第3話 Eマスター

「28人の共同オーナーというのは意味があるのかね?」


「中学生と小学生も入っているんですが、全員がスライムを体内に取り込んだ者になります。」


「……それで?」


「皆さん驚かないんですね。」


「君たちのサイトを見て、そう予想したスタッフもいたからね。だが、ネットでそこまで騒がれなかったのはどうしてだろう?」


「スライムが現れた最初の年から、ローカルのネットで集まっていましたから、SNSに流れる情報は少なかったですね。」


「よく隠せたものだ。」


「誰も保護してくれなければ、俺たちは化け物扱いされるに決まっていますからね。」


「確かに、それを予測していた学者もいたのだが、被害者が出なかったからね。」


「被害者はいたんですよ。学校が隠蔽しましたけどね。まあ、今となっては過去の事。将来の事を話しましょう。」


「……伺おうか。」


「時期は分かりませんが、将来脅威がやってきます。」


「脅威?」


「どんなモノかは、現時点で不明ですが、そのためにスライムを集めて教育し、訓練する必要があります。」


「……スライムを鍛えて、何の役に立つというんだね?」


「今のスライムは何の役にも立ちませんから訓練するんです。」


「訓練するとどうなるんだい?」


「最低レベルでも特技を覚えます。」


「特技とは?」


「個体によって体技とか魔法とか違いますけど、それでもスライムなので威力は弱いですね。」


「魔法?」


「アニメとかで出てくるでしょ。火の玉を飛ばしたり、氷の矢を撃ちだしたりするヤツですよ。」


「そんなモノが存在するのか……」


「まあ、スライムが存在するくらいですからね。」


「それで、スライムが魔法とかを覚えたら、脅威とかを乗り切れるんだな?」


「いえ、まだ先があります。」


「な、何だね?」


「成長したスライムを人間が取り込む事で、強力な力を得る事ができるんです。」


「バ、バカな!そんなことが出来るわけないだろう。」


「強制はできませんからね。あくまでも希望者だけですよ。」


「それでもだ!そもそも、君の話が真実とは限らないだろ。君たちが仲間を増やすためにウソをついている可能性だってあるんだ!」


「えっと、もし俺たちがやろうと思ったら、スライムを訓練して、寝ている人間に合体させちゃえば済みます。」


「だ、だからといって、そんな許可を出せる訳がないだろ!」


「SNSで、超人になりたいか!って募集をかければすぐに集まりますよ。参加したら、1万円の手当支給とか書いてね。」


「……そんな事……」


「例えば、俺たちが日本を乗っ取るとしたら、国会開催中の議事堂を魔法で吹き飛ばしますよ。」


「バカな!」


「それと、自衛隊の宿舎に夜忍び込んで、全員強制的に合体させちゃいます。」


「き、君たちは、スライムに操られているんじゃないのかね!」


「まあ、とりあえずは、俺たちが土地を取得してスライムを集めるのを黙認してくれればいいです。多分、脅威がはっきりした段階で認めてくれれば間に合うと思うので。」


「き、君たちの力を見せてもらう事はできるのかね?」


「いいですよ。富士の演習場あたりでやりましょうか。」



 2040年7月、俺たちは陸上自衛隊富士演習場にいた。

 自衛隊員を相手に、俺たちの能力を見せるためやってきたのだが、総理と防衛大臣の他に5名の大臣と自衛隊の幹部が同席している。


「では、最初は基礎体力を見せてもらおう。」

 

「メンバーも楽しみにしていましたよ。」


 自衛隊が国民に感心をもってもらうために、民間企業と一緒に開発した”自衛隊チャレンジ!”というアトラクションだ。

 一般の参加も受けており、その様子はネットで中継されている。

 コースは全部で5つあり、それぞれが10分程度で完走できる障害物競争みたいなものだ。


 コースには愛称がつけられており、Cコースなら忍者迷走とかEコースならジャングルランとか呼ばれている。

 どのコース共に、タイトルホルダーは自衛隊員だ。


「そろそろスタートみたいだね。」


 Aコースは通称シーパラと呼ばれるコースで、海をイメージしたコースだ。

 俺もネットで見たことがある。


 4人一組でスタートすると、いきなり500mの砂場が広がり、その先は右から左に流れる500mの川だ。

 徐々に深くなっていき、最深部は3mになるらしい。

 どのタイミングで泳ぐかは選手自身の判断になるが、流れもあり体力的に厳しいコースらしい。

 しかも、水深3mの部分には重さ500gのタコ型マスコットが沈んでおり、自分のゼッケンと同じ色のマスコットを採ってこなければならない。


 このコースには派手なパフォーマンスは必要ない。

 黙々と砂の上を走り、水の上を走った後で泳ぎ・潜り、また泳いで走ってゴールを目指す競技だ。

 意外と落とし穴だと言われているのが、流れのある水中での潜水だ。

 十分な余裕をもって、上流から下流へ潜っていかないと目標に到達できず、何度も失敗する事になる。

 そして、500gの荷物を抱えての泳ぎ……


「ば、バカな!なんだあのスピードは……」

 

「せ、潜水も一発でクリアだぞ!」


「これは特技じゃないです。単なる身体能力の違いですよ。」


「ど、どういう事なんだ?」


「スライムの細胞が筋力を底上げしてるのと、持久力も引き上げているし何よりダラダラしたトレーニングは行いません。」


 Bコースはジャンプに特化したコースだ。

 俺たちは助走をつければ2mくらいの障害は簡単に飛び越せる。

 走り高跳びの記録が約2.5mなので不思議はないだろう。

 一番高い3mの塀も、手を使って簡単に飛び越せる。

 当然だが5mの濠など、何の障害にもならない。


 俺たちは全てのコースで、従来の記録を80%程度に短縮して見せた。


 もちろん、今回の競技は非公開だ。


 続いて実弾を使った射撃訓練である。

 俺たちにとっては、一番威力の弱い氷の粒や矢を使って参加した。

 流石に自動小銃には連射速度で叶わないが、簡単に威力を変えられるのが魔法の利点だ。

 つまり、自動小銃では構築物の破壊は難しく、武器を変更しなければならないが、魔法は魔力量の調整や種類を変える事で対応できる。

 そして、魔法は魔力が尽きると休憩が必要だが、武器はいくらでも補充が効く。


「まあ、破壊活動では互角といったところか。」


「確かに、航空機や飛行機といった多様性と物量には叶いませんね。」


「そうだろうとも。」


「でも、制御できなくなったらどうします?」


「どういう事だ?」


「そうですね。税金を無駄にはしたくないですから……あのドローンにしましょうか。」


「なにを?」


「監視用ドローンが、制御できません。」


「今、あれは俺の制御下にあります。」


「せ、制御器が反応しません!」


「ドローン経由で制御系をハッキングして、システムを消しました。」


「どういう事だ!」


「今、相模湾に待機している護衛艦ムツ。やってよければ、システムをダウンさせて無力化できますよ。」


「な、なにぃ!」


「俺の能力は特殊なんですよ。ネットワークでも目視でもTV画像でも、認識できればシステムに潜り込めるんですよ。」


「ぼ、防衛大臣!ムツの艦長から通信です。」


「どうした?」


「と、突然モニターに大臣に連絡するようメッセージが出たんですが……」


「バカな!」


 防衛大臣が俺を見たので会釈で返してやる。


「何をした……」


「単にモニターに文字を表示させただけですよ。」


 俺は笑って応えた。



【あとがき】

 電子使い。

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