第27話

翌朝。貴子は江麗奈との約束の時間に間に合わせるため、北見方面行き始発のバスに乗るため5時の起床となった。起きてから手提げ袋を持って客室から出ると、フロント前の自販機で飲み物を買っていた春樹の姿を目撃した。

「はるくんも北見へ行くんでしょ。バスの時間は大丈夫?」

と貴子が聞くと、

「俺、今起きたところで。始発のバスに乗ると思っていたのかい。今から朝ごはんを食べて次のバスで北見に行く予定。今日は遠軽に行くつもりで、始発のバスに乗っても遠軽方面への各停の接続がないんだよ。」

と春樹が答えると、

「そうだったん。次のバスなの。帰るのは何時なの。」

と貴子が聞くと、

「まぁ、行き先にもよるね。予定では、遠軽からバスで紋別の間を往復するつもりだから、こちらの予定があれば、ホテルへ戻るのは北見発陸別方面行き最終のバスになるから夜の8時半過ぎになるねー。仮に、紋別に行かずに折り返しだったら夕方にはホテルに戻ることになるだろうな。」

と春樹は答えた。

「これから、ゆっくり朝ごはん食べて次のバスに乗って楽しんでおいで。もう、バスの時間になるんで行ってくるね。」

と貴子は言って下へと降りて行った。

 貴子がバスに乗り込むと、すぐにスマホを取り出し江麗奈にメールを送信した。



 今、バスに乗ったところ。2時間後に到着予定


 たかこ



 貴子が江麗奈にメールを送信してから、しばらくしてバスは北見へ向けて発車した。江麗奈は夏休みを利用して江麗奈のいとこの嫁入り先のタマネギ農家へと遊びに行っていた。ちょうど、この時期はタマネギの収穫時で、江麗奈のいとこは軽トラを運転することが多く、江麗奈の貴子との羅臼へのドライブ旅の話を聞いて、普段は江麗奈のいとこが運転している乗用車を2日間貸してくれることとなった。貴子からのメールを受け取った江麗奈は、



 これから出発するから北見駅前のバスターミナルで待ってるから


 エレナ



との返信のメールを送信。江麗奈はいとこから借りた車を運転して貴子との待ち合わせ場所へと向かった。江麗奈が運転する車が北見のバスターミナルに到着してしばらくすると、貴子が乗ったバスが到着。貴子がバスから降りるのを見ると、

「貴子。ここだよ。」

と江麗奈が手を振ると、

「今、着いたの。」

と貴子は江麗奈に手を振って2人は江麗奈が運転した車に乗り込みドライブ旅が始まった。北見を出発直後、羅臼へ向かって車を運転していた江麗奈が貴子に話しかけた。

「貴子。はるくんと同じホテルで泊まっていると聞いたけど、北見へ行くバスでは同じだったの。」

と聞くと、

「私の乗ったバスの次のバスで北見へ向かうと聞いたから、今頃バスで北見へ移動中だよ。どうも、遠軽へ行くとの話ね。」

と答えると、

「遠軽といえば、以前は紋別方面への線路が伸びていたのだが、廃線になったんだよ。ちなみに、北見のタマネギ農家に嫁に行ったいとこの旦那の親戚の中に興部に住んでいる親戚がいて、その親戚が住んでいる興部では路線存続を訴えて鉄道を利用したツアーを町をあげて度々実施していたのだが、路線存続の願いは叶わなかったのだ。」

と江麗奈が言うと、

「そうだったんだ。はるくん。これを見に行くんだ。」

と貴子は納得した。北見を出発して3時間が経ち、貴子たちは羅臼の道の駅へと到着。昼食後に羅臼の道の駅の近くにある展望台から国後島を眺めることとなった。

「この島だよ。はるくんより少しばかり年上のロシア人の叔母さんがいて、その叔母さんの夫婦が国後島で暮らしているんだ。私は何回か国後島へ行った経験があり、日本国内で発行された地図では国後島は択捉・色丹・歯舞と共に4つの島は日本の領土とされているが、実はロシアが島を管理しているんだよ。そういったことから、パスポートとビザの申請をしなければいけなく、ビザ申請の際に、ビザ発行の担当から「国後島への上陸については(日本)政府が主催するビザなし渡航への参加をお願いします。」との呼びかけをされたくらいだ。私の場合は、事情が事情なワケで渋々ながらビザを発行してもらって、ユジノサハリンスク経由で国後島へと行った記憶を思い出す。あっちには、私のいとこが3人ほどいるけど、一番年上のいとこも今年中学校に入学だから、一番小さいいとこは幼稚園児だと思うよ。3年前に行った当時は赤ちゃんだったからね。」

と江麗奈は国後島へ行った時のビザ申請の苦労話を貴子にした。

「そういえば、はるくんのシベリア鉄道の北海道への延伸構想に反対したのは、このことだったのでは。」

と貴子が言うと、

「おそらく、そのことだと思うよ。」

と江麗奈は答えた。

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