スライム調律師

スライム調律師

「柔軟性5、体表硬度4、保湿度2だね。少しガザミ草の量を増やした方がいいよ。」


「でも、この子ガザミ草食べないんですよ。」


「そういう時はね、アサギの貝殻をすり潰してかけてやれば食べるハズだよ。アサギはスライムの大好物だからね。」


「分かりました。ありがとうございます。」


 私の名前はアスミ。

 栗色の髪をポニテにした15才のEランク冒険者です。

 まだパーティーには入っておらず、ソロで低ランクの依頼をこなす毎日を過ごしています。


 そんな私が数日前に見つけたスライム。

 私にはビビッとくるものがあり、1週間かけて慣らして、町で有名なスライムトレーナーに見てもらったんです。

 でも、彼はごく普通のスライムであり、目立つものはないと評価されたのです。



 最弱の魔物と言われたスライムが注目されたのは、80年程前だと聞いています。

 元々、打撃や魔法効果を軽減しているのではないかと言われていたのですが、王都の魔物研究チームが解析に取り組んでその仮設が正しいと検証されたんです。


 ところが、ゼリー状のスライムからは素材として使える部位がなく、”スライムの活用”という目的が断たれようとしていた時に、とある魔物使いがとんでもない発表を行いました。

 元々、調教によって人に懐くと言われていたスライムですが、その魔物使いは犬と同じようにスライムを命令通り動かしてみせたのです。


 とは言っても、所詮モンスターです。

 最初は下級層が面白がってペットとして飼いはじめ、次第に色付け、香り付けされた調教済みスライムが貴族にも広がっていきます。

 こうなってくると、人々は自分のスライム自慢を始めるようになり、様々なコンテストが開催されると共に、それらを統括する団体が発足します。


 冒険者ギルドには、スライム捕獲が常設依頼として表示されるのですが、国内のスライムが飽和状態になってくると、スライムを消費させるためにスライムを戦わせる闘技場が登場します。

 当然ですがこれは賭けの対象となり、ギャンブル性をもった大衆娯楽として定着します。

 

 現在の市場では、能力値の高いスライムは高値で取引され、冒険者は今でもスライム捕獲に精を出しています。

 なにしろ、最高値のスライムならば、金貨10枚という高額買取も存在するのです。

 ちなみに、金貨1枚あれば、私なら1年は生活していけます。



「ふう、君は凄いって思ったんだけどね。」 


「ピギーッ!」


 町の外の草原を散歩している時でした。


「ピギッ?」


「うわっ!」


「えっ?」


「ペッペッ……何だスライムか。」


「ご、ごめんなさい。こんなところでお昼寝されている方がおられると思わなくて……」


「まあ、こんなところで昼寝していた俺にも落ち度があるんだが……、このスライムは面白いな。」


「えっ?」


「内側がここまで柔らかいスライムは見たことがねえぞ。」


「そうなんですか?」


「内側が柔らかいってのは、表面の硬度や柔軟性よりも評価されていいんだ。だが、勘違いするなよ。」


「何をですか?」


「攻撃手段を持ってねえから、闘技場で活躍するスライムじゃねえって事だ。」


「どういう事ですか?」


「防御に特化したスライムなんて、闘技場じゃ勝てねえんだよ。」


「じゃあ、どうしたらいいんですか?」


「ちゃんと育ててやれば、こいつが活躍する場所はフィールドだな。」


「フィールドって……」


「普通の依頼討伐やダンジョンだな。」


「つまり?」


「お前と一緒に討伐に参加させるって事だよ。」


「ムリですよ。私Eランクなんですよ!」


「大丈夫だ。お前は攻撃だけ考えればいい。」


「えっ?」


「相手の攻撃は、全てスライムが引き受ける。」


「そんな……、可能なんですか?」


「今のままじゃムリだ。少し強化しながら調整してやる必要がある。」


「強化は分かりますけど、調整ってなんですか?」


「スライムってのは、元々、打撃を波のように受けながら殺していくんだ。」


「でも、大人がこん棒で叩いたくらいで死にますよね。」


「それは、外皮が硬くて中身が柔らかくても、核までの衝撃を殺し切れていないからだ。」


「じゃあ、どうするの?」


「外皮と中身、それと核の硬さを調整して、衝撃をうまく殺せるようにバランスをとるんだ。俺は、それを調律と呼んでいる。」



 私は、その男ロボさんにスライムを預ける事にしました。

 驚いたことに、ロボさんに連れていかれた先は、領主邸の敷地内にある建物で、看板には王立スライム研究所と書かれています。


「ここは?」


「王都の魔物研究所から独立させたスライム専用の研究所だ。」


「王都に魔物研究所というのがあるとは聞いていましたが、ここドミルの町にこんな施設があるとは思いませんでした。」


「あっ、所長!どこ行ってたんですか!」


「気分転換だ。このお嬢さんに、預かり証を出してくれ。」


 私は提示された書類に名前を書きました。


「スライムの名前……えっと……」


 悩んだ末に、ベスと名付けて用紙に書き込みました。

 特に意味はありませんです。


 研究所の中では、5人の研究者?さんが、様々な事をしています。

 スライムの下側に手をあてて、頭?の部分を金属の玉がついた棒でポコポコ叩いているのは、振動の伝わりを見ているのでしょうか。

 他にも、スライムをマッサージしたり、芸を仕込んだりしているもたいです。

 これから1か月、ベスもあんな風にされるのかしら?



 私の方も、1か月の間ひたすら攻撃力を高めるように言われています・

 適性は探索者なので、装備適性はナイフになります。

 

 私に求められたのは、オークを一撃で倒す攻撃力です。

 ムリだと言ったら、ロボさんは私に身体強化が付与された腕輪をくれました。

 スライムの強化も無料だと言われ、何でそこまでしてくれるのか聞いたら、あくまでも研究のためなんだそうです。


 その日から、私はひたすらEランクの依頼をこなし、Dランクに昇格。

 Dランクのコボルトやポイズンリザードの討伐もこなして、Cランクに到達します。


 依頼をこなすだけでなく、モンスターの急所も調べまくりました。

 自分の持ち味である高速移動をしながら、急所に切りつける。

 ナイフでの攻撃に限界を感じた私は、拳にはめて使うナックルダスターに30㎝の刺殺用針をつけた武器を特注しました。

 このグリップニードルを両手に装着して、私はひたすら獲物を突き刺していく。

 

 そして1ケ月。

 やっとオークを一撃で倒せるようになった私は、ベスを引き取りに研究所を訪れます。


「ほう、顔つきが変わったな。」


「女である事をやめちゃいましたからね。」


 髪を短く切り、動きを阻害するものを全て取り除いた結果、伸縮性があって体にフィットする服しか着なくなっていました。

 色も、黒や濃いグレーのものばかりです。


 体には無数の傷跡があり、左頬にも深い爪の傷跡が残っています。


 その時、ロボさんの肩口を飛び越えて何かが襲い掛かってきました。

 咄嗟に身をかわして身構える私にピギー!という抗議の声が……ベスでした。


「へえ、凄いジャンプ力だね。」


「驚くのはこれからだ、ベス、”アーマーモード”だ。」


「ピギーッ!」


 ベスは私に向かって飛び上がりながら、幕のように広がり……私の体を包み込みました。


「ドラゴン程度の物理攻撃や魔法・ブレスも無効化できるぞ。」


 こうして私は、鉄壁の相棒を手に入れました。



【あとがき】

 スライムによるアーマーモードが書きたかったんです。

 38度の熱が出て、体中の関節が悲鳴をあげてます。


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