第16話 浴場プロジェクト

 3軒目に水道を設置したのは魔物研究所、というかクラフマン伯爵家だ。

 もう、ここのメイドさんは完全に俺の味方である。


「あら、久しぶりね。次期公爵様。」


「公爵っていうのは、都市長の兄弟です。俺には関係ありません。」


「ああ、ケンギって捨てた女には冷たいのね……」


「そこは何度でも謝罪します。申し訳ありませんでした。」


「私の心を分かってくれるのはマール達だけよ。」


 マ-ルというのは、グレイウルフの子供たちのうち1匹の名前だ。


「いつの間にか愛人の数も増えてるし……」


「ああ、この子はルナ。銀色の髪が奇麗なんですよ。」


「ルナでございます。」


「それで、何の用なの?」


「今日は水道の設置です。所長から申し込みをいただきました。」


「水道?」


「厨房に、直接水の出る配管を敷設します。」


「そんなのよりも、早くデンキをつけなさいよ!」


「デンキの方は、あと10日くらいで工事を始められると思います。」


「ホント!」


「それで、ここにも水道をつけますか?」


「水道があれば、お茶が飲めるの?」


「デンキを使えるようになれば、いつでも飲めますね。」


「では、ここにもお願いします。」


 こうして研究所にも水道を引く事になった。



「さてと、じゃあ、城のジェネレータ設置をやっちゃおうか。」


 メンバー10人で手分けをしてジェネレータ設置と城の中の配線および器具の設置を行う。

 それと並行して公爵邸にも5人まわして対応させている。

 公爵邸は城の隣だからケーブルを埋設して、城で発電したデンキを使うのだ。


 城の住居部分と公爵邸の寝室には、スイッチの他に小さいライトをつけ、夜中にはそちらを点灯すれば眩しくないだろう。

 人数を多く投入したおかげで、その日のうちに全ての作業が終わった。

 勿論、ライトをつけた時には大歓声があがった。

 それは公爵邸でも同じだ。


 ちなみに、城の配線は職人が作ったものだが、無事に点灯している。

 公爵邸はうちで作ったアルミの電線だ。


 その7日後には伯爵邸の一画にもジェネレータを設置し、照明の点灯が始まった。

 そちらの作業にあたっては、1軒あたり金貨30枚を負担してもらっている。

 

