政府だって本気で動いているらしい
俺はクランを設立して、入れる人には加入してもらい、設立済のクランとは同盟を結んだ。
これで、情報を共有できる。
集まってくれたプレイヤー全員に、最初からの経過を説明し、考えられる可能性についても公表した。
当然だが、他にも同じようなNPCを抱えたパーティーがあり、支えあっていこうと約束した。
大きな問題の一つに、一度ログアウトしてしまうと戻れなくなると言う事。
だから、学校や会社へ行っている時や眠っている時も、ログイン状態を続けてほしいと頼んだ。
そうして、俺たちのパーティーはひたすらレベル上げに励んだ。
そんな中、SNSにとんでもない書き込みがあった。
別の町で同じようなNPCを抱えたパーティーのプレイヤーだと名乗ったそいつがいうには、レベル上げ中にアクマみ遭遇したという。
画面上に表示された名前は”ヨグ=ソトス”。
表示されたHPは約1677万だったと書かれている。
レベル150の4人パーティーで、削れたのは1000程だったらしい。
そしてNPCは喰われ、パーティーは壊滅してデッドアウト。当然だが再ログインはできないため、NPCがどうなったか分からないとの事だった。
「1677万って、多分16進数のFFFFFFだよね。」
「……データ上に存在するってことは、討伐可能かもしれないって事か……」
「HP残1で、全回復される可能性もあるでござるよ。」
「NPCがどうなったか分からないって書いてあるけど、喰われたんだろうよ……」
「クワレル」「ノカナ」
「町の中にいれば安全だよ。」
「その保証はないけど、」
その翌日、SNSに運営会社のリークと思われる書き込みがあった。
”ヨグ=ソトス”は、ボス戦攻略後に登場する裏ボスの設定で、グラフィックスも存在するし、パラメータもあるとしてデータが公開された。
そして、政府は行方不明者の一覧を公開し、原因は調査中との見解を示した。
当然だが、家族の同意を得られた人だけが公開されており、指名非公表者を入れて現在93名だという。
アリサの名前も、その中にあった。
そんな中、俺にDMが届いた。
警察の関係者だと名乗るそいつは、アリサと家族を合わせたとの事で、パーティに加えてほしいと言った。
そうか、家族をプレイヤーの家に呼べば、会話する事は可能なんだな。
俺はアリサの同意を得て、そいつ”サグラダ”をパーティーに入れた。
サグラダのところに来ていたのは母親だったようだ。
母親は開口一番、何でそんな姿なのかと問い詰めた。
俺達は、この状況にすっかり馴染んでおり、すっかり失念していた。
下着姿のネコ娘コスというのは、親にしてみれば……というか、俺の人格を疑われても仕方ない。
来たのが父親だったら、多分俺の家を突き止めて突撃してくるんじゃないか。
俺ならそうする……
とはいえ、サグラダ側でも説明してくれたみたいで、10分程の説明で理解してくれた。
あとは親子タイムである。
体調はどうだとか、お腹は空いてないかとか、足りないものはないかとか……
30分ほど会話をして母親は返したみたいだ。
「いやあ、警察内部で、ドラゴンバーストをプレイ中の職員探しが始まってね。名乗り出るのは抵抗があったんだけど、まあ仕方ないよね。」
「じゃあ、今は自宅勤務なんですね。」
「そう言う事。5人が僕のマンションに泊まり込みで対応してるよ。」
「それで、状況はどうなんですか?」
「政府と運営会社と警察が、裏の対策チームを組んでいるよ。」
「裏?」
「上層部は、公にはアクマなんて認めないからね。」
「あははっ、そんなものを認めたら、国民はパニックになりますよね。」
「宗教団体も動き始めてるしね。サーバーの設置場所にエクソシストを派遣するとか言ってるしね。」
「サーバーに聖水とかかけさせないでくださいよね。」
「サーバーのある建物は、厳戒態勢に入ってるよ。電力会社へも協力要請して、万一に供えて電源車も待機させてしね。」
