第2話 バハムート

 神人歴612年

 突如北からやってきた竜神バハムートは、毎日数百人の人間を喰っていった。

 この時には、多くの亜人が特別兵として徴兵され、各地に配備されていった。

 

 バハムートの厄災により、多くの町が壊滅的被害を受けていき、国は疲弊していった。

 10年も過ぎると、国は抵抗をやめ、被害の多発する東部の町には亜人を送り込んで、人間は西に移動させた。

 こうして、西は人間中心の町となり、東は亜人中心の町のなって、人口の分布が著しく偏っていったのだ。


 約30年続いたバハムートの襲撃は、ある日を境にピタリと収まってしまった。

 ほぼ亜人だけになっていた東側の町は、連合を組んで団結し、数年度に独立を宣言した。

 当然だが神人国側はこれを認めず、亜人国への侵略を繰り返すのだが、身体能力に優る亜人国の抵抗は激しい。

 やがて、神人国は隷属魔法を開発して亜人を従わせ、身体能力に長けた亜人は前線に送り、そうでない亜人は生活奴隷と切り分けていった。

 亜人を繁殖させるブリーダーも数多く存在する。



「じゃあ、今の前線は、亜人同士が戦ってんのか?」


『そうなります。』


「隷属魔法って解除できないのか?」


『隷属の首輪って道具が媒体になっているんだけど、ムリに外そうとすると爆発する仕組みなんだ。』


「……無限収納は使えないかな?」


『試してみる価値はあるかもね。』



 俺は神人側の前線基地に忍び込んで、寝ている兵士の首輪を収納に取り込んだ。


「大丈夫みたいだな。」


『これなら、兵士を解放できるわね。』


 俺は100人近い亜人の首輪を外し、8人の人間族を捕えた。


「お、俺たちはどうしたらいい?」


「東に向かい、白旗を掲げて亜人族の部隊に合流しろ。」


「その後は?」


「前線にいる他の亜人も解放するから、全部解放するまで動かないように伝えてくれ。」


「分かった。」


 俺は、前線にいた約2千人の亜人を解放し、150人の人間族を捕虜にさせた。


 人間は夜になると火を使うから、上空から探せば一発で分かってしまう。

 こうして、前線に展開していた人間族の部隊はいなくなった。


 亜人族の総隊長に、スライムである俺を信用させるのは手間だったが、それでも外した2000の隷属の首輪をみた総隊長は信用せざるを得なかったようだ。


「それで、お前は何を望むのだ。」


「国王への謁見と、最終的には神人国にいる亜人を全員解放したい。」


「まあ、半分は一旦王都に戻さねばならん。その時ならば陛下への取次も可能だろう。」


 そして俺は亜人国の王都に入り、国王への謁見を果たした。

 正式な謁見式の後で、俺は会議室で国王と面会している。


「ほう、お前がガラル博士の遺作なのか。」


「そうなるな。」


「だが、何で女なんだ。他に子供はいなかったのか?」


「仕方あるまい。母は私を産んですぐに亡くなってしまわれた。父は後妻を娶らなかったのだ。」


 魔王は鬼人族の女だった。

 先代が昨年亡くなったために、戴冠したそうだ。


「まあいい。だが、婿は迎えんのか?」


「色々と難しいのだよ。スライムに言っても分からんだろうがな。」


「ところが、中身は18才の健全な男子なんだよな。どうだ、俺を婿に迎えんか?」


「ククッ、面白い提案だが、スライムを婿に見返るなど民が許さんだろう。そもそも、種がなかろう。」


「それは、試してねえから断言はできんが……」


「冗談はさておき、何が望みだ。」


「こんな体だし、望みなんてねえんだが、個人的に奴隷ってのは好きじゃねえんだ。」


「ほう。」


「だから、神人国の奴隷を解放してやりてえ。」


「それは私も同じ想いだが、そのためには神人国を支配する必要がある。どう考えても、実現は困難だろう。」


「例えば、向こうの国王に隷属の首輪をつけて従わせる。」


