NPCは眠らない

こ、こいつは期待できる!

 西暦2024年11月

 小田急線町田駅の改札前で、俺はピンク色のスライムを目撃した。

 30秒程の時間だったが、俺は確かにスライムを見た。

 そして、一人の女性が同時に消えていくのを……


 俺はケント。

 17才の高校生だ。

 身長は人並みでやや体重オーバー。

 今はオンラインRPGドラゴンバーストにド嵌りしている。


 町田で見たスライムは、どう考えてもDB(ドラゴンバースト)に出てくるスライムの色違いにしか思えなかった。

 そんな中、SNSでは、DBのトングの町にNPC(ノンプレイヤーキャラクター)……つまりプレイヤー以外のキャラクターが増えているとの情報が出てきた。

 それも、会話で表示されるセリフは「どこなのココ」とか、「助けて」とかいう、ゲームとは無関係と思えるものばかりだというのだ。


 DBはゲーム機とスマホ両方でプレイする事もできるが、ゲーム機版の方が機能的に充実しており、家が持てたり武器や防具を錬成する事もできる。

 俺も錬成職人のスキルを持っていて、トングの町で武器屋を開いていたりする。

 普段は自動販売モードにしてあるのだが、この日は俺が店に出ていた。

 そこへ、女性の客が一人入ってきた。

 他に客はいない。


「いらっしゃい。」


「タスケテ」


 違和感を感じた。

 プレイヤー同士はキーボード入力をして会話する。

 カタカナを使うのはNPCの特徴だ。

 もちろん、プレイヤーがふざけてカタカナを使う事もあるのだが、どうも感じが違うのだ。


「何を助けてほしいの?」


「カエリタイ」


「どこへ?」


「モリノ」


「森の中?」


「チガウ」「マチダ」「モリノ」


 矢継ぎ早に語りかけてくる。

 町田市森野……俺の家からも近い。

 町田で見たスライム……消えた女性……見たことのないNPC……


「ドラゴンバーストって知ってる?」


「……」「ゲーム」


「プレイした事はある?」


「ナイ」


 俺はカウンターの外に出て、話しかけた。


「今、君にパーティー申請を出すから、表示されたらOKボタンを押して。」


 NPCをパーティーに入れるなんて聞いたことがないが、試してみるしかない。

 何かをしてあげたくても、パーティーを組まないと、物をあげる事もできない。


「アカイ」「ナニカ」「デタ」「ヨメナイ」


 文字がバグっているのだろう。

 だが、赤いボタンは表示されているようだ。


「その赤いのを押してみて。」


「ワカッタ」


 次の瞬間、パーティーモードの画面に切り替わった。

 これで、ある程度のステータスは分かるし、装備も見ることができる。


 思った通り、レベルやパラメータは初期値であり、この状態では外に出たら一発で死ぬだろう。

 所持金はゼロで、装備は布の服と布のズボン。武器や兜・靴、アクセサリーはナシの状態だった。

 キーボードなしの状態で装備を変更するには、このパーティーモードから装備させるしかない。


 俺は自分のストレージから、自分では装備できないが最高レベルの防具や、初心者でも扱える高火力武器。

 ステータスを底上げするアイテムなどを彼女のストレージに移した。


「名前は?」


「アリサ」


「俺はケントだ。」


 それから俺は、アリサに装備の仕方をレクチャーした。


「そうそう。そしたらアイテムボックスが開くから、黄色くなってるところをタップすると……」


 その瞬間にアリサのグラフィックが変化した。


「キャッ」「ケント」「スケベ」


 アリサの上半身の装備品が、”妖魔のブラ”に変わっていた。

 アリサは上半身を抱え込んでしゃがみこんでいる。


「ゲームのグラフィックスなんだから恥ずかしがる事はないだろ。」


「デモ」「……」


「水着だと思えばいいだろ。」


 嫌がるアリサに、ちょっとだけ興奮しながら、下半身には”魅惑のパンティー”そして足には”ネコ娘の尻尾”を装備させた。

 何故”ネコ娘の尻尾”が足の装備品なのかはSNSでも話題になったが、”可愛いから許す”事で決着した。

 やっぱり頭には”ネコ耳”だよな。

 そしてこのコンボで威力を発揮する”ネコ爪”を両手に装備させてやる。

 