「そうか、サーバーを落とせば……」
「だけど、取り込まれた人たちがどうなるか分からない。かといって、これ以上被害が広がるのは困る。」
「ピンクのスライムはどうなんですか?」
「ゲームデータ上は、”ヨグ=ソトス”のペットとして存在するらしい。”ヨグ=ソトス”自体は回復手段を持たないんだけど、HPが5%以下になった時に出現して、3回まで全回復するんだとさ。」
「それって、9000万くらいダメ与える必要が……」
「そう。残っているプレーヤーは推定5000人くらいだから、一人2万くらい削ればクリアかな。」
「チートは使えないんですか?」
「運営会社で用意していた無敵キャラが5人。そのうち、メンテナンス中だった2人を除いてログイン中が3人いるんだ。」
「じゃあ、その人たちにクリアしてもらえば。」
「3日前に、一人が”ヨグ=ソトス”に挑戦してるんだ。」
「3日前?」
「そう。残っていた動画を確認したところ、HPを1000万削ったところで、画面に変な光のパターンが現れて、そのプレイヤー意識不明に陥っている。まだ昏睡状態だよ。」
「キャラの方は?」
「発見された時の状況では、ゲーム機本体のCPUが焼けて死んでたそうだ。」
「このゲームは、プレイヤーのデータは、サーバー側でござるか?」
「いい着想だね。データ自体はサーバー側なんだけど、プレイ中のデータはゲーム機側にある。」
「……ディスプレイを見ないで攻撃して、CPUを外から冷却。それとキャラデータの上書きですか。」
「今、対策チームがその方法を試している。政府や運営会社にもプレイヤーがいるからね。」
「じゃあ、俺たちは行動を控えた方がいいんですね。」
「そうしてくれ。」
他の被害者のケアがあるからとサグラダはパーティーから出ていった。
当然だが、ここで知った情報は外部に漏らさない事を約束させられた。
運営会社と警察が組んでいる時点で、俺たちの個人情報なんて筒抜けなんだろう。
外に出る事のできない俺たちにできる事は、町のトレーニングジムを使って、スキルの熟練度をあげる事だけだった。
経験値は手に入らないが、スキルの熟練度をあげる事で、クリティカルが出やすくなったり、上位のスキルを覚える事だってあるのだ。
俺たちは3人が4時間交代で、24時間アリサを鍛え続けた。
そして、レベルは上がらなくても、パラメータは上昇していく。
鍛冶職の俺は、腕力に特化したキャラだが、暗殺者は全体が満遍なく上がっていく。
特に、脚力や知力、反射速度や会心率の上昇は気持ちいいくらいだ。
くそっ、やっぱり女キャラにしておくんだった。
暇な時間には、アクセサリー作りに励んだ。
本来なら、鍛冶職が作るのは武器と防具なのだが、なぜか俺はアクセサリー作りを習得していた。
SNSで聞いても、鍛冶職がアクセサリー作りを習得した前例はない。
多分、ウサ耳とかバニーコス、ウサ尻尾なんかを作り続けたバグなんじゃないかと思っている。
バグで得たスキルなら、バグ効果のあるアクセサリーだってできるんじゃないか。
そう考えて、アクセを作りまくった時期もありました……はい。
アクセ作りというのは、素材を組み合わせて望む形状に成形すると、素材の特性に応じて効果が現れるのだ。
例えば鉄を使うと防御力が1から2上がる。
ここに魔石の粉を混ぜると、魔法防御力が1から10くらいまで上がる。
魔石をそのまま使った場合は、装飾品としての効果が優先されて、魅了の効果がついたりする。
ネコ娘コスなら、首輪かチョーカーだろう。
この首輪とチョーカーに明確な違いはない。
一般的に人用のものをチョーカーと呼んで、ペット用のものを首輪と呼んで区別しているらしいのだが、ネコ娘の場合はどっちなんだろう。
疑問が残る。
【あとがき】
3話、それとも5話まで引きづるか……
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