第21話

東京湾納涼船に乗船の当日。貴子は江麗奈との待ち合わせ場所となっていた新橋駅にいた。しばらくすると、江麗奈と貴子の出稽古先のジムに所属する綾香と2人で落ち合うこととなった。

「今回の東京湾納涼船は合コンだよ。お座敷プランで6人での予約にしたよ。残りの3人は男性陣で、こっちは車で竹芝まで来るとのことらしいよ。」

と江麗奈が言った。貴子達3人は夕方になると乗船手続きを終えると男性陣3人が待っているお座敷へと向かった。座敷席に着くと、通路を挟んで隣のテーブルには春樹がいとこたちと共に8人で夕食を楽しんでいた。偶然、春樹と目が合った貴子は、

「はるくんも同じ船に乗船したんだ。偶然だよね。」

と貴子が春樹に声をかけた。

「西村江麗奈と平尾綾香と一緒に乗船か。女子プロボクサー3人そろい踏みってワケかー。」

と春樹は言った。

「今回は江麗奈が合コンを企画して、東京湾納涼船で合コンパーティーをすることとなったんだ。」

と綾香が言った。

「はるくん。今回一緒にいる人達は誰なの。」

と貴子が聞くと、

「今回一緒に乗船している、いとこの弥生ちゃんの10歳になる娘が『ゆかたダンサーズ』のライブが観たくて、弥生ちゃんに度々ねだっていたんだよ。そんな中、弥生ちゃんの仕事と娘の小学校が共に休みの日に『ゆかたダンサーズ』のライブに連れて行ってあげるとの約束をして、これを観るために船に乗ることとなったんだよ。今回は、もう1人のバスの運転手をしている裕二君といういとこも仕事が休みで家族で乗船。当初は麗奈も乗船の予定で9人での予約となっており、交渉の結果9人のうち3人が小学生以下の子供ということで予約は成立となった。だが、その話が出て間もなく麗奈の高校の同僚の先生が結婚することとなっており、その同僚の先生の結婚式が東京湾納涼船乗船当日と同じ日に行われることが決まり招待状のハガキがやって来て、今回の乗船の予定は麗奈は職場の同僚の先生の結婚式に出席するためキャンセルとなったんだ。」

と春樹は答えた。貴子は弥生の娘を見て声をかけた。

「『ゆかたダンサーズ』のライブが観たいんだ。ライブは夜の8時からだよね。楽しみ。」

と聞くと、

「楽しみ。私、『モーニング娘。』に憧れて幼稚園の頃から芸能学校でレッスンを受けてるんだ。実は憧れのメンバーもいるんだ。いずれは、こっちにも興味が出るかもしれない。」

と答えた。

「今回の船に乗る計画は弥生ちゃんが美月ちゃんのために用意したんだよね。僕は夜景の灯りさえ見れたら、これでいいんだけどね。」

と春樹は言った。しばらくして、

「日も暮れてきたし、そろそろ最上階のテラスで夜景を見ようか。」

と弥生が言うと、

「ママ。わたしも行く。」

と美月が言い、弥生と美月は夜景を見るため席を離れた。

「はるくん。レインボーブリッジ見に行かないの?」

と貴子が聞くと、

「今の時間。テラス混みあってるだろ。下船前に、もう1回見れるチャンスがあるから、こっちの時間の方が夜景はきれいだよ。」

と春樹は答えた。

「はるくん。学生時代はケイタイ持たせてもらえなかったから幼稚園の先生になったんだろ。」

と貴子が聞くと、

「まあ、そうだけど。スポーツも電車も好きだし。」

と春樹は答えた。

「春樹。実は、俺も高校卒業までケイタイもパソコンも持たせてもらえなかった。俺の親父。そこの部分は厳しくて、この2つのうち、パソコンを持たせてもらえたのは大学に入学してからだった。こんなものは高校までは必要ないと言われたんだ。」

と裕二は言った。

「そういえば、父方の親戚が集まると、俺の両親と裕二君の親父は、よく話をしていたな。教育の面でも社会の動きの話でも話が合っていたみたいで。いとこたちの中で、俺達以外の他のいとこたちは中高生でケイタイ持たせてもらえていたね。」

と春樹が裕二に聞くと、

「そういえば、そうだ。春樹と同級生の和馬にしたって中学生からケイタイ持ってたな。今、席から離れている弥生にいたっては小学生からケイタイ持たせてもらってたんだよ。」

と答えた。

「俺の家に弥生ちゃんが遊びに来ると、中学生になってからはメル友のところへ度々メールを送っていた。おまけに、この時期からSNSもやりだして、ツイッターとインスタは度々更新しているんだって。おそらく、レインボーブリッジの写メをインスタにアップしているはずだよ。同じ先生の家の子供でもケイタイに対する価値観は違うよな。親父から見て2人いる姉うちの上の姉にあたる弥生ちゃんの母親はコミュニケーションツールとしてケイタイは小学生から持たせてもいいと思っていたようだから。」

と春樹は言った。

「テレビのニュースでも聞いた。先生によっても考えは違うよな。」

と裕二はつぶやくように言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る