第107話

ニーナがホテルの部屋へと戻り、貴子と江麗奈の2人はホテルから渋谷の駅へと戻った。

「今年は今日が会うの最後になるよ。貴子。正月明け試合だってね。私も春先あたりに試合が予定されているみたいだ。三賀日明けの3連休期間中の土曜日に下北沢の山辺ジムへと出稽古に行こうよ。」

と江麗奈が貴子を誘うと、

「山辺ジムへの出稽古。いいよね。ここのジム。女子の名門ジムと聞いてるよ。江麗奈の場合は強い選手の同門の大半は男子選手だよね。女子の強い選手の多いジム。どんなジムなのか見てみたいね。」

と貴子は江麗奈の誘いに乗った。

「それじゃ。三賀日明けの3連休期間中の土曜日の午前11時に渋谷駅ハチ公前で待ち合わせしよう。」

と江麗奈は言い、約束が成立。

「それじゃ、良いお年を。」

と江麗奈は言い、

「良いお年を。」

と貴子も言ってお別れとなった。


 年が明けて3連休期間中の土曜日となった。貴子は横浜から東急東横線で渋谷へと移動。待ち合わせ場所となっているハチ公の銅像前で江麗奈と合流すると、2人はニーナの宿泊先となっているホテルへと移動。ここのホテルのレストランでランチとなった。フロントには春樹の鉄オタ仲間の親友が立っていた。レストランに入り、2人は窓際のテーブル席に座ってメニューのオーダーをした。貴子は試合が控えていたため、食事の量を少なめにするようにオーダーした。メニューを待っている間だった。

「ニーナは大晦日の羽田からの飛行機で帰国したよ。今度の来日は夏になる見込み。ニーナが夏の暑さに対して、稚内とは違って東京は暑さが厳しいよ。と言って驚いていた。3年前に東京へ来日したときは、そう言っていたね。だけど、ここ最近は東京の暑さも1つの楽しみとポジティブに考えるようになったみたいだ。」

と江麗奈は言った。

「だいたい、いつ頃来日するの。」

と貴子が聞くと、

「ロシアは日本とは違い、新入学の季節は9月なんだよ。だから、7月に入ると、すぐに夏休みになるんで、7月の七夕過ぎには来日するね。1ヶ月近く滞在することもあるんだ。今度は秋葉原の他に浅草あたりにも行こうね。」

と江麗奈が言うと、しばらくして食事がやってきた。2人は食事を終えると、渋谷駅へと戻り、京王井の頭線で下北沢へと移動した。下北沢の駅へと降りて出稽古先のジムへと向かう途中だった。美容院の前を通りかかると、若い母親が2歳くらいの子供を遊ばせている場面に出くわした。しばらくして、貴子を見た若い母親が声をかけた。

「貴子さん。久しぶりですね。近所にボクシングジムがあるけど出稽古ですか。」

と聞かれると、

「そうだよ。今から出稽古に行くの。」

と貴子は答えた。

「もしかして、ニーナが宿泊先で利用するホテルのフロントにいる明日香ちゃん。」

と江麗奈が聞くと、

「そうだよ。」

と明日香は答えた。

「夕方にご主人が仕事に戻るまで、ここで遊ばせているの。」

と貴子が聞くと、

「実は私。バツイチなの。この娘が赤ちゃんだった頃に主人とは離婚したの。主人と離婚してからは、実家のある下北沢で親と同居してるの。だから、ホテルのフロントで再就職する時に上司に休日は休ませてほしいと言ってるの。だけど、ホテルのフロント業務は忙しいから来週の土曜日は出勤になってるんだよ。」

と明日香は言った。

「知らなかったよ。大変だね。」

と貴子が言うと、

「確かに大変だよ。子供が熱を出して保育園から連絡が入ってきて仕事を早退したこともあるんだよ。貴子さんの出稽古先のジムに所属の選手にもシングルマザーはいるよ。お互いにがんばろうと言ってるんだよ。貴子さん。近々試合だってね。がんばってね。」

と明日香は言うと、

「がんばります。」

と貴子は言い、貴子と江麗奈の2人は出稽古先となっている山辺ジムへと向かった。2人が出稽古先のジムへと向かった直後に明日香は実家の美容院へと戻ると、

「明日香。奥で見てたよ。この娘がプロボクサーの吉見貴子さんね。うちの店。吉見貴子さんのトランクスの広告のスポンサーになりたいけどいい。」

と明日香の母親が言い出した。

「いやーよ。やめてよー。」

と明日香は、この提案に大声出して反対した。

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