「ヘンタイ」「キモオタ」「エロメガネ」


「全部当たってるから反論はしねえよ。だけどなあ、初期値5だったパラメータが、軒並み300を超えてるだろ。」


「ホントダ」


「それに、村人だったジョブ欄が暗殺者に変わってるだろ。これもこの装備の隠し特典なんだ。」


「ナニソレ」


「”村人”と”暗殺者”じゃあ、レベルアップ時のパラメータ上昇が全然違うんだ。レベ1からこの状態ってのは、本来あり得ねえんだぞ」


「イミフ」


「この装備ってのはな、全部激ムズのクエストをクリアした戦利品なんだ。そのくせ、女性キャラしか装備できねえんだぞ!俺がどれほど苦労したか分かってんのかよ!」


「ゴメン」


「いいさ、だけど問題は……アリサの実体が、このゲーム内にしか存在してない可能性があるって事だ。」


「ドウイウ」「コト」


「俺たちがゲーム内で死んでも、直前のセーブポイントから復活できる。」


「ゲーム」「ダカラネ」


「だからって、アリサが復活できる可能性が分かんねえんだ。そもそもが、セーブポイントが使えるのかどうかもな。」


「ソレッテ」


「死なねえように注意しろって事だ。」


 とりあえず、俺たちは町の外に出て、レベルアップに励んだ。 

 レベル30までは10戦程で到達。

 この町の周りは、そこそこ強いモンスターが出現するのだ。



 そしてSNSではDBに関する騒動が起きていた。

 ログイン出来なくなっているという騒ぎが起こって、運営会社からはサーバーが暴走状態なので使用を自粛してほしいという公式発表が行われた。

 色々な町に現れ始めたピンクのスライムは、回数が増えて動画が公開されるようになると、同時に消えていく人間も話題になってくる。

 

 俺は知り合いに連絡して、ログイン中の者に手助けを頼んだ。

 二人の知人が見つかったので、店で待ち合わせをしてパーティーに加わってもらった。

 残念ながら二人とも戦闘織ではないが、仲間が増えるのは心強い。


「ケント君はこの装備をコンプしてたのかい。イヤイヤ変態だね。」


「ワタシ」「ドウイ」「シマス」


「で、でも、この質感は堪らないでござるよ。」


「ネカマのボクでも、最初の耳と尻尾だけで諦めたくらいだからねぇ。」


「ネカマ」


「ネット上のオカマ。つまり、中身は男って事だよ。」


「ソウナノ」「ヘンタイ」


「ああ、そんな蔑まれると、ゾクゾクしちゃうじゃないか……」


「本題に入ろう。彼女を現実世界に戻す方法があるかどうかだ。」


「各町に、同じようなNPCが現れてきているらしいでゴザル。」


「その割に、ログインできないから、プレーヤーの数は減る一方だってさ。」


「ピンクのスライムに連れてこられたって考えると、非現実的な存在の関与が疑われるね。」


「……」「カミ」「アクマ」


「妖怪や精霊。異次元人……」


「目的は何でゴザルか?」


「考えられるのは、侵略、実験、捕食くらいかなあ。」


 とにかくアリサのレベルをあげて強くしようという事で、4人でフィールドに出て狩りをしまくった。

 危険だと分かっていても、スキルを磨いてもらわないといけない。

 セーブポイントへも行ったのだが、アリサのセーブはできなかった。


 暫定目標のレベル60に到達したので、半日ぶりに町に戻った俺たちを大勢の冒険者が迎えてくれた。

 それは、SNSに書き込んだ状況を聞いて集まってくれた冒険者たちだった。

 


【あとがき】

 合法的にネコ娘コスのカタコトキャラを誕生させたぞ!

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