第34話

『隊長、準備おけーです』雄二からオールOKの無線が入る。


「了解だ、開始時間まで待て」


了解ヤー!!……って言いたいんですが、隊長にお客さんみたいでーす』何だ?とモニターを足元に移動させると、そこには銀髪の少女フレイがいた。


 こちらの準備はとっくに出来ている。


 時間はあるか……僕は頭を掻きながら、不安そうに六花零式を見上げる彼女に会うために搭乗用のウインチを下りる。


 何か、前にもこんな事あったななんて思いつつ、ウインチで下まで降りると、


「ショーリー!!」下に着いた途端に抱き着いてくるフレイ。


「どうしましたか?お姫様」僕の胸で彼女は黙ったまま動かない。


「イザとなったら、ワタシをミステテくださーい」ずっと考え込んでいたのだろうか?


「何故そんな事を?僕らが信じられませんか?」僕は、優しく彼女の銀糸の様な美しい長髪を撫でる。


 可愛そうに、言葉とは裏腹に、その肩は震えている。


「ちがいまーす!!ショーリーやコトワーリーとカチドーキ、ユージやユメや他にもサキやフードコートのオバチャンやほかにも……沢山のベースのみんな、みんながワタシにやさしくしてくれました!!みんな、みんながデース!!ビビリな私にいつもユーキをくれまーした!!」


 その言葉は彼女の小さな世界の中で、親しくしてくれた沢山の友人達の事が好きで好きで堪らないと聞こえる。それにしても、ビビリって?思わず笑いそうになってしまう。


 そして……。


「もう、だれにもケガ無いでほしいでーす」その震える肩を……。


「ワタシは、どうなってもいいでーす」その、お喋りな口を……。


「だから、ショーリーは無理をしないで」お人好しで、いつも他の人の事を考えている銀髪の少女を……。


「だから、だからワタシは……」


 もう良い……黙れ。


「あっ……」腕の中の柔らかくて温かいモノを強く抱き締める……。


「僕が必ず君を護る。だから、


フレイを守りたい。今は、ただそれだけ……。色々な心が混ざり合って今は、ただそれだけ……。 


「はい……」胸の中の勝利の剣をいだきつつ、僕はアメリディア軍と模擬戦と言う名の戦場に降り立つ。


その報酬は彼女の運命……。


「大切な君を守らせて欲しい」彼女の前にそっと手を差し出す。フレイは少し躊躇いながら僕の手を取り、また僕の胸に体を預ける。


「ショーリー……ワタシは、フツウのニンゲンではありません」突然の言葉に、呆気に取られつつ、


「普通の人間……じゃない?」オウム返しに、そのまま話すとフレイはうつむいて悲しい顔をした。


「はい、でも、今ははなせません……ワタシをマモってくれている人タチのためにも……」

「僕では、まだ君を護るには、値しないかい?」

 僕の胸の中で、小さな頭がフルフルと揺れる。


「そんな事はありません、私の。充分過ぎる程です……でもね、勝利でも……私は」今まで、幼く思えた彼女は、この瞬間だけ急大人びて聞こえて少し驚く。


「もう良いよフレイ……今はそれで、それだけで良い」


「ゴメンナサイ、ショーリー……」少し元に戻ったみたいな気がする。少しホッとした様な、残念の様な……。

「そろそろ、行くよ」


 僕は、そっと彼女を胸から離す。握ったままの僕の手をフレイは名残惜しそうに、ゆっくり離した。


 僕は、昇降用のウインチに捕まりコクピットまで登って行く。


 心配そうな顔のフレイが段々小さくなって行く。


 僕は、登っていくウインチに掴まりながら、彼女に勝利を誓う様に敬礼した。







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