第11話

それから1か月半が過ぎて、いよいよ計量日まで残り2日となった。貴子はジムで体重を計り終わると、家路へと急いで帰った。翌日の朝も普段通りのコースでロードワークをしていると、有里の実家の酒屋の前で有里が里紗を遊ばせていた。里紗が通う幼稚園が冬休みとなって実家へと帰省していたのだ。しばらくして、有里が貴子に声をかけた。

「たかちゃん。試合、いよいよ2日後だね。2か月前に、たかちゃんのいとこのちえみさんと北海道へ旅行したんだって。おみやげ、ありがとうね。そういえば、たかちゃん。北海道からの帰りの飛行機で今度対戦する西村江麗奈と席が隣同士になったんだってね。2か月後の再会は試合でということで、今度はリング上でやりあわなきゃいけないんか。とにかく、試合がんばってね。当日は会場まで応援に行くから。」

と言うと、

「今度の対戦相手はアマチュア時代に女子高校四冠の経験がある若手のホープ。かなり手強い相手だけど、絶対に日本チャンピオンのベルトは守らなきゃ。勝って防衛したいね。」

と貴子が答えた。

 計量日当日。貴子は北海道旅行の帰りの飛行機で隣同士となって以来、2か月ぶりに今回の対戦相手となる江麗奈と再会した。両者共にフライ級のリミットいっぱいの50.8kgで計量は一発で合格となった。当日は、計量明けの行きつけのファミリーレストランで有里と待ち合わせることとなり、久々に有里と2人でのランチとなった。食事の間の2人の話の中で、

「はるくんに彼女できたということは知ってるよね。」

と有里が聞くと、

「知ってるよ。」

と貴子は答えた。

「たかちゃんとはるくんを付き合わせたかったの実は私だったの。はるくんが二股恋愛できないことは私もかねてから知っていたんだ。それもあって、たかちゃんとはるくんが付き合ったら、どんなカップルになるのかと想像していたのも事実なんだよ。実は私。たかちゃんが、はるくんの膝に膝枕する姿を見たかったんだ。」

と有里が言った。

「有里のことだろ。おそらく、そうだと思っていた。私がプロボクサーとなって初めて試合に敗れた日に私は、はるくんに交際を申し込んだ。この時に対戦した対戦相手の選手がボクシングジムの会長から伝えられた時期は、はるくんは当時恋心を寄せていた保育園の先生にフラれたばかりだったんだ。だから、以前、はるくんは私にプロポーズした経験もあったから強く告白して交際を申し込むつもりだった。初黒星を喫した試合の当日まで、私は、はるくんに好きな女性がいるなんて知らなかったからね。初黒星を喫した試合終了後に、ちえみからメールが届いて、はるくんに交際を申し込んでも、たかちゃんはおそらくフラれていたとの内容が書かれていたんだ。だけど、これがきっかけで私はボクシングで日本チャンピオンになったんだ。別の意味でボクシングには感謝している。だから、はるくんと麗奈の交際は私からも実るようにと応援してるんだよ。」

と貴子は答えた。

「そういえば、たかちゃんがプロ初黒星を喫した時期は、レンタルビデオ店に行く機会が多かったな。男の人が借りるようなDVDを観ること多かったから。」

と有里は当時のことを振り返っていた。

 試合当日。当日のイベントでは貴子のジムからは貴子と真理奈の2人が出場となった。真理奈は当日のイベントの最初の試合となる女子ライトフライ級4回戦に出場となり、1ラウンド1分19秒TKO勝利となり、3年ぶりのリングとなった復帰戦を白星で飾り、次戦以降は6回戦の試合に出場が可能となるB級ライセンスへの昇進を果たした。今回は圧勝となり、ほとんど傷がない綺麗な状態でリングから帰って来た真理奈は、試合を控えていた貴子に対して、

「試合、がんばってね。」

とのメッセージを送って奥の部屋へと下がっていった。

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