第32話

貴子にとっては、マナミとの2度目の日本タイトルマッチ挑戦でチャンピオンベルトを奪取して以来となる8ラウンドの試合となった。試合開始のゴングが鳴った。試合開始早々から、チャンピオンの鋭いパンチに苦しめられる試合展開となった。最初のラウンドの2分間が終了。1分間のインターバルの間に、

「コイツ。思っていたより強い。」

と貴子はつぶやき、まさえがアマチュアの実力者で6回戦デビューの実力を体で実感することとなった。第2ラウンドの2分間も、チャンピオンの鋭いパンチから貴子は時よりロープを背にする展開となった。第2ラウンド終了後の1分間のインターバルでは、

「押されているぞ。今まで練習してきたことを思い出せ。」

とセコンドに入っていたトレーナーの有美からの一言もあった。だが、第3ラウンドに入って以降も、まさえは攻撃の手を緩めない。ラウンド終了間際には、まさえの左フックを顔面に受けた貴子がふらつく場面も見られる展開となった。試合が中盤へと差し掛かるにつれて、まさえの強さを実感させられる試合展開となった。前々回の試合を終えてからダウンを喫しにくくするためのトレーニングをしていた貴子だったが、今回の対戦相手は一筋縄ではいかなかった。序盤から強さを発揮したチャンピオンはプロデビュー戦で、試合の後に女性から男性へと性転換したライバルを相手に勝った実力を思う存分アピールする試合を演出。試合も終盤に突入した第6ラウンド。このラウンド開始から1分を過ぎた時間帯だった。まさえの右ストレートが貴子の顔面に直撃。ついに、貴子はダウンを喫してしまった。貴子はカウント8で立ち上がり、試合は再開された。第6ラウンド終了後のインターバルで、

「KOしないと勝ち目はない。」

と有美から言われた。しかし、第7ラウンド以降も、まさえの攻勢は続き、貴子は最終8ラウンドの終了のゴングが鳴るまで、とにかく耐え続けてリングに立ち続けた。試合終了のゴングが鳴り、初めてのOPBF東洋太平洋タイトル挑戦の試合が終わった。3人のジャッジの採点は3人全員が80-73。ポイント3-0のユナニマスディシジョンで秋野屋まさえが3度目のタイトル防衛に成功。貴子の初めてのOPBF東洋太平洋タイトルマッチ挑戦は、チャンピオンの鋭いパンチをもらい続け、KO負けこそ避けられたが完敗の結果に終わった。

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