「ケンギ、貴族からデンキ設置の依頼が凄いのだがどうする?」


「まあ、銅とゴムを調達しないとどうにもなりませんよ。」


「そ、そうか……」


「宰相、電線を作っている職人の手当はどうなっていますか?」


「月に金貨1枚を出している。」


「そうか……、じゃあ、今後のデンキ設置の負担金は1軒あたり金貨150枚にしましょう。」


「150枚か。確かに銅が高騰しているし、採掘や精製を含めて考えると妥当だな。」


「うちと城とで収益は折半にしましょう。」


「君のところはそれで大丈夫なのかい?」


「まあ、特殊な素材を大量に使いますから赤字ですけど、一部には導入しちゃいましたから仕方ないですよね。」


「あははっ、クラフマン伯爵のところに敷設するのは、当時婚約者の実家だったんだから仕方ないよな。」


「それで、通り沿いに設置を考えている屋外照明ですが、城はいくら負担してくれますか?」


「そうだな、設置費込みで、1本金貨2枚でお願いできないだろうか。」


「いいですよ。町の防犯対策には避けて通れないですからね。設置場所の検討は電気課に任せていいですか?」


「ああ、よろしく頼む。」


 その日、またエルザ王女につかまった。


「ねえ、噴水の広場につけた灯りって、発電機じゃないんでしょ?」


「発電の仕組みが違うんだ。昼間太陽の光で発電して、それをためて夜使っているだけだよ。」


「あれを家に設置して、厨房と居間に照明をつけたらどうかしら?」


「問題が2つある。一つは貴少な素材を使っているのと、もう一つは天気が悪いと発電できない事なんだよ。」


「そうなの……、いい発想だと思ったんだけどな。」


「誰のアイデアなんだ?」


「侍女よ。町から通っている子なの。」


「そこはエルザの長所だな。それでいいと思うよ。」


「えっ?」


「ダニエラは集中力が凄いから、自分で考えるだけなんだ。エルザはコミュニケーションの能力が高いだろ。だったら、人を集めて意見を聞けばいいんだよ。」


「それって……もしかして、褒めてる?」


「そうだな、エルザは積極的で周囲を巻き込む力がある。例えば、エルザが首長でダニエラが企画部長って感じだな。あとは組織をコントロールできる人材がいれば完璧なんだがな。」


「コントロール?」


「例えばアイラだな。今回、研究所の一画に電気を導入できたのはアイラの根回しと交渉力。特にメイドを通じて当主をその気にさせたのが大きかったんだ。」


「アイラにそんな能力があったなんて……」


「あはは、人前では面倒くさがり屋で、そういう素振りはみせないんだけど、メイドからの信頼度はすごいんだぜ。」


「……ダニエラが企画……アイラが調整……そういう事なの……」


「えっ?」


「ううん、何でもない。それで、アイラとの婚約解消はどうなったのかしら?」


「まだ結論は出てない。俺としては、アイラの希望には応えてやりたいんだ。」



 次は風呂だ。

 水路課のスタッフには、我が家の風呂を体験してもらってある。


「貴族街と平民街、両方同時に進めるんですね。」


「あっ、総務局で街灯の設置場所検討用の地図を貰ってきましたから、これで検討しましょう。」


「それ、電気課用じゃないのか?」


「2部作ってもらったんですよ。うちでも水路の敷設申し込みがありますからね。赤字は水路を表しています。」


「へえ、いい仕事するね。」


「自分で考えて動かないと、局長一人に突っ走られちゃいますからね。」


「局長?」


「あっ……」


「あはは、ケンギさんの事ですよ。副都市長補佐官といいながら、実質は局長ですからね。我々はみんな局長と呼んでます。」


「だから、俺は平民だからね。変な肩書つけられちゃうと偉い貴族様に目をつけられちゃうでしょ。」


「いやいや、奥さんが公爵令嬢の平民なんていないですよ。」


 俺の下につけられた水路課・電気課・食品開発課にはそれぞれ課長がいるのだが、実体は一つの組織になっている。

 だから、今回の浴場プロジェクトの10名は、それぞれ別の仕事もかかえている。


「貴族街・平民街という呼び方も変えていきましょうよ。南街区・北街区とかにしたほうが差別感がなくなるでしょう。」


「賛成ですね。ダニエラ様は、そういう意識をお持ちですからね。」


「じゃあ、北街区は闘技場の前の噴水広場の横。ここに2軒分の空き家があるので、ここを買い取って作ったらどうでしょう。」


「いや、男性用と女性用が必要だから、それだけじゃ狭いでしょ。」


「じゃ、広場を削る?」


「ねえ、この間この辺を馬車で回ってみたんだけど、この一画って崩れかけた廃墟みたいだったと思うんだけど……」


 俺が昔いた場所だ……


「そこって、浮浪者や孤児が住みついてたと思うよ。」


「じゃあ、強制的に退去させて作り変えるとかどうだ?」


「それ、局長出現以前のやり方ですよ。」


 何だ、俺が凶悪モンスターみたいになってるじゃねえか……


「……、じゃあさ、噴水広場横の建物を作り変えて、宿屋みたいな小部屋がいっぱいある住居を作って引っ越しさせればいいんじゃねえか?


「でも、子供だけじゃ生活できないわよ。」


「だったら、その浮浪者に子供の面倒を見させりゃいいだろ。生活費は俺が負担する。」


「お待ちなさい。それは、私たちが担当します。」


 何故かエルザ王女とアイラとダニエラが現れた。



【あとがき】

 おっ、いい感じに……

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