第2話

一方、杏奈は寛子に対して質問をしていた。

「高校野球の秋の関東大会では東京都の高校は出場しなかったけど、どうして春の関東大会では東京都の高校も出場するの?」

と聞くと、

「杏奈は野球のこと、ほとんどわからないんだよね。そういえば、杏奈は出身高校は女子校だったよね。そりゃ質問したくなってくるよ。なぜ、秋の関東大会では東京都の高校が出場しないのかとのことでしょ。高校野球の秋と春に開催される地方大会のうち、秋の大会は翌年の春のセンバツ出場を懸けての大会で、ここで成績を残せば翌年の春に甲子園に出場できるんだ。だが、春の地方大会は夏の甲子園地方大会のシード権を決めるためだけの大会で秋とは違い全国大会はないんだよ。だから、秋とは違い東京都の高校が出場するってワケなんだよ。ちなみに、秋の関東大会では東京都の高校は出場しない代わりに、春のセンバツ出場枠は初めから東京都には1校もしくは2校の出場枠があるんだよ。わかった?」

と寛子が答えると、

「私、野球あまり観ないんで知らなかったよ。初めて知った。」

と杏奈は納得の様子だった。帰り際に貴子は母校の高校の野球部の地方大会の結果について春菜に聞くと、

「大串は県大会の決勝トーナメント初戦で敗れてシード権は獲得できなかったんだよ。夏の地方大会の組み合わせも気になるんだよね。決まったらメール送るから。」

と春菜は答えた。

 それから1か月半が過ぎ、夏の暑さが次第に近づき始めていた。貴子も初防衛戦まで残り1か月を切った、ある日のことだった。貴子のケイタイに1通のメールが来た。春菜からだった。



 夏の甲子園神奈川大会の組み合わせが決まった。


 たかちゃんの母校の大串は2回戦が初戦で、初戦ではシード校の山北明琳館と対戦することが決まった。試合の方は、7月10日に小田原球場で開催されることに決まった。


 HARUNA



との内容だった。


 それから、1週間半が経ち、大串高校野球部の夏の甲子園神奈川大会初戦の日がやってきた。貴子は、普段通りに昼は家業の美容院を手伝い、夕方に仕事を終えるとジムへ練習に行く日課となっていた。ジムへと練習に行く前に夕食を食べながらテレビを観ていると、テレビのニュースの中で当日開催された大串高校の試合のハイライトが放送されており、大串はシード校の山北明琳館を相手に3-2で接戦を制して初戦突破となったとの情報を聞いたのだった。夜になってジムに着くと、意外な人物が出稽古に来ていた。貴子と以前対戦した経験がある小笠原寛子であった。貴子は試合が近づいていたため、寛子と軽めのスパーリングをした。スパーリング終了後、寛子は貴子に今日の高校野球の試合の話が出てきた。

「今日の試合。まさか、大串がシード校に勝つなんて、びっくりしたよ。ここ、私が幼稚園児くらいの頃は強かった時代があると聞いたことがあるよ。当時は、まだ、たかちゃんは産まれていなかったから当然知らないと思うけど。話は変わるけど、たかちゃんが以前好きだったはるくんの彼女が先生として赴任している西浜学園は今大会はシード校で、初戦は1回から打ちに打ち込んで22-0の5回コールドゲームで初戦突破なんだって。当日は、私の彼氏の光良君の弟で今年1年生で入学した光輔君が背番号18をもらって先発登板したんだよ。ちなみに、私の彼氏は光輔君が同じ高校でプレーすることには当初は反対だったんだよ。光輔君は、中学時代に所属していたリトルシニアのチームでも中心選手で、6校ほどの強豪校から来ないかとの誘いがあったみたい。そのうちの1校の静岡県にある熱海啓誠は光輔君が入学して野球部に入部したら1年生からエースナンバーを渡すとの監督からの強いラブコールがあったみたい。だけど、光輔君は、あくまでも兄貴と同じ高校で甲子園の土を踏みたいと熱望。最終的には、1年生の夏まではエースナンバーがもらえないのを承知で兄ちゃんのいる西浜学園への入学を決めたんだって。」

「兄弟揃って同じチームで甲子園かー。」

と貴子は答えた。

「トーナメント表を見たら、大串は西浜学園とは決勝戦まで当たらない組み合わせだったよね。」

と寛子が言うと、

「おそらく、ないとは思うけど。実際に対戦となれば複雑だよなー。」

と貴子は答えた。

「今日は仕事休みだったから出稽古にやって来たけど、明日から仕事が待っている。次の出稽古は、いつになるのか。救急患者が来ると多い日は想像以上に体力消耗するからね。今度、出稽古に来る時は連絡するから。」

と貴子に言って、寛子は家路に向かうこととなった。

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