第13話 特別国務調整官
「ルシア王女、こんな辺境までよく来られたな。」
「ウフフッ、私には王国最強の宮廷魔道具師がついていますからね。」
「まったくなぁ、こんなに優秀だと分かっていたら、町を出る事なぞ許さなかったんだが……」
「い、いやだなあ。町を出たから、色々覚えられたんですよ。」
辺境伯バルガス・フォート。
オヤジとは遠縁になるらしい。
だから、俺との血のつながりはない。
「で、帰ってくるのか?」
「ムリっしょ。こんな荷物を背負わされちゃいましたから。」
「ちょっと、ヨクサ!それはないんじゃない!」
「無理やりキスされて、王女はキスした相手と結婚しなくちゃいけないとか、ホント、騙されました。」
「それバラしちゃダメでしょ!」
「まあ、魔道具が周辺まで行き渡ったら考えますよ。」
「私は、どこでもいいわよ。」
「まあ、国王がお前たち二人を手放すかどうかだな。」
挨拶に寄っただけなのだが、引き留められて泊まる事になってしまった。
うちに王女を泊まらせる訳にもいかないから、丁度良かった。
辺境伯は、町にいた時に面識があり、城に住むようになってからも、何度か顔をあわせている。
貴族なのに、気をつかわせない好人物だった。
「やっぱり、サバクのウサギ料理は美味しいですね。」
「お前の持ってきてくれた魔導照明のおかげで、料理が旨く見えるから不思議だよな。」
「人間は、目でも食事を楽しむっていいますからね。」
手土産代わりに、魔導照明を5個持ってきて据え付けたばかりだ。
だが……
「何でベッドが一つなんだ……」
「別に、今更じゃない。婚約してるんだし。」
「そ、そういう問題じゃない。」
結婚まで、肉体関係はダメだと国王からクギを刺されている。
俺だって14才の健全な男子だ。
同じベッドで寝るという事は、生殺しを意味している。
結局俺は悶々とした状況で朝を迎えるのだが、どうもこの女は、メイドたちに色々と吹き込まれているふしがある。
布団の中で抱きついてきたり、胸を押し付けてきたりしながら上目遣いで見てくるのだ。
辺境伯の屋敷を辞した後で、家に帰る。
オヤジと母さんは目を丸くして驚いてくれた少し元気がない。
言い淀む両親だったが、それでも理由を確認すると、アルトが借金を抱えたまま町から逃げてしまい、その返済に苦労しているのだという。
「それで借金は?」
「貯えてあったお金で半分は返したのだが、まだ金貨15枚の借金が残っている……」
俺は金貨300枚を渡して、王女を連れて帰ってきた時に泊まれるような家を建ててほしいと頼んだ。
王女基準で考えてもらえば、それなりの家を建ててくれるだろう。
スライム牧場を続けるのは構わないが、アルトがいない以上、人を雇うように頼んだ。
それから、メイドを雇って家の事を任せ、母さんには俺の魔道具を専門に販売する店を経営してもらう。
これは、領主である辺境伯の了解をとってあり、スタッフを派遣してもらう話しもつけてある。
俺はサバクにある魔道具師の工房へも行って、魔導照明の下請けを頼んだ。
サンプルと書き込み済みの魔石300個を渡して実家に納品してもらうようにしたのだ。
サバクでの手配を終わらせた俺は、ツリトのドランさんを訪ねた。
ここでも魔導照明を作ってもらうのと、発火の魔石を渡すためだ。
献上品の件は手紙で伝えてあるし、改良型魔導調理器の事も伝えてあったので、話しは速かった。
ドランさんは嫌がったが、工房を広げてもらって、弟子をとってもらうのだ。
ちなみに、渋るドランさんを説得したのは王女だった。
国民の生活向上を訴えるルシアさんの頼みを断れる訳がない。
こうして城に戻った俺たちは、国王の呼び出しを受けた。
「空の旅は楽しかったか?いいよな、二人だけで勝手に出かけられてよぉ。」
「イヤですわお父様。たかが2泊して、辺境伯とヨクサのご両親にご挨拶させていただいただけですわ。」
