決戦

 アリサ用なら首輪だな……とか考えながら素材を選んでいく。

 黒いレースのリボンに魔石の粉を練りこみ、正面にミスリル銀の台座を作って妖精の瞳と呼ばれる青い宝石を嵌め込む。

 レースの中央部分に、薄く伸ばしたミスリル銀を一周させて、その3mmほどの表面に踊る妖精を彫っていく。

 台座の裏にアリサの首輪と銘を切り、気が向いたので台座に妖精女王の彫刻をしてみる。

 まあ、全部気まぐれの仕様だが、素材にはこだわりの一級品を使ってみた。


「コレハ」


「アリサ専用に首輪……じゃない、チョーカーを作ってみたんだ。つけていいかな?」


「ハイ」


 俺はアリサの首にチョーカーをつけて仮固定した。

 こいつには付け外し用の金具なんてない。

 最後はフォーミングで仕上げて固定するだけだ。

 外す時には、切るしかない。


 俺はチョーカーに魔力を巡らせて、フォーミングのスキルを発動した。

 ミスリル銀が淡く発光し、宝石に反射した青い光がチョーカーの彫刻部分を反時計回りに走っていく。

 こんな事は初めてだった。

 俺自身の魔力をごっそり持っていかれた感じだった。


 ステを確認すると、1000あったMPが5まで減っていた。

 あわれれ、魔力ポーションで補充する。


 出来上がったチョーカーは、ミスリル銀の彫刻部分が青く変色していた。

 アクセサリーとしては上出来だが、鑑定には妖精の首輪と表示されただけで、効果が判別できない。

 まあ、アリサが喜んでいるから、良しとするか。



 アリサの動きはどんどん洗練されていった。

 突き技をバク宙で躱しつつ、壁を蹴って一直線に突っ込んでいく。

 武器が爪であるため、それだけ相手に接近しなくてはならない。

 当然、危険が増す行為であるのだが、俊敏さを高める事でそれを可能としている。

 しかも、ネコの特性があるため、空中で体制を変える事もできるのだ。


 数日後、サグラダがやってきた。


「状況はどうなんですか?」


「30人のチートプレイヤーを用意できたよ。何かが起こっても対処できるように、操作は遠隔で警察官が行う。」


「チートキャラが30人ですか。期待できそうですね。」


「もう一つ、実はメンテナンス用のゲートがあったんだ。」


「へえ。それをどう使うんですか?」


「そこから、新しいチートキャラを50体送りこめるようデータを作成中だ。」


「もしかして、戦闘特化型のキャラですか?」


「驚くなよ。同社の人気ゲームから、最強キャラを出してもらったんだ。」


「あの会社で人気ゲームって……」


「ついこの間コラボをしたんで、グラフィックスやデータが残っていたんだ。」


「えっ、コラボって……あの不評だったやつ……」


「ああ、いくら何でもDB(ドラゴンバースト)に人型機動兵器はないだろうって見向きもされなかったあれだよ。」


 その3日後、準備ができたと連絡があり、俺はスマホのビデオ会議で現地の様子を中継してもらっている。


 送られてくる映像では、既に30人のチートキャラと、人型機動兵器ガンザクが50体待機しており、その先に霧に覆われた城が見える。


 攻撃開始!と怒鳴ったのは、警察のお偉いさんだろうか。

 ガンザクの発射したグレネードランチャーが城を破壊していき、瓦礫の中から2キャラ分のグラフィックを使った”ヨグ=ソトス”が姿を現した。

 イメージは黒い翼の生えたドラキュラか。

 そいつには、腹にも大きく裂けた口があった。


 ガンザクは、グレネードや自動小銃・ビームライフル等で遠隔攻撃を始める。

 期間限定のコラボでは、ガンザク変身用の装備品やアイテムが課金グッズとして登場した。

 装備品は平均で5000円で販売されており、全部で31品目に及んだが、お得なセット販売もされており、5万円と高額であった事から、俺たち高校生には手が出なかった。


 そもそもが、剣と魔法の世界に科学兵器を登場させ、飛や超遠隔攻撃・レーダー誘導なんてものを入れてしまったせいで、大きくゲームバランスが崩れてしまった。

 なので、プレイヤー同士の暗黙の了解により、使用の自粛となっていた装備なのだ。


 そんな禁断のフル装備をしたキャラが50体。

 流石に最強キャラの総攻撃を受けて”ヨグ=ソトス”も徐々にHPを減らし、40分程で5%以下となった。

 そして、少しの時間が過ぎた頃に、エフェクトと共に現れるピンクのスライム。

 それが”ヨグ=ソトス”に吸い込まれると同時にHP全回復。

 

