第71話

いよいよ貴子の日本タイトル初防衛戦の当日となった。貴子の日本タイトル初防衛戦を楽しみにしていた有里が大阪から娘の里紗を連れて応援に駆けつけた。当日の試合前の貴子の控室に入ることがトレーナーの有美との交渉で許されることとなった有里は貴子に話しかけた。

「たかちゃんの初防衛戦。3歳になる私の娘の里紗も楽しみにしてるんだ。それから、もう1つ。たかちゃんが勝って防衛に成功したら、前回の日本タイトル獲得の時と同様に、私の実家の酒屋の自動販売機のジュースを1本100円のところを試合の翌日だけ50円で販売することも決まったんだ。私の家の近所の高校に通う生徒達のためにも絶対に勝ってタイトル防衛してね。」

と有里は言った。有里と里紗が控室から客席へと戻った直後に有美が控室に来て、

「もうすぐ試合だよ。準備して。」

との一言があった。それから、しばらくして貴子はトレーナーの有美と共にリングに入場した。有美にとっては、トレーナーになって初めての貴子の試合のセコンドとなった。試合前の諸注意をレフェリーから受けるために貴子と対戦相手で今回は挑戦者となる岡村綾香がリング中央に呼ばれ、レフェリーからの諸注意を受けた直後にグローブを合わせた後に、赤と青のそれぞれのコーナーに両者が下がって試合開始のゴングを待ち、直後に試合開始のゴングが鳴った。試合の序盤戦は、貴子にとっては初防衛戦のリングとあって緊張のあまりに思い通りの試合が演出できず、岡村綾香にペースをつかまれる結果となった。第2ラウンドにはラウンド開始から1分を過ぎたあたりで、貴子は岡村綾香の左フックを顔面にもらいダウンを奪われてしまった。しかしながら、貴子はレフェリーからのカウントが10カウントとなる前に立ち上がり試合は再開。貴子の日本タイトル初防衛戦は序盤戦は前途多難のスタートとなった。ちなみに、この年の春先からOPBF東洋太平洋タイトル戦の女子の試合のラウンド数が10ラウンドから8ラウンドに減った関係から、それに沿って今回の試合から日本タイトル戦の試合もラウンド数が8ラウンドから6ラウンドに減らされての試合となった。貴子の第2ラウンドでの一度のダウンが今後の試合展開で、どう左右するのかも今後の試合の行方を左右することとなった。第3ラウンドは前回のラウンドで喫したダウンのダメージを軽減するために、あまり打ち合いには行かずにガードを固めての試合展開となった。試合の前半戦は挑戦者のペースで試合が進み、挑戦者の岡村綾香は日本タイトル奪取へ闘志を燃やした。しかし、第4ラウンドに入ると、貴子は一瞬のスキを突いて右フックを相手のアゴに直撃。これを分岐点に試合は貴子のペースへと変化した。第5ラウンド以降も貴子は岡村綾香に対して顔面に向けて有効打を連発。度々、相手をロープに追い込む展開を演出した。だが、対戦相手の岡村綾香は打たれ強いことでも評判で、ダウンを奪うことはできずに6ラウンドが終わり、勝敗の行方は3人のジャッジによる判定となった。3人のジャッジの採点は1人のジャッジが挑戦者の方を支持しましたが、残りの2人のジャッジは共にチャンピオンの貴子を支持。今回の初防衛戦は、ポイント2-1のスプリットディシジョンの苦しみながらの勝利で貴子が日本タイトル初防衛に成功した。試合終了後に貴子は再びチャンピオンベルトを肩にかけることとなり、直後の勝利選手インタビューで、

「今回の試合は勝つことができましたが、内容的には納得のいく試合ができませんでした。応援してくれた皆さん。本当に申し訳ありません。次の試合では満足のいく試合ができるようにがんばります。応援よろしくお願いします。それに、もう1つ。ボクシングとは関係はありませんが、私の母校の大串高校の野球部が夏の甲子園出場を決めました。大串高校野球部の甲子園での戦いの応援もよろしくお願いします。」

とのメッセージを送った。

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