第85話

試合当日。今回の試合は普段とは違い開催日が日曜日となったためイベントは日中の開催となった。当日は貴子の日本タイトル3度目の防衛戦のため、貴子の母親ののりこが経営する美容院は休みとして後楽園ホールまで応援に駆けつけることとなった。今回の防衛戦では、タイトル奪取となったタイトルマッチで有里達が制作した横断幕と共に、貴子がボクシングを始める前の小学生時代に所属していたバレーボールのスポーツ少年団の古城スピリッツも横断幕を制作。応援の横断幕は今回から2種類となった。試合前日に有里から中学校時代のバレーボールのユニフォームでリングに入場することを貴子に提案。対戦相手の平山佳菜子が試合では空手の道着でリングに入場していることから、それに対抗して有里が提案したのであった。前日計量明けの夕方に有里は貴子の家へとやって来ると、貴子の部屋で貴子と有里の2人で中学校時代のバレーボールのユニフォームを探し、見つけ出したのは貴子が中学校時代に着用していた背番号12のユニフォームが見つかった。当時、有里も貴子と共にバレー部に所属しており、有里は背番号13だった。有里は貴子が日本チャンピオン獲得となったタイトルマッチの時期に背番号13のユニフォームを見つけ出しており、貴子の応援で背番号13のユニフォームを使う日を楽しみに待っていた。貴子の試合は当日のメインイベント。試合までの待ち時間を利用して貴子は有里と共に30分ほどランチを楽しんだ。当日はメインイベントを含めて8試合の開催。貴子と有里がランチを終えて控室へと戻ると、会場の方では当日の試合の最初の試合のゴングが聞こえていた。今回は貴子のリング入場直前までトレーナーの許可をもらって有里は控室に入れてもらえることとなった。貴子がリング入場の準備が完了すると、リングコスチュームの上に着用した背番号12のユニフォームを有里に披露した。

「このユニフォームは、はるくんとの思い出が詰まったユニフォームなんだ。このユニフォームでリングに入場する以上は絶対にダウンは喫したくない。今度こそ、期待に応える試合をしたい。」

と貴子は言うと、

「はるくんも応援してるよ。たかちゃんが3度目の防衛に成功することを。」

と有里が言うと、しばらくしてトレーナーから

「もうすぐ試合の順番が近づくので席の方へと戻っていただけますか。」

との報告があり、有里は客席へと戻った。


 貴子の試合の順番が来て、貴子がリングに入場。リング入場後、私服の上に背番号13のユニフォームを着た有里が貴子に花束を渡すと、後ろからは貴子の前回の試合の対戦相手の江麗奈も貴子に花束を渡していた。今回の対戦相手の佳菜子は試合でのリング入場のトレードマークとなっている空手の道着でリングに入場した。しばらくして、両者は試合のリングコスチュームに。レフェリーから試合に向けての注意事項を聞き両者がグローブを合わせた。試合開始のゴングが鳴った。試合は序盤から貴子のペースとなり、佳菜子が得意としているアウトボクシングを封じて接近戦での打ち合いの展開となった。中盤の3ラウンドには貴子が佳菜子をコーナーへと度々追い込む展開となるが、今までのライバルの中ではダウンを喫した経験が少ない佳菜子はクリンチで逃れる。次の4ラウンドでは貴子の左フックが佳菜子の顔面に直撃するも今までの対戦相手とは異なりダウンを奪えない試合展開となった。このまま試合は最終第6ラウンドに。今回の試合は序盤から主導権を握った貴子でしたが、最終ラウンド終了30秒前でした。貴子の一瞬のスキを狙った佳菜子の右ストレートが貴子の顔面に直撃。不覚にも貴子はダウンを喫してしまった。ダウンを喫した貴子は10カウント以内に立ち上がり試合は再開。判定となったら、不利と判断した佳菜子の執念もありながら、6ラウンドを戦い勝負の行方は判定となった。3人のジャッジの採点は1人のジャッジが57-57で引き分けとなると、残りの2人のジャッジは一方のジャッジが佳菜子を、残りの一方のジャッジは貴子を支持する採点となり、最終的に引き分けに終わり、貴子は日本タイトル3度目の防衛には成功したが、勝ってタイトルを防衛することはできませんでした。試合終了後の勝利選手インタビューで

「チャンピオンベルトは守りましたが、勝って防衛することはできませんでした。申し訳ありません。今回の対戦相手の平山佳菜子には終盤の粘りからダウンを喫しました。次の試合は相手を倒せるボクシングを目指してがんばります。今日は母の日です。私のためにボクシングをやらせてくれたお母さん。本当にありがとう。」

とのメッセージを送った。

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