 これがあと2回繰り返されるのだ。

 そしてガンザクの方も、HPを半分くらいまで減らしている。

 こちらも外部ユニットからエネルギーの補給を受けている。

 

 うん、中世ヨーロッパ風、剣と魔法のRPGの光景ではないよな。


 そうして、2回目、3回目のピンクスライム出現。

 既に4時間近く経過している。

 4回目にHP83万を切って全員がラストスパートに入ろうとした時、またしてもピンクスライムが現れた。


「ピンクの奴は3回じゃなかったのかよ!」


「仕様ではそうなっていたハズだ……大丈夫、いつかは限界がくる。」


「警察の方も疲れ切ってるじゃねえか。」


「交代で休憩させてる。任せてくれ。」


 だが、10回を超えてもピンクスライムは出現していた。


「なあ、HPが838,860を下回ってから、ピンクスライムが出現するまでの時間を確認してくれねえか?」


「そんなものを測ってどうするんだ?」


「……冒険者を動員して、回復される前にHPを削り切る。」


「可能だと思うのか?」


「一撃で一人1万削れば84人で足りる。5千なら168人だよ。」


「全HPを攻撃に乗せるバーストモードか……」


「自爆みてえなもんだから、何人賛同してくれるか分かんねえけどな。」


 ピンクスライムが出現するまでの時間は28秒だと分かった。

 クランで状況を説明し、賛同してくれる人を募った。


「お前は、この町に残ってろ。後の事はサグラダに任せてあるから。」


「ワタシモ」「タタカウ」


「あのなあ、俺にとっちゃただのゲームだ。このキャラがHPゼロになっても死ぬわけじゃねえ。お前とは違うんだよ。」


「ミンナ」「シヌノ」「イヤダヨ」


「サーバーが正常に戻れば、また復活できるんだ。”ヨグ=ソトス”の野郎は絶対に倒してやる。だから、お前はここで待っててくれ。」


 愚図るアリサを部屋に残し、ロックした。

 キーボードからPASSを入力しないと開けられない。

 後でサグラダにPASSを教えて出してもらえばいいだろう。


 俺はクランの賛同者を引き連れて町間の転移装置で移動し、戦場までやってきた。

 スマホで”ヨグ=ソトス”のHPをチェックしながら全体に伝える。

 

「残りHPは120万、あと10分くらいだ。装備品のチェックをしてくれ。巻き込んで悪いが頼むぞ!」


「「「おー!」」」


 カウントダウンだ。

 90万……85万……84万……3……2……1……


「イケーッ!」


 ガンザクの横をすり抜けて”ヨグ=ソトス”に駆け寄り、鍛冶のハンマーを振り上げてバーストモードを発動する。

 300人を超えるメンバーのうちの何割かは”ヨグ=ソトス”の攻撃を受けて消滅していくのが見える。

 攻撃全振りの一撃にクリティカルが上乗せされ2万を超えるダメージを与えた。

 HPの残り”1”だったのだが、頭に衝撃を受けてゼロに。

 見上げる視界に、クルクルと回りながら”ヨグ=ソトス”に襲い掛かるネコ娘の姿。

 白く霞む視界と、右手を振りかぶりながら”ヨグ=ソトス”に襲い掛かるアリサの首から眩しい程の青い光が広がり、モニターはホワイトアウトした。



【あとがき】

 痛み止めの座薬と湿布、低周波治療……

 小説を考えていると、多少は痛みを紛らわす事ができます

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る