第9話
貴子とちえみの2泊3日の北海道旅行も3日目最終日となった。2人はホテルで朝食を済ませて、8時半ごろにホテルをチェックアウトした。最終日の2人の行程は午前中に牛乳工場を見学。午後からは廃線となった旧国鉄広尾線の幸福駅と愛国駅を巡ることとなった。9時前に帯広駅前を出発する路線バスに乗りこんだ貴子とちえみは牛乳工場のある最寄りのバス停で下車。見学ツアー開始まで1時間弱時間があったため、見学ツアー開始までの待ち時間を牛乳工場の近くになる道の駅で少しばかり楽しむこととなった。工場見学ツアーの集合時間が近づき、貴子とちえみは牛乳工場の中へと入り、工場見学の申し込みも済ませた。工場の見学コースの入口には社会科見学の小学生が集まっていた。しばらくして、工場の見学案内係の人がやって来て本格的に工場見学が開始となった。工場見学通路に向かって貴子とちえみは小学生達と共に中へと進むこととなった。工場見学に来た小学生のうちの1人が、
「お姉ちゃん達も工場見学するんだ。どこから来たの。」
と聞かれて、
「横浜から来たの。」
と貴子は答えた。1時間余りの工場見学が終わって、工場見学に来た小学生の中に格闘技の好きなヤツがいたみたいで、貴子に声をかけた。
「オレ、空手やってるんだけど。もしかして、ショートヘアのお姉ちゃん。フライ級の日本チャンピオンの吉見貴子というプロボクサーじゃなかったか。」
と聞いてきた。
「そうよ。私はプロボクサーよ。フライ級の日本チャンピオンの吉見貴子よ。」
と答えると、周りにいる小学生達から、
「ボクシングしているようには見えないけどメチャ強いんだ。」
なんて声が聞こえた。こんなことがあってか。牛乳工場の敷地内で10分ほどではあったが即席のサイン会まで行われた。牛乳工場の見学が終わると、ちょうどランチタイムの時間となった。午後から行く幸福駅方面に向かう広尾方面へは牛乳工場のある最寄りのバス停からは帯広駅前で乗り換えとなり、このバスの接続まで時間があったため牛乳工場の近くになる道の駅のレストランでランチを済ませてから幸福駅および愛国駅を巡ることとなった。貴子とちえみは幸福駅での夕暮れを見て、幸福駅前の紅葉を眺めながら帯広空港への連絡バスを待つこととなった。しばらくして、広尾方向から旭川方面行きのバスが幸福のバス停に止まり、乗客を降ろしてからバスは帯広方面へ向けて発車した。このバスが帯広方面へと行ってしまって、しばらくすると、春樹と麗奈のカップルが幸福駅前の帯広空港連絡バスのバス停へとやって来た。
「えーっ。まさか、ここで遭遇するとは。」
と、ちえみが言うと、
「てっきり、空港へのバスは帯広駅前から乗るかと思っていたんだよ。昨日の陸別に続いて4人での行動かー。」
と、春樹はびっくりしていた。そうやって、4人ではしゃいでいるうちに空港連絡バスが来て、貴子達4人が乗りこむこととなった。ここのバス停からは10分で空港に到着。空港に到着して貴子達4人は空港の中にあるレストランで夕食を済ますと、いよいよ帰りの飛行機の搭乗手続きが始まった。貴子達4人が東京行きの飛行機に乗りこむと、貴子の座る席の隣の席に日本人と欧米人のハーフらしき人物が座っていた。しばらくして、貴子が持って来たボクシング雑誌がテーブルから落ち、その雑誌を隣の席に座っていた女性が拾った。
「もしかして、あなたのですか。」
と聞かれると、
「はい。」
と、貴子は答えた。
「実は私もボクシングやってるんですよ。」
と、隣の席の女性が言うと、貴子は今度の対戦相手の西村江麗奈に風貌が似ていたことから、
「もしかして、西村江麗奈さんですか。」
と聞くと、
「はい。私が西村江麗奈です。」
と答えた。
「はじめまして。今度の試合で対戦することとなった吉見貴子です。」
と、あいさつをした。
「まさか。帰りの飛行機で今度対戦する相手選手と席が隣同士になるなんて偶然ですね。」
と江麗奈は答えた。
「貴子さんは旅行で北海道に来たんですか。」
と江麗奈に聞かれると、
「はい。いとこと一緒に来ました。」
と貴子は答えた。
「今回、北海道に来たのは高校時代の同級生の結婚式に呼ばれて来たの。現在、その同級生は帯広で生活していて結婚式も帯広で行われたんだ。」
と江麗奈は言った。
「そういえば、江麗奈さん。出身高校は苫小牧にあると聞きましたが、そちらの出身ですか。」
と貴子が聞くと、
「苫小牧は私の父親の出身地で実家もある。高校時代は父親の実家から通った。ちなみに、私の実家は稚内にあるんだ。夏になると、定期船を利用して毎年のように母方の祖父母がサハリンから遊びに来るんだよ。」
と江麗奈は答えた。
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