第2話 義務教育の終わり
腕からスライムを取り込んだJKのお姉さんは、アキさんという名前だった。
俺は初めてのお使いの様子を細かく書いて報告した。
アキさんには、そういう意識的な変化は無いという。
面白かったのは、肉マンや唐揚げを食べた時で、初めての味に感動する様子が伝わってきた。
俺は、こいつの反応が面白くなり、勉強も小学校1年のアーカイブからやりなおしてみた。
そうすると、自分の中での理解も深まっていく。
簡単な料理も実演してみせる。
スクランブルエッグを作って、マヨネーズやケチャップ・ソースと異なる味で食べてみせる。
テレビも、教育番組が多くなる。
分からない事があれば、PCを使ってネットで調べる事が日常的になってきた。
4月に入って進級する頃には、復習も終わっており、授業は授業として受けながら、俺の興味はニュースや電子工学等に広がっていった。
俺は、自分の中のそいつにサクヤという仮の名前をつけた。
そいつから伝わってくる感覚が女性的だったのと、ネコのニケに対抗するために日本の神様からいただいた名前だ。
俺がそれをJKのアキさんに報告したところ、笑い転げたらしい。
スライムにコノハナサクヤヒメの名を付けるのは、彼女の感性にはなかったようだ。
サクヤは絶えず新しい事を欲した。
それは、知識に留まらず、例えば体を鍛えたり、感性を磨く事にを現れた。
新しい料理にも挑戦し、味も色々と変えていく。
楽器の演奏にもチャレンジして、歌ってみる。
サクヤは声帯もコントロールできるようになったみたいで、信じられない低音から高音まで発生する事ができた。
イメージする場面を絵にする事も出来たし、PCによる描画も可能だった。
5年生の夏になると、政治にも興味が向き、ニュースを元に経済がどう動くか予測する事も可能になってくる。
俺は母さんに頼んで株の口座を開設してもらい、1万円を元手に取引を始めてみた。
1万円の元手は、年末には20万円となり、6年生になる頃には200万円を超えていた。
このお金でPCのスペックをあげ、自分用のアプリを開発して色々と遊べるようになった。
「ねえ母さん、動画チャンネルを開設したいから、ID作ってくれない?」
「えっ?そんなの自分のIDを使えばいいじゃない。」
「自分のIDじゃ、収益を出せないんだよ。」
「何を動画にするのよ?」
「料理とか、音楽だね。あと、アプリも申請したいしさ。」
「ああ、オリジナルレシピね。了解。そう言えば、この間会社に持って行ったチーズケーキ、凄い美味しいって評判良かったわよ。」
「じゃ、今度はイチゴのムース作ってあげるよ。また、新しいレシピ考えたんだ。」
こうして、中学にあがる頃には、口座に3億の資金が貯まっていた。
当然だが、母さんの名前で確定申告が必要だが、それは税理士を契約してやってもらった。
母さんにはちゃんと報告しながらやっており、呆れられたが理解してくれている。
この頃になると、サクヤが反応するようになってきた。
会話をする訳ではないが、こちらの投げかけに対して反応を返してくれるのだ。
そして、アキさんの元に、スライムと融合した人が集まるようになってきた。
集まるといっても、オンライン上での事なのだが、それぞれが近況を報告しあい、意見を交換している。
今集まっているメンバーは10名。
みんな体のどこかがスライムと融合した人たちだが、俺のように頭が融合した人は他にいない。
「なあ、俺たちがスライムと融合したのって、何か意味があるんじゃね?」
「まあ、確かに人と違う事ができるようになったけど、そこまで大袈裟なのんと違うやん。」
「アタマのシン君はどうよ?何か感じる?」
「最近なんだけど、何か反応してくる感じがあるんだよね。」
「中学生で実業家になってるのもスライムの影響なんじゃないの?」
「それはあるね。サクヤが入ってきてからは、アニメやゲームに興味がなくなったし、勉強してても前の倍くらい集中できてる感じはあるね。」
「いいよなぁ、アタマだもんな。足が片方だけ早くても役に立たねえもん。」
「バカだなぁ。俺みたいにジャンプ系に活かせばバッチシなのによ。」
全員が1度は直接会っている。
そのおかげで、会話にも遠慮がない。
その後、俺とサクヤの意思疎通は具体的になってきた。
スライムとの融合者を集めたいという意思を感じた俺は、来春高校を卒業するアキさんに起業を提案した。
「起業って、私にはムリだよ。」
「大丈夫ですよ。全部俺が手配しますから、社長になってください。」
出資は母さんがメインで、アキさんともう一人融合者のケンジさんという50才の人に頼んだ。
社長にアキさん、副社長にケンジさんで株式会社スリムを設立した。
業務内容はアプリ開発で、資産運用で投資もやっていく。
日本の法律では、義務教育を終わらせないと起業もできないし、就労もムリなのだ。
だから会社の形だけ成立させて、メンバーには都合がついてから参加してもらう。
やってもらう仕事の殆どは御用聞きだ。
他にも経理や庶務などの仕事があり、必要なスタッフは人材派遣で対応する。
年に数本のアプリ開発を請け負い、自社開発アプリで集客をして広告収入を得る。
ビジネスモデルとしてはこれで十分だ。
一番の目的は融合者を一か所に集めて親睦を深めていく事。
それと、新たな融合者を捜す事も目的だった。
当然だが、俺と同じ15才以下の者は学校がある。
そういう人間が見つかったら、PCと個室を与えて、ここで授業を受けてもらい、自由な時間にはみんなとコミュニケーションをとってもらう。
必要があれば泊まり込みも可能な施設は用意する。
社長のアキさんと副社長のケンジさんは、そういう子供たちの親に対する理解活動で大忙しだ。
当然、日本全国へ出張してもらう事になる。
みんなが集まって半年過ぎた頃、ネットワークらしきものを感じる事ができた。
体の一部が融合した状態で、最初は部分的に融合の影響が出ていたのだが、それも全身に広がっていく感じだ。
イメージとしては、それがアタマまで広がった時に、相互のコミュニケーションがなんとなく感じられる状態だ。
こうなってくると早い。
あっという間に、全員が俺と同じスキルを身につけ、誰かが身につけたスキルを俺が習得する。
会社はどんどん成長し、あっという間に年商数百億に達した。
拠点も世界各地に設置して、従業員は3000人に達している。
俺が中学を卒業する頃には、融合者も28人に増えており、俺は正式に会社の役員に就任した。
15才にして取締役技術部長だ。
そして、俺たちには共通の目的が見えてきた。
「多分、何かが起こり、俺たちはそれに供えないといけないんだと思う。」
「とりあえずは土地を確保して、スライムの保護と育成をしないといけないよね。」
「各国の政府にも話しを通して、協力を求めないといけないね。」
これは、単なる整理だ。
全員が同じことを感じているので、反論も賛成も出ない。
本来、15才の俺が政府の要職者に会う事など、非常に難しい。
それでも総務大臣の政務官を通じて、総務大臣と面会する事ができた。
「お忙しいところ申し訳ございません。株式会社スリムの取締役中谷進之亟と申します。」
「凄いね。スリムの実質オーナーが、こんなに若い人だとは思わなかったよ。」
「時間が惜しいので、余計な謙遜は省きます。確かにスリムは俺が立ち上げた会社ですが、実体は28人の共同オーナーで運営されているとご理解ください。」
こうして総務大臣との交渉が始まった。
【あとがき】
政府との交渉開始
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