知りたかった。


「流石に、安い挑発位分かるか?本当は少しガス抜きをさせたかったんだけどな」ヤレヤレと肩をすくめる。


「お前は危なっかしいんだよ勝利」戦いが終わり、隊員から僕の友人に戻った雄二は僕の横に座った。


「何だよ、急に……」


「気を引き締めろって言ってるんだ、でなければ次こうなるのはお前だ」


「そんな事は……分かってる」


「分かっちゃいない!!」突然の雄二の叫びに驚いて友の顔を見る。


「お前はスペシャルだ」


 スペシャル?


「何だよ、それ?」不貞腐れた様な顔をして睨みつけた僕の目を雄二は真正面から見つめる。

「お前は、凄い。軍の学校を首席で卒業して、戦人の操縦、射撃、格闘全てにおいてエリートだ。尚且つ、作戦の立案、発想も柔軟でソツがない」

 雄二からの褒め言葉がまるで叱責の様に感じて居心地の悪さを感じる。


「お前、何が言いた……」


「最後まで聞け!!」言おうとした言葉はすぐに遮られ、僕は言い返す事も出来ない。


「多分、お前みたいな奴が戦争を終わらせる事が出来るんだよ、きっと……」雄二はお尻のポケットから、くしゃくしゃになったタバコを取り出すと、燻ぶっている剛力の残り火で器用に火をつけた。


 タバコの煙が、鼻をくすぐる。


 僕が嫌な顔をしたのに気付き雄二がニヤリと笑う。


「お前は生き延びろ、何があっても……」


「やめろ、僕を買い被るな。僕は目の前の現状ですらどうにも出来なかった男だぞ?」纏わりつく煙を払い除ける様して僕は立ち上がる。


 そんな僕の背中に向かって、雄二は話続ける。


「多分、俺やユメは、お前を生かす為に存在しているんだ」


「ふざけるな!!それ以上、下らない事を言うな!!お前達は僕が守るんだ!!何があっても!!……どんな事をしても!!」まるで、駄々っ子の様に言い捨てると逃げる様に雄二から離れようとする。


 雄二の吐いたタバコの煙が纏わりつく様に僕の周りにいつまでも着いてきた。




 僕が逃げる様に綾波二式のコクピットに戻ると通信が入っているのに気づく。


 コードは第五の小隊長からだった。


 慌てて、通信に出る。


『何をしている!!緊急だぞ!!』


「一体何が?」

 驚いている僕の耳に聞こえたのは、


「大変だ、俺達の基地が奇襲にあった。残った戦力はもうすでに半壊、敵は大アジア帝国、つまりコチラの敵は囮だ……」















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