第112話

貴子と江麗奈の2人が電車に乗り込むとしばらくして電車は串本方面へ向けて発車。3時間半の電車の旅が始まった。席に座った直後、貴子は春樹に向けて貴志川で撮った猫の駅長の写真を写メとして送った。貴子が写メを送った直後だった。貴子たちが座った席の後ろの席からメール受信の発信音が聞こえてきた。この発信音を聞いた貴子は後ろの席に向かって振り向いた。その直後だった。カップルで座っていた彼女の方から貴子に声をかけた。

「もしかして貴子。」

と反応。

「そうだよ。もしかして麗奈先生。」

と貴子が言うと、

「そうだよ。」

と麗奈は答えた。

「もしかして隣にいるのははるくん。」

と貴子が言うと、

「そうだよ。偶然だよな。」

と春樹が答えると、

「もしかして紀伊半島の南に行くの。」

と貴子が言うと、

「そうだよ。」

と春樹は答えた。

「どこまで乗るの。」

と貴子が言うと、

「終点の新宮までだよ。」

と春樹は答えた。

「私たちは太地までだよ。しばらく一緒だよね。春樹君たちは後ろの席でしょ。私たちは前の席だから太地まで4人掛けでいこうよ。」

と江麗奈が春樹と麗奈の2人に呼び掛けた。

「そうだよね。偶然にも同じ電車に乗り合わせたから4人掛けにしようよ。」

麗奈が江麗奈の提案を受け入れた。

 席を4人掛けにして対面式にした直後、車内放送が流れてきた。

「まもなく、海南に到着いたします。」

との車掌からのアナウンスがあった。貴子たちの乗った電車は海南に到着。電車が海南を出発すると、次の停車駅の御坊まではノンストップでの旅となった。電車が海南を出た直後に4人の話が始まった。話が始まった直後には車窓からポルトヨーロッパが見えてきた。

「これから、どんどん南に下がっていくけど、南に下がれば下がるほど綺麗な風景が待ってるよ。」

と麗奈が言って話が始まった。4人の会話の前半は麗奈が引っ張ることとなった。

「私達の行く紀伊半島の南は有名な神社やお寺が集まっていることで熊野三山とも呼ばれているんだ。有名な神社が地方でありながら3つも存在するんだ。私たちが行く新宮にも速玉さんと言われている熊野速玉大社があるんだよ。ここ最近は『紀伊半島の霊場と参詣道』が世界遺産に登録されて外国人観光客も多くなったとの話も聞くんだよ。貴子たち2人の行く太地にしたって鯨の町として有名で古式捕鯨発祥の地として全国的にも有名な町なんだよ。」

と麗奈が話を切りだした。

「そういえば、日本は戦後のタンパク質源として鯨が重宝されたんだ。学校給食でも鯨は馴染みが深いんだよ。しかしながら、1980年代後半に国際社会は捕鯨禁止の風潮が強まり、鯨の食文化を巡っての欧米諸国からの日本いじめが社会問題となったんだよ。だが、日本は捕鯨を続けさせてくれと国際捕鯨委員会に訴え続けてきた。日本は30年にわたって訴え続けたが、その訴えは通らず日本は国際捕鯨委員会から脱退。日本と同様に鯨のことで訴えていたアイスランドが一度は国際捕鯨委員会から脱退したことで日本も後を追うように脱退したんだ。欧米諸国で日本の意見に賛同したのはノルウェー、アイスランド、ロシアの3か国くらいだ。」

と春樹が鯨の食文化のことについて話を進めた。すると、

「私、鯨の食文化。興味あるよ。」

と江麗奈が言い出した。

「私の出身地が北海道の稚内で日本人とロシア人のハーフだということは知ってるでしょ。ユジノサハリンスクに住んでいる私のいとこのニーナは日本のサブカルに興味を示して日本語を勉強したんだよ。ニーナは秋葉原に行きたくて度々、日本に来るよ。ニーナが来日した時に、いずれは太地で鯨を食べたいとも言っているんだよ。鯨の食文化では日本とロシアは仲がいいと思うね。政治的な問題では仲が悪く、国後島にいるロシア人の親戚の家に行くときには、あちらへ行く入国ビザを渋られながらも発行してもらった過去もあるんだ。だけど、あちらの親戚も日本には行きたがってるよ。もっと、日本とロシア。仲良くなればいいけどなー。」

と江麗奈は言った。

「僕は以前、太地に行ったことがある。太地に行く前から鯨料理の店にも行って鯨は食べている。だが、国内の捕鯨発祥の地で食べる鯨は格別だったよ。東京で食べる鯨とは違っていたね。学校給食でもおなじみの鯨の竜田揚げは美味しかったよ。食べる機会があれば、ぜひ食べてください。」

と春樹は言った。春樹はスマホを取り出して太地の道の駅のサイトをアクセス。江麗奈と貴子の2人に太地の道の駅の鯨を紹介。

「もし、行く機会があったら、ここの鯨の竜田揚げ食べてみな。1カップ500円だから。」

と太地の道の駅へ行くことを勧めた。

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