第45話
「私は負けたのか……?」まるで動かなくなったコクピットの中そして異常な静寂の中、ドゥナルドJrは一人呟く。
「ふざけるな!!お前は負けて良い機体では無いのだ!!お前はアメリディアそのもの、いや!!私そのものなのだ!!」癇癪をおこした様にコクピットを叩き続けるドゥナルドJr。
「動け!!動け!!」もはや電源も入っていないコクピット。動けば勝つ!!いや勝たねばならないのだ!!
最新鋭の設備によって作られた最固の装甲サンドイッチスライムアーマー。最大の破壊力をもつ荷電粒子砲。二つの最強を持つドゥナルドIIIこそが最強なのだ。
それが……何故?
悪夢の様な展開にドゥナルドJrは頭を掻きムシる。
「ガッデム!!」 叩き続けている内に両腕から血が滲んでいるが、それすらもアドレナリンの分泌により気付かない位だ。
その時、急に軋む音がする。
敵か?味方か!?冷静な判断も出来なく無っているドゥナルドJrは懐からコルト・ガバメントを抜きガタガタ震え構えている。
一度、ガンッという炸裂音を響き、強引にキャノピーがこじ開けられていく。段々と、外の光が中に入ってくる。
少しずつ、壊れていく度に、ドゥナルドJrの体を同じ様に破壊されていく気になり、「止めろ、ヤメロ!」と叫んだ。
そして、遂に強引にキャノピーが壊され、眩しい青空の下、白い戦人がこちらを見下ろしている。
「ヒィ来るな!!来るなぁ!!」手に持つ拳銃を何発も打ち続ける。もちろん、白い戦人には傷一つ出来ていない。
『ドゥナルド・ポーカーJr少佐、落ち着いて下さい、もう終わりましたよ。あなたの言う模擬戦って奴は』
「終わった?……模擬戦?」混乱した頭に少しずつ、自分のした事を思い出す。
そうだ、これは模擬戦。命が取られる事が無いはずの戦い。
私は負けた……のか。植え付けられた恐怖、六花零式のグングニル(固定された状態からのイグニッション全開のパイルバンカー)の破壊力。
「負けたのか……」薄れていく意識、股間に温かい物を感じつつ、ドゥナルドJrは意識を失った。
「参ったな、気を失ったみたいだ?」電源の効かなくなったコクピットを強引に戦人の力で引っ剥がした迄は良かったけど、やはり少しやり過ぎたらしい。
まぁ向こうも、荷電粒子砲を連発していたんだし、しょうがないよな?
「司令部、模擬戦終了しました。ドゥナルド・ポーカーJr少佐は、そのぅ」
『良くやった六花勝利少尉、ドゥナルドJrがどうした?』理司令官からの言葉に僕は少し苦笑いをしつつ、
「外傷はあまり無い様に見られますが、気を失ってしまった様です。体格の良い人を何人すか頼みます。後、それと衛生兵も……」
『……そうか、ご苦労だった。少尉はそのまま、帰投せよ』しばらくの沈黙の後、司令官は小さくため息を付いた。
「
六花零式が整備用のカーゴトラックに到着する。
皆が集まって来るのが、見えた。
コクピットを開け、搭乗用のウィンチでゆっくりと降りる。
最初に飛びついて来るのは、道力だ。一気にしがみついて来る。
「勝利!!勝利!!やっぱり勝利は強い!!」
額を僕の胸に擦り付ける様にして道力が叫ぶ!!
「あぁ、ありがとうな、ユメ」僕の言葉に、キョトンとした顔をする道力。
その後、嬉しさを爆発させて道力は、
「やた、勝利大好き!!やった!!ユメは勝利が大好き!!」
「道力さん、そんなにしがみついたら勝利さんが苦しいです!!」真砂さんが近づいて来て、道力を引っ剥がす。何度もやっているせいか、妙に手慣れてるな?
「手慣れてきた!!サキ、ゴリラ!!」ふくれっ面で怒る道力。
「ゴリラって何ですか!?私だって、鍛えてるんです!!」自信満々の彼女の言葉にふと笑ってしまった。
「六花少尉いえ勝利さん、おめでとうございます」
「ありがとうございます」優しく微笑む彼女の声に、安らぎを感じる。やっと、終わったんだな。
「サキ泣き虫ー!!サキはゴリラで泣き虫ー!!」
「道力さん!!誰がゴリラで泣き虫ですか!?」周囲が笑う中、沢山の皆が祝に来てくれた。
手荒く祝ってくれる人、中には感動して泣いている人もいた。
ひとしきり済んだ後、雄二が近付いて来る。
「よう」
「よう」何となく照れ臭くて、言葉では無くて、右腕を突き出す。
二人、拳を突き合わせた後、ニヤリと笑って、
「やったな」「あぁ、やったぜ」それだけ。
逆に笑えて来て、「お前、それだけかよ?」そう言って笑うと、「それだけだな」そう言って黙り込んでしまう。
「何だよ?」黙り込んだ雄二の様子が気になって、項垂れるその顔を見る。
「……悪い、今回何の役にもたてなかった」そっか、今回、良い所無かったからな。だから僕は……。
「馬鹿じゃないか?」そう言って笑う。
「うっせ!!借りは必ず返す」ふてくされた顔をした。
それ位が、良いんだよ。
「怪我無く、無事ならそれで良いさ、相棒」軽く肩を小突く。
「あのな、相棒だったら隣にいるもんだろ?」
少し悔しそうな顔をした雄二は、僕の肩を小突き返した。
軽く笑い合って、皆の所に行こうとするが、ある人を見つけて足を止める。
雄二が、目で『行けよ』と促す。
眼の前には、心配そうな顔をした銀髪の少女が僕を待っていた。
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