スライムの中の人
第1話 魂だけが呼ばれた男
俺の名は上村左衛門。
何を隠そう、21世紀に生きる高校生だ。
名前の由来は、戦国時代の真田幸村にある。
歴史バカのオヤジのせいでつけられた名前だが、〇〇モンというのはゲームやアニメでもポピュラーなので、古臭い印象はない。
そんな俺だが、登校中に暴走トラックに撥ねられた……と思う。
確証がないのは、衝撃もなく唐突にブラックアウトしたからだ。
目の前に迫るトラックが接触する直前になって、プツンとスイッチが切れるように視界が暗転したのだ。
意識が切れた後どうなるかというと、カチャッとかブンとかいうタイムラグがなく、視界がいきなり切り替わるのだ。
トラックのあった場所には、大きなモニターが存在しており、そこには白衣を来た醜悪な初老の男が映っていた。
「聞こえるか?」
声は天井から聞こえた。質の悪いスピーカーから聞こえるような声だった。
「誰だお前は!」
「おお、ついに魂の定着に成功したぞ!」
「魂の……定着?」
「そうじゃ。古代魔法を研究し、30年目にして初めて成功した魂定着術じゃ。」
「魔法だと?」
「クククッ、魔物を合成して作った最強の身体に、魂を定着させたのじゃ。」
「魔物の体?」
「そう、物理と魔法に耐性を持ったスライムの身体に、古代龍の生命力と悪魔王の魔力、そしてアーティファクトから生みだした人工精霊を合体してある最強のボディじゃ。」
「ちょっと待て!スライムの体だとぉ!」
「その体と能力で、人間界を征服するのじゃ!」
「しねえよ。というか、元の世界に戻しやがれ!」
「ワッハッハッ!魂だけのお前に、そんな事ができるハズないだろう!」
「なん……だと……」
「まあ、人間界を征服した時には、褒美としてその願いを叶えてやっても良いがの。」
『ブーッ、ただいまの発言は89%の確率で嘘だと判定いたします』
「ど、どういう事だ。その前に、誰だお前。」
『私は人工精霊M7号。ご主人様の意識に直接話しかけているので、外部には聞こえません。』
「嘘だという根拠は?」
『心拍数・血圧・瞳孔およびマブタの状態から判断いたしました。』
「何を言っておる!」
「人工精霊が嘘だと教えてくれたんだよ。」
「くっ、余計な事を……」
「それで、元に戻る方法はねえのか?」
「古式魔法を解析していけば、見つかる可能性はある。」
『嘘はないようです。』
「だけどよお、時間がかかっちまったら俺の身体は確実に死んじまうだろ。」
「そこは、わしには分からん。」
仕方がないので協力する事にした。
俺の身体は30cm程のスライムだった。
アニメで見たような、水色の饅頭型体形。
人工精霊のM7号に指導されながら、身体を動かす訓練だ。
モニターの下には、ゲームのコントローラーのような方向キーと左右にそれぞれ2個のボタンがある。
見にくいのだが、左右の端にもうひとつずつボタンがある。
うん、多分LボタンとRボタンだ。
もう一つ、登録と書かれたボタンがあった。
M7号によれば、直前のアクションを音声登録できるらしい。
Aボタンがジャンプで、Bボタンがしゃがむ。
CボタンがパンチでDボタンがキック……いや、手も足もないのだが……
AボタンとCボタンを同時に押すとタックルでA/Bボタン同時押しだと、円盤状のカッターになる。
今のところ、他の組み合わせは機能していないようだ。
MP(魔石ポイント)というのがあって、これは特殊攻撃をする時に消費され、補充するにはモンスターの魔石が必要との事だった。
「これ、全部のボタンを押すとどうなるんだ?」
『全部のボタンを押すとね……あっ!』
ピッ!という音がして、モニターが真っ白になった。
MPはゼロになり、目の前は2mほどの穴が空いていた。
穴ができる前は、件の白衣の男が立っていたのだが、跡形もなかった。
『……スライム砲っていう究極兵器になるから、使わないでね……』
俺は”登録”ボタンを押して、スライム砲を音声登録した。
まあ、これで人類と戦う理由は消えた訳だ。
制約のなくなった俺は、ひたすら鍛練と実践に明け暮れた。
研究所の外は深い森になっており、戦う相手には事欠かない。
そして、研究所にあった資料から、開発者の男は魔王軍の兵器開発トップであり、副将軍級の男だという事も分かった。
もちろん、俺にこの世界の文字は読めない。
読んでくれたのはM7号だった。
研究資料の中には、俺の拡張機能に関するものも多く残っていた。
素材さえ揃えば実現可能だという。
俺の目標は決まった。
体のメタル化と体内への無限収納装備だ。
ジェット噴射も捨てがたいし、保護色も役に立ちそうだ。
必要な素材は多いが、持ち歩く必要はなく、体の中に取り込んでおけば、全部そろった時に技として使えるようになるらしい。
研究所内の資料については、体内に吸収する事でM7号がいつでもモニターに表示してくれる。
俺は全ての資料や巣材・機材を身体に取り込んで旅に出た。
人間との接触は、可能な限り回避した。
そして、実践を繰り返すうちに、パンチを繰り出す腕?や足?の長さと威力が伸びていく。
少し経った頃に、LボタンとRボタンにより、魔法モードと物理モードに切り替える事が可能となった。
魔法モードでは、A/火、B/水、C/風、D/土の4属性が使用可能であり、同時に押せば氷魔法を発動する事も可能だった。
俺にとって最大の悩みは、移動速度の遅さだった。
ピョンピョンと飛び跳ねて移動するのだが、どうみても人間の歩く速度と大差なかった。
それでも、食事と睡眠が不要である事から、戦闘時間を入れて1日で80kmの移動は可能だった。
「よし、アークドラゴンの爪ゲットだぜ。これで、保護色が使えるんだな。」
保護色は、背景の色彩を身体で再現するだけでなく、変形や任意の色に体色を変化させることができた。
次はクラーケンのクチバシを手に入れてジェット噴射。
空を飛べるようになった事で、シルバーワイバーンの被膜を手に入れて、無限収納。
ゴールドスライムの核を手に入れて、メタル化も実装した。
無限収納に魔石を保管しておけば、スライム砲を放った後でもPMを魔石で回復して色々な魔法や攻撃スキルを発動可能になる。
この頃には、身体を糸のように細く伸ばす事も可能となっている。
これをメタル化する事で、実質的には斬撃を放てるようになった。
斬撃を放って息の根を止め、魔石を収納して体を吸収する。
これが俺の攻撃パターンになった。
そして、L/Rのパターン切り替えも、同時押しによるEXスキルという項目が追加された。
『これなら、人類の殲滅も95%可能だと判断できます。』
「しねえよ!人類殲滅に何の意味があんだよ。」
『魔王軍で幹部になれます。』
「魔王軍なんて興味ねえし。だいたい、魔王ってのは何なんだ?」
『亜人国の国王の事ですよ。』
「えっ、魔王って人間なの?」
『この大陸には、神人国と亜人国があります。』
「えっ、神なんて存在するの?」
『自称ですよ。千年前は、神人国しかなく、亜人たちは神人国で奴隷として使われてたんです。』
「それが、反乱でも起こしたのか?」
『977年前、竜神バハムートという存在が北から現れました。』
【あとがき】
今度こそ、1万文字以内に納めるぞ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます