第23話

貴子達3人が春樹の車に乗ると、出発前に、

「春樹君は私を助手席に乗せて稚内とサハリンとの間の事情について、もっと話したかったんでしょ。」

と江麗奈が聞くと、

「江麗奈ちゃんの言う通りだよ。そのつもりだった。江麗奈ちゃんをアパートに送ってから麗奈の待ち合わせ場所に行くつもりだったからね。」

と春樹は答えた。春樹が車を発進させると、しばらくして、

「実は、たかちゃんを助手席に行かせたのは私なの。先に私のアパートへと行くつもりでいたみたいだから、麗奈さんのいる待ち合わせ場所までの道では春樹君とたかちゃんの2人となるんだからね。たかちゃんとの試合が終わってからはプライベートでも付き合いがあるから、春樹君とたかちゃんとの学生時代の恋愛のことについても、たかちゃんから話を聞いているから。」

と江麗奈は言った。

「今は私のトレーナーで試合の時にはセコンドにも入ってくれる有美さん。有美さんが現役時代だった頃に私は一度リング上で対戦しているんだ。有美さんとの試合が決まった同じ時期といえば、はるくんは学生時代から目をつけていた石川あずさの保育園の職場の同僚の千晴先生にフられたばかりだったよね。だから、これは絶好のチャンスだと思ったんだ。私の母親は、はるくんとの交際に賛成で、結婚することも賛成していたんだよ。タッチの差だったけど、はるくんの新しい恋の方が先だったってワケ。後で石川あずさから話を聞いたよ。麗奈さんと出会っていなかったら、付き合っていたかも。と、はるくんは言っていたと聞いた。はるくんのことだから、麗奈さんとは同じ鉄オタ同士で意気投合したのでは?」

と貴子が言うと、

「ま、そういうことかな。」

と春樹は答えた。桟橋の駐車場から15分ほどして、江麗奈の住むアパートに到着。江麗奈は車から降りると、

「はるくん。今夜は送ってくれてありがとうね。」

と言ってアパートの方へと帰っていった。

 江麗奈のアパートから麗奈との待ち合わせ場所となっているホテルまでは貴子と春樹の2人きりのドライブとなった。

「プロボクサーになって初めて負けた試合の日に、はるくんと付き合いたいと告白したけどワタシ、フラれちゃったんだ。麗奈さんの職場の同僚でプロボクサーもしていた秀美さん。私達が秋に北海道旅行へ行っていた時期にプロボクサーを引退したんだ。その秀美さん、現役引退後に愛知県の至誠館高校からボクシング部の顧問として来てくれないかとのオファーがあって、4月から赴任することとなったんだ。秀美さんの至誠館高校への赴任の話が来たのが年明けすぐで、最終的に現役時代に所属していた松中ジムをやめて名古屋へ行くことにしたとの報告が2月に入ってからあったんだ。ワタシとはるくんとの詳しい恋愛感情のことを知っていた秀美さんは、ワタシが静岡へ合宿へ行く直前の休みの日に一緒にランチに行かないかと誘ってくれたので、試合が控えて減量中の中だったけどランチを楽しんで来たんだ。そこで、秀美さんはワタシとはるくんが交際して結婚することを望んでいたことを明かしたんだ。ワタシのお母さん、はるくんのお母さんと親戚になりたくて「ねえ、貴子。春樹君と交際できたら、うちに春樹君を連れておいでよ。」と言っていたからね。ちなみに、はるくんのお母さん、ワタシの地元のコミュニケーションFM局の番組で英会話の番組を持っていることを知っていたみたいで、ワタシとはるくんが結婚すればワタシのお母さんが経営する美容院の宣伝にもなると考えていたみたいなんだ。だけど、はるくん。ワタシからの告白。フっちゃったんだよね。はるくん。そういえば、麗奈さんと近々ではあるけど結婚するんだってね。幸せになってね。」

と貴子が言うと、

「麗奈と幸せな家庭作るよ。貴子さんも近々東洋太平洋のタイトルマッチだってね。チャンピオンベルトを持って来れるようにがんばってな。」

と春樹は貴子を激励した。しばらくして、麗奈の待ち合わせ場所となっていたホテルに車は到着。既にホテルの玄関前で待っていた麗奈は後部座席へと入った。麗奈が車に乗り込むと、助手席から、貴子がドアを開けて、

「麗奈さん。ワタシが後ろに行きます。前の席に来て下さい。」

と言いましたが、

「ここは私が普段座っている席だから、たまには後ろの席にも座りたかったんだ。家に着くまで前の席に座れば。」

と麗奈が言ったので、

「お言葉に甘えて。」

と貴子は答えた。

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