「今回のはあくまでも魔道具の動作試験です。ついでに、サバクとツリトへの魔導照明普及の調整もやってきました。非難される事はございません。」
「ふん!婚姻前の性行為は絶対に許さんからな!」
「承知しておりますわ。ただ、もしそれを破ったらどうなりますの?」
「くっ……その時になったら考える……」
「そうですね。王籍から除外いただいて、国外追放というのは如何でしょうか?」
「ルシア、そんなに陛下を虐めるものじゃありませんわ。単に、あなた達を僻んでいるだけなのよ。」
「うっ……、と、ともかくだな、サバクまで1日で往復できる移動手段を持つのだから、それを国政に活かしてほしい。」
「国政に?」
「ルシア、お前を特別国務調整官に任ずる。」
「何ですの、それ?」
「今朝の閣議で決定した。地位は副長官に準ずるもので、俺の直属となるが、総務局から2人副官を手配する。席も総務局に用意してある。」
「任命済ということは、拒否権は……」
「ない。当然だろう。」
「……これって、実質ヨクサ頼みの仕事じゃないですか!」
「ヨクサの力をあてにしてはいるが、お前の資質を活かす仕事だ。町の実体を把握して、必要があれば各局を動かして対応させろ。それだけの権限は与えてやる。」
俺たちは早速副官の二人を呼んで打ち合わせを行う。
二人とも30才前後の独身で、茶色い髪と緑の瞳が特徴的だ。
男性のルイは、身長178cmのイケメン男性で、女性のマリアはセミロング、ポニテのメガネ女子だ。
「もう、何をやったらいいのよ……」
「とりあえず、今回の視察と同じように、魔導照明の現地製造から取り掛かろうよ。」
「賛成ですわ。王都以外での普及は遅れていますので、町で制作できるようになれば、いろんな意味で活性化を図れます。」
「そうですね。データは少ないですけど、約30%の商店が営業時間を3時間ほど延長していますし、それにより、売り上げも4割程増えているようです。」
「そんなに!」
「僕らのような、仕事帰りの勤め人が買い物をするようになったんですよ。今までは、帰る時間には店が閉まっていましたからね。」
「それだけじゃありませんわ。ランプ由来や料理系の火災も40%減少し、殺人・傷害・強盗等も30%以上減少しています。」
「ルシアの発案だった街灯の影響も大きいようだね。」
「購買が増えた為に、生産のための雇用も増えていますからね。それがまた購買力の強化に繋がって、他の製造業も活性化してます。」
「となると、その次に必要なのは輸送力の強化かな。」
「物流ですね。具体的なアイデアはあるんですか?」
「空を飛ぶのが一番速いんですけど、それだと輸送量も限られちゃいますから、やっぱり直線で町を結ぶ道と、馬車ではなく魔道具を推進力にした乗り物の開発ですか。」
「町までの平均が300km。馬車だと15日くらいですよね。これをどれくらいに?」
「最低でも、1日で往復できるようにしたいですね。」
「……可能なんですか?」
俺は思いついたものを紙に書いてみた。
「こう、半分土に埋まった感じのドームで……、鉄製のパイプを作って、それを囲うような形状の乗り物……」
推進力はジェット噴射で、浮かせた本体をゴム付きの車輪でサポートすれば、時速50kmくらいは耐えられるだろう。
すぐに、各局を横断したチームが組まれ、知識や技術が持ち寄られた。
特に注目されたのは石灰石を粉にして、水で解いて固める技術で、これを鉄棒で編んだ枠に塗りつけると耐久性が跳ね上がるという。
こうして、拠点間高速移動プロジェクトが進行していった。
【あとがき】
スライム人第一部完です。
くそっ、短編が書けない……
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