第15話

翌日。1週間の合宿の中で当日は1日だけ完全休養日となった。貴子と杏奈は合宿に出発する前から1週間の合宿期間中の1日だけある完全休養日の予定を話し合っており、話し合いの結果、下田から伊豆七島のうち神津島、利島、式根島、新島の4島を結ぶフェリーに乗船して伊豆七島巡りをすることとなった。杏奈の同門の選手のうち、アトム級の世界チャンピオンの平尾綾香と共に女子3人での船旅をすることとなった。フェリーに乗船、船が伊豆七島へ向けて出港して間もなくして、偶然にも貴子は春樹と遭遇することとなった。女子プロボクシングに興味がある春樹が平尾綾香にあいさつしたことがきっかけとなった。春樹は、前日に横浜を出発して修善寺を経由して路線バスで天城峠越えをして下田入り。今日は、偶然にも貴子達が乗船している船へと偶然にも乗り合わせることとなった。

「はるくん、久しぶり。今回も秋の北海道の時と同様に麗奈さんと一緒なの?」

と貴子が聞くと、

「そうだよ。たまたま、小腹が空いていてカップラーメンを買いに自販機へと行くところだったんだ。」

と春樹は答えた。しばらくして、春樹はバリアフリースペースを備えたプロムナード席で待っている麗奈のところへとカップラーメンを持って行ってしまった。貴子達が乗った船は利島の港へと立ち寄り出港すると昼ごはんの時間が近づいてきた。利島を出港して10分ほど経つと春樹と麗奈のカップルが貴子達が陣取っている二等の客室へと入ってきた。たまたま、空いていたスペースが貴子達が陣取っていたスペースの近くにあり、ここのスペースに春樹と麗奈は陣取ることとなった。しばらくして、貴子が麗奈に声をかけて、

「もう、昼も近いよね。弁当、一緒に食べませんか。」

と誘った。

「そうしましょうか。」

と麗奈は答えて、昼ごはんは5人で二等の客室で和気あいあいと弁当を食べることとなった。ちょうど、昼ごはんを食べ終わった時間帯に船は式根島に到着。偶然にも、春樹は席を外してトイレへと行っており、トイレから出ると乗船口の方から1組のカップルが乗船してきた。しばらくすると、カップルの方の彼女が春樹に声をかけてきた。

「春樹先生、久しぶり。」

と言うと、

「お久しぶりです。昨年の春に甲子園で会って以来ですね。林田先生。式根島へ行ってたんですか。」

と春樹が聞くと、

「はい。式根島へ行っていたんだよ。」

と林田先生は答えた。春樹と林田先生との1年ぶりの再会の後、式根島から乗船したカップルは上の階にある一等の部屋へと向かった。林田先生との再会を目撃した麗奈は、

「もしかして、式根島から林田美咲先生が乗ってきたの。」

と聞いたら、

「そうだよ。彼氏連れて乗ってきたよ。」

と春樹は答えた。

「ということは、隣にいたのは私の教え子の杉原圭ではなかったか。」

と麗奈が聞くと、

「俺には声をかけていなかったけど、おそらく杉原圭だと思うよ。」

と春樹は答えた。美咲と一緒にいた圭は2年前に卒業した麗奈の高校の教え子で、美咲から見ても教え子だったのだ。

「部屋。どちらの方向に行っていた。」

と麗奈が聞くと、

「一等の客室の方へと行っていたよ。」

と春樹は答えた。

「あー。どうりで一等が押さえられなかったんだー。」

と麗奈は言った。

「今回の船旅。当初は一等で楽しみたかった。乗船の予約の手続きをした時に既に一等は予約済みだったんだ。だから、最終的には二等での船旅となったんだ。だけど、二等は二等で別の意味で楽しめただろ。」

と春樹は答えると、

「秋に北海道旅行に行った時に陸別からの帰りのバスで一緒だったプロボクサーの女の子とも再会したよな。」

と麗奈は答えた。船が式根島を出港後、春樹と麗奈は二等の客室に戻ると、

「話聞いたよ。当初は一等を押えるつもりだったけど押さえられなかったんだって。先に一等の客室を押さえたのが麗奈さんの勤務先の高校の同僚の女の先生と2年前に卒業した教え子の男子生徒のカップルが押さえていたんだとか。」

と貴子は言っていた。そんな話のやり取りをしているうちに貴子達が乗っている船は伊豆七島巡りの最後の寄港先となる神津島へと到着した。しばらくして、

「貴子さんが今度対戦する平山佳菜子。平山佳菜子と言えば、出身地、神津島ではなかったか。」

と春樹が言うと、

「私の今のトレーナーの有美から聞いたけど、確かにそうだよ。中学校時代までは島の道場で空手に打ち込んでいたけど、高校進学と同時に東京都内の私立高校へと進学したのを機にキックボクシングもやるようになったとの話みたい。」

とのことを貴子は言っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る