「奴らの用心深さは、亜人国の比ではないぞ。」


「じゃあ、もし俺がやれたら、俺の嫁になるか?」


「よかろう。だが、出来なかった場合はどうする?」


「そうだな、半年以内に実現できなければ、お前の兵士になってやろう。」


「私はお前の力を知らないのだが?」


「何か狩ってくればいいか?」


「そうだな、いるのかどうか知らないが、バハムートでも狩ってきてもらおうか。」


「北から飛んできたとか言ってたな。いいだろう、探してくる。」


「そういえば、名前を聞いてなかったな。私はリーチェだ。」


「サエモンと呼んでくれ。」


 俺は城のバルコニーから、北へ向かって飛んだ。

 体を薄くして、三角に変形する。

 草原を超えると山岳地帯、その先に広がる森と草原の先は海になる。

 

 500km程飛んだところで大きめの島が点在しているのが見えた。

 木は針葉樹に変わっている。

 平均気温が低いのだろう。


 3つ目の島の中央付近で、馬のような動物を襲う黒いドラゴンがいる。

 大きさは15m程だろうは、背中には翼が見える。

 一気に急降下に移った俺に気づいた奴は、口を開いて火の玉を放ってきた。

 それを難なくかわしてメタル化した細い糸を放つ。

 黒いドラゴンの首は、あっけなく地に落ちた。



「ワイバーンなのか確証はねえが、黒い翼持ちのドラゴンだ。」


「あ、ああ、少し小さい気もするが、この短時間でこれを狩ってきたんだ。お前の力は信じよう。」


「じゃあ、神人国に行ってくる。」


 嫁とか本気で言った訳じゃない。

 そもそも、嫁にしたところで何かできるわけでもないし、俺にメリットはない。

 だから、単なる冗談なのだ。


 神人国の城、夜になっても人は残っている。

 目当ては魔法開発の部署……多分魔法局というのがそうだろう。

 透明になって、それらしい資料を探す。

 特に魔法に関する資料は全部吸収していく。


 そして、資料棚の半分を吸収したところで、目当てのものを見つけた。

 隷属の首輪に関する資料だ。


 人気のない部屋で首輪を一つ無限収納から取り出して開錠の手順を実行していく。

 5個のステップで、無事に開錠する事が出来た。

 同じように100個開錠した俺は、M7号と一緒に新しいステップを開発した。


 俺の開発した隷属の首輪は、完全に自我を奪って服従させる首輪と、従来と同じキーワードにより爆発する仕組みだが開錠不可能な首輪だ。

 つまり、俺の無限収納でなければ対応できないものなのだ。


 収納にあった2000個の首輪全てを改造した俺は、区別できるように服従の首輪には赤、隷属の首輪には青い塗装を施してある。


 夜明け前、国王の寝室に忍び込んだ俺は、獣人の反撃にあった。


「ネコの獣人……忍者みてえだな。」


「……」


「俺は亜人の奴隷を解放して回っているんだ。邪魔するなよ。」


「……なぜ、スライムがしゃべっているんニャ。」


「元は人間だった。」


「それが……ニャ?」


 会話をしながら、手を細く伸ばし、ネコの首輪に触れた瞬間に収納したのだ。


「これでお前は自由だ、亜人国へ行け。」


「ダメニャ、兄弟がいるニャ。」


「場所が分かるのなら解放してやる。」


「分かったニャ。」


 俺は国王に青い首輪、王妃に赤い首輪をつけた。

 部屋を移動し、王子には青い首輪。王女には赤い首輪をつけた。


 そして二人を国王の寝室に連れていき、全員を起こした。

 男二人はマヒ状態にしておき、王妃は王子、王女は国王に対して性衝動を感じるように指示をした。


「お前たちの開発した首輪を加工してある。外そうとしたら爆発するからな。」


 こうして俺は、2日で城の要職を服従させた。



【あとがき】

 2話目……

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