第30話

「今度は冬に行きたいなー。北浜駅でオホーツクの流氷を見たいなー。」

と春樹が言ったのを聞いた江麗奈は、

「あっ。思い出した。香織ちゃんにメールを送らなきゃ。」

と言ってスマホを取り出すと、北見にいるいとこに陸別への到着のメールを送信した。

「北見にいるいとこって日本人なんだ。」

と春樹が聞くと、

「そうよ。北見に嫁いだいとこは春樹君と同い年なんだよ。」

と江麗奈は答えた。

「そういえば、はるくん。夕食は?」

と貴子が聞いたので、

「夕食はホテルで食べたよ。」

と春樹が答えると、

「紋別には行かなかったんだ。」

と貴子は言った。

「今日は貴子と2人で1日ドライブ旅したんだけど。日中は私が車を運転したんだけど、訓子府で夕食を待っている間に稚内にいる忍にメールを送ったんだ。春樹君が行った遠軽駅の事情について聞くと、忍からの返信のメッセージによると、今は駅のホームがスイッチバックとなっていてホームの線路の先には車止めがあるみたいだ。かつては、車止めのある先に線路が伸びていて紋別を経由して名寄まで行く線路が伸びていたんだってね。」

と江麗奈が言うと、

「もちろん、この路線があったことは知ってるよ。だけど、この路線を廃線にしたこと。JR北海道は経営面での失敗だったと思うよ。もし、今も路線が続いていたら東南アジアを中心に外国人観光客で賑わっていたのではと思われるよ。実に、もったいないことしたと思うな。現在、JR北海道は著しい経営難になってるみたいだけど、興部の住民達は路線存続を訴えたけど願いは叶わなかったんだよ。この路線を廃線にしたことで北海道全体の経済が疲弊して最終的にはシベリア鉄道の北海道への延伸をしなければ過疎化に歯止めがかからない結果となってしまったのではと思われるんだ。」

と春樹は言った。

「話は変わるけど、たかちゃん。東洋太平洋タイトル挑戦だってね。こっちのタイトルを獲得したら、世界タイトルマッチ挑戦も見えてくるからがんばってね。それから、たかちゃんとの試合に敗れてから試合から遠ざかってきたけど、10月に試合が予定されており、チャンピオン目指して、また、がんばるから。今度の試合、応援に来てね。」

と江麗奈が復帰戦のPRもしていた。


 それから1か月後。貴子の東洋太平洋タイトルマッチ初挑戦まで残り1日となった。前日計量の会場に貴子と対戦相手となるチャンピオンの秋野屋まさえとの初対面となった。前日計量は両者共に合格となり、いよいよ明日の試合を待つこととなった。前日計量会場で貴子は秋野屋まさえと顔が会い、

「フライ級で女子高校四冠の西村江麗奈を相手に1ラウンドにダウンを奪われながらも逆転KO勝利したんだってね。吉見貴子。なかなかやるじゃん。明日の試合はワタシが必ずベルトを守る。」

と秋野屋まさえからの挑発にも近いメッセージがあった。

「あなたが、どれだけ強い選手かは知ってるよ。対戦できて光栄だわ。」

と貴子も秋野屋まさえにメッセージを送った。

 前日計量が終わって、貴子は会場で待ち合わせていた美保とちえみの2人と共に3人で計量明けの行きつけのファミリーレストランで食事となった。食事を待ってる間に、

「たかちゃん。明日の試合、私からはるくんに応援に来るように誘って、応援に来ることとなったんだよ。」

とちえみが言った。

「早い段階で、たかちゃんの試合が決まったんで明日までの2日間有給休暇もらったんだ。今まで、あまり会場に足を運ばない美保ちゃんも今回の試合は大きな試合なんで応援に来ることにしたんだよね。」

とちえみが言うと、

「今回は、たかちゃんの試合。観に行きたかったんだ。」

と美保は言った。

「私達3人。小学校の頃からの付き合いだからね。がんばるよ。」

と貴子が言うと、

「今回の対戦相手を知って、はるくんが心配してるよ。KOされないように。絶対に勝ってチャンピオンベルトを持ってきてね。」

とちえみは貴子を激励した。食事が終わると3人は貴子の翌日の試合に向けて家路へと向かった。


 その日の夜。貴子のスマホにちえみからのメールが届いた。



 明日は私の誕生日。

 たかちゃんには試合に勝ってチャンピオンベルトを持ち帰って私の誕生日を祝ってね。

 試合、がんばってね。


 ちえみ



 ちえみからのメールを受け取った貴子は返信のメールを送った。



 そういえば、明日は9月15日だったよね。

 明日の試合。絶対に勝ってチャンピオンベルト見せたいね。


 貴子



 貴子にとっては期待と不安が入り混じる東洋太平洋タイトルマッチ初挑戦の前夜となった。

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