第6話 スライムで世界は満たされる

 俺は瞬時に新しい戦法を考えた。

 現地には出ていないが、基地で待機中の16式機動戦闘車の砲身の先の空間をドラゴンの口の前と繋ぎ、口の中に直接105mmを撃ち込んでやる。

 何人ものメンバーが協働してタイミングをあわせ発射!

 

 ドラゴンのアタマ半分を吹き飛ばした。

 

 この一件で何人もの警察官が重傷を負っている。

 政府は河川敷に出た多くの住民を公務執行妨害の疑いで検挙し、警察官を押し倒した事が確認された容疑者を傷害罪で逮捕した。


 そして、それ以降投稿されたドラゴンに関する動画を全て公開禁止としてサーバーから削除するように通達を出した。

 一部の野党議員をはじめとするネット民達は、この措置を不服としたが、自衛隊の極秘戦略に関わるものとして、この反発は封じ込める。


 やがて、これまで表面化していなかったモノが露わになってくる。

 極地での氷系モンスターに海のモンスター。

 アマゾンとアフリカで出現した、こちらに順応したゴブリンや人と融合し恐ろしい能力をみせる悪魔。


 特殊能力を持つ俺たちも、あまりの頻度に限界を感じ始めていた。

 被捕食者である俺たちにとって、単独での対処はムリゲーなのだ。

 極地に向かった艦隊と航空機は、30%を撃墜されながら何とかスノードラゴンを倒した。

 

 潜水艦や戦闘艦はシーサーペントの動きについていけず、壊滅状態に陥る中で、対潜ミサイルで何とか数体を討伐した。

 だが、海のモンスターは大部分が手つかずと見られている。

 このままでは、海の資源は喰いつくされてしまう。


 そして、最大の厄介事は人間と融合したゴブリンや悪魔だ。

 我々とは次元の違う狂暴性と、圧倒的な魔力。

 何人もの仲間が、手も足も出ずに殺されてしまう。


 かろうじて対抗できるのは、瞬間移動で背後から奇襲し、斬撃で屠る事だった。

 化学兵器が役に立たないのは、炎で落とされてしまうからだ。

 これも効果を出すには、瞬間移動を使うしかない。


 どうする……


 サタニストの融合したゴブリンと悪魔は、その知識を使って各国の軍事基地を襲い始める。

 唯一の救いは、奴らが共闘しない事だ。

 単体ならば、犠牲をだしながらも、何とか撃退できている。

 だが、集団で襲い掛かってくる融合ゴブリンには太刀打ちできず、多くの軍事基地が廃墟と化しているのだ。


 どうする……


 数名が限界の速度で近づき、自爆に近いタイミングで手榴弾を爆発させ、行動の自由を奪って105mmを叩きこむ。

 実用化されたレールガンもそれなりの効果を上げたが、機動力がない。

 

 そして、戦わなければ、俺たちに未来はない……


 どうする……どうすればいいんだ……


 毎日、仲間の犠牲は増えていくものの、俺のような特殊スキル持ちは前線に出る事はできない……

 俺はスパイ衛星を制御しながら、ふと思った。


「誰か、この状態で俺に同調して、別の電子機器を制御できないか?」


 俺は意識を解放して、他からの共有を受け入れながら自分の作業を続ける。

 同調者に引っ張られないようにしながら、自分の作業に没頭するのはものすごく大変な事だったが、どうやら可能みたいだ。

 だったら、……自分は意識を解放するだけで、複数の者に同調してもらえば……


 訓練は必要だったが、どうにかできそうだ。

 探知を使えるものや、瞬間移動を使う者にも展開し、俺たちは特殊能力の共有化に成功した。

 共有化を導入してすぐに、当事者が眠っていても能力を使える事が分かった。


 これにより、俺たち特殊能力保持者は、寝たきりのような存在になりつつも、少しずつ自分の生活を送れるように努力し、やがてその状態にも慣れていった。

 俺たちの能力を自分のもののように使う仲間たちは、モンスター検知と同時にそれを視覚に捉え、武器を構えた兵士と意識を同調して瞬間移動で弾薬を叩きこむ。

 海のモンスター討伐も進み、世界は平和を取り戻していった。


 

 モンスターだけに留まらず、独裁国家も俺たちの方針に従わざるを得なくなってきた。

 侵略戦争はなくなり、共産圏の国家も俺たちの仲間が中心となって民主化が進んでいく。


 国連も、俺たちの仲間を中心に組織改編され、宗教もどんどん廃れていった。

 悪魔は実在したが、神が存在しない事が明確になったからだ。

 俺たちを神とあがめようとする動きもあったが、それは許さなかった。

 俺たちは神ではない。


 そして、この状態がいつまで続くのかも分からない。

 俺たちは自分を成長させながら、あらゆる事態に供えるしかない。


 俺たちの子供はどうなるのだろうか。

 完全に人間として生まれてくるのか、能力を引き継いで生まれてくるのかも分からない。

 この特殊能力は、誰かに継承されるのか……


 だが、共有化の回数を重ねるうちに、自分の能力として使える者も出てきた。

 俺も、瞬間移動や飛行能力を手に入れ、探知も使えるようになってくる。

 俺たちは政府と交渉し、武器使用や各国の軍隊を指揮する権限も獲得した。

 

 これは、俺たちが意識を共有することを世界が認め、瞬間移動を使える以上、行動を妨げる事ができないと理解されたからだ。

 

 こうして、俺たちは仲間を増やし、世界の中心になっていく。

 世界はスライムで満ち溢れるのだ。



【あとがき】

 おしまいです。

 話しを広げていけば長編にできそうな感じですね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る