第5話 ドラゴン

 小田原に現れた鬼のようなバケモノに自動小銃が効かないという情報はすぐに共有された。

 そして、着弾した火の玉はそこまで火力が強い訳ではない。

 木造の家屋は燃え上がったが、コンクリートは少し焦がすにとどまっている。


 そして、対策チームはターゲットが目視できる距離まで近づき、氷の槍でバケモノを仕留めた。


 頭を吹き飛ばされて、天守閣の屋根から落下したそいつは対策チームが死体袋に入れて回収した。


「死亡者の身元が判明しました。大山権三45才。当日は事務用品の納入で小田原裁判所に来所。搬入物品の照合中に苦しみだして外に走り去ったとの事です。複数の防犯カメラにも変貌をとげていく大山の様子が残っています。」


「やはりゴブリンとの融合なのかね。」


「防犯カメラに記録された映像では、背中におぶさるような形でゴブリンと思われるモノが出現し、そのまま体内に潜り込む様子が確認できます。」


「それで、君たち融合者の見解は?」


「融合が完了した場合の身体的変化。特に自動小銃が効かないのは大きな問題ですね。警察では対応できず、自衛隊にも高出力の火器を携行させる必要があるでしょう。」


「分かった。銃火器の選定は防衛大臣に一任する。くれぐれも、住民および隊員に危険が及ばないよう対処してくれ。」


「承知いたしました。」


「それから、今回のように外見的特徴が現れてくれると助かりますね。全部がそうなのか保証はできませんけど。」


 防衛大臣と首相のやりとりは全員が共有している。

 融合が発生したら早いタイミングで対処しなければならない。

 何よりもスライムは最弱の魔物で、これからやってくる魔物は確実にスライムよりも強い魔物なのだ。

 

 そして誰もが考えている最悪の事態が皆の意識にあがってくる。

 サタニスト……悪魔崇拝者の存在だ。

 出現した魔物を保護し、訓練した後に融合されたら、勝ち目はあるのだろうか?

 1匹ならなんとかなるかもしれないが、集団で現れたら……


 他の魔物は、スライムにとって捕食者であり、スライムは被捕食者なのだ。

 いくら訓練しても、スライムからの本質的な恐怖を拭い去る事はできない。


 人間にも捕食者の資質を持つ者が存在する。

 日本人はスライムに適合しやすい。

 狂暴性や狡猾・残虐性を持つ者はスライムとの親和性がない。

 つまり、前任の防衛大臣や首相のように、自分本位の人間や、暴力的な人間だ。

 だから、日本の近隣国では、融合率が低い。

 

 更に、人間が監視できないエリアも多すぎる。

 南極・北極・シベリア・砂漠・海中。

 そこには、既に魔物がはびこっているのかもしれない。


 俺たちはどうすればいいんだ……

 その時、アタマの中で声が聞こえた。


『アセラナイデ……』


「えっ?」


『デキルコト カクジツニ ヤル』


「誰?」


『サク……ヤ……』


「サクヤ?」


 それきり、声は聞こえなくなった。

 サクヤの声……だとしたら、また一つ成長したと言う事か……

 そう、焦っても仕方ない。

 俺たちに出来るのは、仲間を増やすこと。

 状況が変化したら、その時に考えればいい。


 そしてもう一つ、融合が進んでいない国ではスライムが余っている。

 そのスライム達を、足りなくなっている日本やオーストラリア・台湾、それにヨーロッパのいくつかの国に移送する。


 各国の電子機器を騙して、それを実現できるのは俺しかいない。


 スライムをスイカ用等の段ボール箱に詰め、更にコンテナに格納してトラックで軍用機に運ぶ。

 この瞬間国の全システムをダウンさせて、後は仲間に操縦させて必要な国に運ぶ。

 扱い的には亡命だ。

 

