第32話

「なぁ吾妻あがつま、どう思う?」今回の模擬戦は第六小隊が受け持つ事になった。


 隣に来た芹沢小隊長に話しかけられ吾妻小隊長はフンと鼻息一つ、「どう思うも何もねぇ、あいつらに任すしか無いだろ?」今回のアメリディアとの模擬戦は何を言った所で結局、戦うのは第六なのだ。どうしようも無い。


「でもよ、戦闘経験からすれば、あいつらよりも俺達の方が多い、俺達だってワンオフや特別機があれば!!」吾妻は芹沢の言葉を手を上げて止める。


「それ以上は無しだ。第六は良くやってる。それは誰が見ても明らかだ。俺達には俺達のやれる事がある……そうだろう?芹沢」これ以上は虚しくなるだけだ。たった数機で大アジアの部隊を止め、我々は彼らに助けられた。嫉妬が無いと言えば嘘になるが、彼らには何か特別な物を感じる。戦場において、こういう特別な何かを感じ取るのは大事な事なのだ。


「しかし、俺は……」考え込む芹沢を置いて吾妻はその場を去る。彼には考える時間が必要だろう。


 腰のポケットからタバコを取り出そうとして、中身が空な事に気づく。

「ちっ、第六の小僧にせがまれて一本渡したの忘れてたぜ……全く、二十歳未満に喫煙を勧めるなんざぁ、駄目な大人だな」手持ち無沙汰になるとつい無精髭を触ってしまう。この癖を教えてくれた部下はもういない。

「あぁタバコ……吸いてぇなぁ」吾妻は、しきりに無精髭をいじっていた。


 ☆☆☆


「全員、システムチェック。その後、持ち場に待機」


了解ヤー!!』雄二と道力の声が聞こえる。


 頭の中で、シミュレーションは何度もした。


 川口重工業試作機六花零式、僕の兄貴、六花勝時が作り上げた……僕の戦人ワンオフ


 頼むぞ、零式。


 僕は今日、コイツでアメルディア軍のドゥナルドJr少佐率いる三機小隊と模擬戦を行う事となった。


 勝とうが負けようが、たかが模擬戦だ。


 どうという事は無い。


 だが、この戦いは負ける訳にはいかなくなってしまった。


 それは、ドゥナルドJr少佐が、対面して来た時の事だった。


 金髪を短く切り目付きが鋭い、いかついTheアメリディア人それが彼の印象だった。


 彼は、理さんと握手の後、彼女にハグしようとして華麗に避けられて憮然とした顔をしながら、理さんとの再会を喜んでいた。


「コトワーリー、また会えて嬉しいよ!!これは神は私達に与えてくれた奇跡だ!!」首元にぶら下げているロザリオを厳つい手で握ると「ジーザス」と言って神に祈った。


「所で、以前私は君にプロポーズをしたと思うが覚えているかな?」いかつい顔をダラシなく歪めて、ドゥナルドJrは笑う。


「以前?それは十年程前の話か?」


「そうだったかな?私に取っては十年など光陰矢の如しだよ!!」


 多分、間違ったことわざの使い方をしているなと思いながらも誰も指摘しようとしなかった。


「それに、私は結婚をしたと伝えた筈だが?」理さんは嫌そうな顔を隠さずに告げると、

「あんなメガネもやしの事かい?あんな奴は、君には相応しく無い。大丈夫、私は君がヴァージンかどうかなんて気にはしないからね!?」ハハハッと笑うと、理さんは顔を真っ赤にして、

「ふざけるなドゥナルド!!私は今の勝時に満足している。!!鈍い貴様にも分かる様に言っておく!!」その剣幕に少したじろぐドゥナルドJr。


「で、そのメガネもやしは何処にいるのかな?」一発殴ってやると言わないばかりのドゥナルドJrの殺気だった顔に、理さんはため息をつきつつ。

「悪いな勝時は整備班長だ。何処かのバカが急に模擬戦とか言い出したのでな、その準備に大騒ぎだ」


「それは、どうも」悪びれずに、薄く笑うドゥナルドJr。辺りを見渡すと、

「所で例の……フレイ・ハッキネン女史はどちらかな?」フレイ・ハッキネン?フレイの事か?何故それをアイツは知っているんだ?


 理さんの顔色が明らかに変わったのを見て、不味い事になった様だと言う事だけは分かった。

























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