第92話
しばらくして、春樹は食事を終わらせて席を立った。
「長距離コースの運転体験の準備があるんで失礼するよ。」
と言って部屋へと戻ろうとすると、貴子は春樹に声をかけ、
「はるくん。何時から運転体験するの。」
と聞くと、
「1時からだよ。」
と、春樹は答えた。それを聞いた貴子は、
「今日のトレーニング。暑いから午前中で終了となったから、はるくんの列車を運転する姿を見たいよ。」
と言った。それを聞いていた勇輔は昼以降の楽しみのことでひらめき、
「そういえば陸別は初めてだったよな。次、行く機会があったら、列車の運転体験やってみようかな。」
とつぶやくと、
「昼からオフだったら一緒に楽しむか。列車の中からの外の景色を見るのもいいよね。」
と、春樹は勇輔を誘った。
「勇輔君。はるくんの運転する列車に乗ってみようよ。」
と、貴子が言うと、
「たまには息抜きすることも必要だよ。私も乗るよ。」
と、有美も春樹の提案に賛成した。
「長距離コースの運転体験の列車に同乗の場合は1人500円の運賃が必要だけど、一緒に乗るの3人だよね。3人の乗車料金については窓口で払うから。」
と、春樹は勇輔の提案を受け入れることとした。
昼食を食べ終わった貴子達は春樹との待ち合わせ場所となっている陸別駅のホームへと向かった。到着すると、春樹が待っていて、
「長距離の運転体験の3人の乗車手続き。窓口で終わらせたよ。今回の運転体験。ここで止まってる列車とは違う列車なんだよ。案内するよ。」
と説明した。しばらくして、運転体験の同乗係員から、
「それでは3キロの運転体験を始めますので、運転車両へとご案内します。」
との案内があり、運転体験で運行する車両へと案内された。春樹たち4人が列車に乗り込むと、春樹は同乗係員と共に乗務員室へと案内された。貴子達3人は客席で運行開始を待つこととなった。しばらくして、列車が動き出すと貴子と有美は列車からの車窓を眺めていた。貴子と共に客席で同乗していた勇輔は、さりげなく春樹が運転している先頭部分にまで近づき童心にかえっていた。春樹の長距離の運転体験は1時間で終了。ホテルに戻ると、貴子のスマホに電話がかかってきた。スマホをつなげて応対すると、江麗奈からの電話だった。
「もしもし。貴子。昨日から仕事休みをもらって北見にいるいとこの家へと遊びに来ているんだ。明日は完全休養日と聞いていたけど、明日は1日ワタシとドライブに行かない?」
「へえ。いいよね。陸別発の朝一番のバスで北見へと向かうからバスが順調に行けば北見駅前に7時半ごろに到着の予定なんだよ。」
「じゃあ、この時間に迎えに来れるようにするから。」
「明日の7時半ね。」
「北見駅で待ってるからね。」
との電話のやり取りがあった。
夕食の時間となり、ホテルの食堂に行くと、食堂では春樹と勇輔が一足早くテーブル席に座っており、勇輔の高校卒業後の格闘技での進路のことについて話していた。しばらくして、貴子を見た勇輔が、
「貴子先輩。夕食、あと15分くらいでできるみたいだよ。おそらく、もう少ししたら有美さん達も来ると思うよ。」
と声をかけた。
「勇輔君。はるくんと何を話していたん。」
と貴子が聞くと、
「春樹さんとは今まで俺の高校卒業後に移籍する先のジムのことについて話していたんだ。」
と答えると、
「そうだったん。おそらく、はるくん。話に飛びついたでしょ。」
と貴子が言うと、
「春樹さん。ここのジムに興味津々だったんだよ。春樹さんから聞いた話だけど、貴子先輩と同じように美容師を目指している女子プロ選手がいるとの話を聞いたよ。」
と勇輔が言うと、
「そうなの。」
と貴子は答えた。そうしているうちに、有美達が食堂にやってきた。
「昼はありがとうね。」
と有美は春樹に礼を言った。
「今日の夕食は一緒に食べるの。」
と有美が聞くと、
「そうするつもりだよ。」
と春樹は答えた。この日の夕食のメニューは、とんかつ定食になった。貴子達の合宿参加メンバーの4人と春樹の5人がホテルの食堂で同じテーブルでの食事となった。春樹は勇輔の隣の席に座ると、
「明日は1日練習を休みにするから、ゆっくり休んでね。」
と有美が言った。それを聞いた春樹は、
「俺、明日はホテルから日帰りで遠軽に行くつもりなんだ。勇輔君は明日はどうするつもりなの。」
と聞くと、
「明日はホテルでゆっくりするつもりだ。」
と勇輔が答えた。
「明日は久々に江麗奈と北見で再会して2人でドライブ女子旅をするつもり。江麗奈のロシア人の親戚が住む国後島を羅臼から眺める予定だから、おそらくホテルに戻るのは夜の9時過ぎになるかもしれない。明日の夜は江麗奈がシングルルームを予約していて1泊するとの話だよ。」
と貴子は言った。この日は楽しい夕食となった。
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