第4話

貴子の日本タイトル初防衛戦まで残り2日となった。貴子は、試合に備えてコミッションの管理下による健康診断のため病院にいた。当日は、貴子の母校の大串が夏の甲子園神奈川大会ベスト4で知恩学院との対戦の試合が横浜スタジアムで開催されており、病院の待合室のテレビで試合の戦況を貴子は観ていた。試合は、1回裏に大串が1点を先制すると、2回以降は大串のエースの岡島康太が好投して打線をセールスポイントにしている知恩学院を無得点に抑えていた。しかし、7回表に2アウト・ランナー1塁2塁のピンチを迎えて打席には大会屈指の強打者の野口真満が打席に入った場面で、大串の監督の出島光基は攻撃時には3塁ベースコーチに入っている野島充を伝令としてマウンド上の岡島康太のところに行かせて内野陣がマウンドに集まる展開となった。伝令がダッグアウトに戻ってから、岡島康太とバッテリーを組むキャッチャーの西島雅紀は岡島康太に対して

「2アウトだけど1つ塁は空いている。とにかく、ここまで来たんだ。思う存分楽しもう。」

と岡島康太を落ち着かせた。最終的には、西島雅紀がフォアボールで満塁を想定したリードを演出。野口真満をフォアボールで歩かせて満塁とすると、次の打者を内野ゴロに抑えてピンチを切り抜くと、8回以降は立ち直った岡島康太が知恩学院打線を無得点に抑えて1-0で大串が勝利して野球部創部以来初の決勝戦へと進出。春夏通じて初めての甲子園出場に王手となった。ちなみに、貴子は試合前の健康診断終了後に病院の待合室のテレビを見て自分の母校の野球部が決勝戦へと進出したことを知ることとなった。

 試合前日の計量の日に貴子は初防衛戦で対戦する岡村綾香と初めて対面することとなった。貴子は母校の野球部の甲子園出場を懸けた登戸との対戦の決勝戦のことを気にしながら計量検査に入り、フライ級リミットの50.8㎏で一発で計量検査に合格となった。対戦相手の岡村綾香も50.8㎏で一発で計量検査に合格となった。計量検査が終わった直後、岡村綾香が貴子に声をかけた。

「今度対戦することとなる岡村綾香です。吉見貴子さん、あなたの母校の高校の野球部、夏の甲子園に行けるかもしれないとのウワサがあるみたい。ちなみに、私の弟の玲は八日学院で甲子園を目指している高校球児ということは知ってるみたいだけど、玲は明治神宮球場で行われた夏の甲子園西東京大会で優勝して甲子園出場となったんだ。もしかしたら、あなたの母校と玲が甲子園で対戦するかもしれないね。」

とのメッセージを送った。

「明日は試合ですね。お互いに頑張りましょう。」

と貴子は岡村綾香に言って、計量検査会場をあとにした。

 計量検査が終わって行きつけのファミリーレストランへと行こうとした矢先だった。当日は、貴子のいとこのちえみは仕事が休みだったこともあって、計量検査の会場の前で待ち合わせをしていた。

「たかちゃん、計量検査はどうだった。」

と、ちえみが聞くと、

「計量の方は、50.8㎏でフライ級の上限いっぱいで一発で合格した。」

と答えた。直後にスマホでちえみが高校野球の情報を確認した。しばらくして、

「夏の甲子園神奈川大会で大串が優勝。春夏通じて初めての甲子園出場をノーシードから勝ち上がっての優勝。たかちゃんの母校が甲子園に出場するよ。良かったじゃない。」

と、ちえみが言った。貴子の日本タイトル初防衛戦の計量検査明けのファミリーレストランでの食事は、貴子の母校の大串が夏の甲子園出場となった祝杯も兼ねての食事となった。

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