 そんな間にも、事態は進展していく。

 米商船からは、50m近いウミヘビのような生物の写真と情報がアップされ、北極では火柱の目撃情報が寄せられる。

 アマゾン流域やアフリカでの悪魔出現も騒ぎになっているし、世界中がパニックに近い状況となっている。


 都市部ではゴブリンの出現と被害情報が連日報じられ、融合者討伐の出動も頻繁に行われる。

 世界各地で宗教的なイベントが開催され、得体のしれない神に祈りを捧げている。

 だが、俺たちの側にも効果が現れる。

 予想もしていなかったスキルを持つ者が現れてきたのだ。

 

 例えば、空間を捻じ曲げて繋いでしまう。

 第三者視点でみれば、瞬間移動というヤツだ。


 ほかにも、飛行能力であったり、空間を広げる能力だったり、重力を制御する能力だったりする。

 

 俺たちの最大の強みは、独自のネットワークで意識を共有する事だ。

 つまり、俺の視覚を共有し、空間を別の場所とつなげてもらえば、俺も疑似的な瞬間移動が可能となる。


 こうして、俺たちは個の能力を共有し、空間の歪みも感知できるようになった。

 何もない場所に魔物が出現する時には、物体の移動とは違って、空間を押しのける力が発生する事で異質な歪みが発生する。

 それを検知したら、その場所に急行すればいい。

 スライムとゴブリンでも4倍くらいの質量差があるので、識別は容易だ。


 そして、俺がスパイ衛星をハッキングして現地の映像を視認できれば、攻撃班を瞬間移動させて討伐すればいい。

 融合前ならば、多くの魔物は自動小銃で倒せるし、装甲車や戦車を送りつける事もできる。


 問題となったのは、唯一の能力を持った者が睡眠をとる時だ。

 俺はいい。誰かに起こしてもらえば、すぐに対応できる。

 困るのは、最初のアクションを起こす、空間の歪みを感知する者だ。

 こればかりは諦めるしかない。

 だが、それでもここまで体制を作り上げる事ができた。

 それは、誇っていいいいと思う。


 そんな日々を送っている中、よりによって東京で大きな揺らぎが観測された。

  

「場所は?」


「多摩川、六郷付近です。」


 俺は、指定された座標にスパイ衛星のカメラを向けた。


「でかいティラノサウルスみてえだな……」


「ターゲット視認!攻撃班出ます。」


 だが、休日の多摩川の河川敷は人が多い。

 それに鉄道の架橋も多く、すぐ横を多分東海道線の列車が通過している。

 これでは発砲できる訳はない。

 攻撃班は本部に連絡をとり、避難誘導に切り替える。


 そういえば、TVで見た10年くらい前のゴジラが現れたのが品川だった。

 政府の対応の遅さを皮肉っぽく描いていたのを思い出した。

 体長は推定20m超、サクヤの記憶はドラゴンだと告げてくる。


 単発の銃を試したが、硬い皮膚に弾かれている。

 流石にこれ以上の火器は、大臣の一存では使えないだろう。


 ドラゴンは送電線を引きちぎり、鉄橋を通過しようとした電車を前足で抑え脱線させた。

 そして、車内に動く人間を見つけたようで、爪で車両を切り開き、人間を喰っていく。


 運悪く、定点カメラによるTVの中継がそれを映してしまったようだ。

 更に、スマホで撮影しようとする住人が土手に現れる。

 自衛隊や警察の静止は意味をなさない。

 それどころか、警察官を押し倒し、より映えるポジションを求めて河川敷に人が広がっていく。


 ドラゴンにすれば、自分の周りに数百のエサが近づいてくるのだ。

 電車を切り裂いて人を捜すよりも、容易く捕まえられそうな獲物がいくえあでもいる。

 ドラゴンは河川敷の人間をターゲットに切り替えた。

 流石に矛先が自分たちに切り替わったと感じた民衆は、逃走にかかる。

 だが、20mを超えるドラゴンの方が早い。

 前足で押さえつけて、口に加えてかみ砕く。


 あっという間に10人以上が餌食になった。

 そして総理は重火器の仕様を許可する。

 

 だが、7.62mmどころか、装甲車から撃ちだされる35mm機関砲も40mmてき弾も効果はなかった。



【あとがき】

 ドラゴン戦が始まった

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