スライム喰ったら新しい国ができた
俺の方が先につくと申し出たら、宰相を訪ねるように言われたのだ。
てっきり、自動馬車に同乗するとか言い出すと思っていたが、まだ領主と話しがあると肩透かしを喰らってしまった。
「私が宰相のガロアだ。お前がカリンのガジという職人なのだな。」
「俺は冒険者であって、自分に必要な道具を手作りしているだけだよ。」
「まあいい。それで、道具はそこ木箱の中にあるのだな。」
俺は小一時間かけて蓄光球と調理器を説明した。
「蓄光球作りに専念したら、1日でどれくらい作れるのかね?」
「そんなのは、やる気もねえし、時間もねえよ。」
「まあいい。準備ができたようだ。ついてこい。」
俺は宰相に連れられて広い部屋に案内された。
最後列に立たされ、両脇を兵士に挟まれ動けなくされている。
少し待たされて国王の登場が告げられ、列席している40名程のオッサンが一斉に膝まずく。
俺も真似をして同じようにした。
少しでも早く帰りたいので余計な行動はしないのだ。
そして、頭をあげてよいとの許可が出てから立ち上がる。
続いて宰相が謁見の内容と品物の紹介を始める。
「本日、陛下にお時間を頂戴したのは、カリン領の職人が開発した道具を献上したいとの申し出があり、慎重に吟味した2品を選出いたしましたのでご照覧いただきたく存じます。」
「うむ。地方から優れた職人が発掘されるのは喜ばしい事じゃ。嬉しいものよな。」
「ありがとうございます。では一品目でございますが、こちらは調理器になります。操作をすると、この丸い部分が130度まで発熱し、鍋や鉄板を乗せれば調理が可能な品となっております。」
まあ、調理器は参列した貴族には興味ないだろう。反応がなくて当然だろう。
「二品目はこちら、蓄光球になります。今点いている夜光灯と比べていただければ一目でお分かりいただけます。」
宰相の合図でカーテンが閉められ、蓄光球が光を放つと広間がどよめきに包まれた。
「このように、従来品と比べようもない光量と太陽と同じ色のない光を放つ事ができます。」
「こ、このようなものを、カリンの職人が独自に開発したと申すのか!」
「さようでございます。あちら、末席にひかえておりますカリンの職人ガジによる開発でございます。」
「ガ、ガジとな……」
会場からクスクスと笑いがこぼれる。
名前っつうか、何でもガジガジと齧るからガジって呼ばれただけだ。
「この蓄光球が国中に行き渡れば、国民の生活向上に寄与する事は間違いないでしょう。」
「うむ。よく分かった。ガジとやら、この献上品、有難く思うぞ。」
俺は軽く頭を下げた。
国中?
冗談じゃないぞ……。
「カリンという地方にありながら独自に技術を磨いた功績に報いるため、褒美をとらせるように。」
「はっ。報奨金50枚ととらせ、国家特任技師として任命し召し抱えたいと思います。」
「うむ。そのようにいたせ。」
「では、これにて……」
「冗談じゃねえぞ。金は要らねえし、そんな役職もいらねえ。城勤めなんてする気ねえぞ。」
「な、なにぃ!」
「どうしても蓄光球が欲しいっていうから持ってきてやったんだ。これ以上は作らねえよ。」
「バカな!名誉ある国家特任技師を辞退するというのか!」
「ああ。俺は職人じゃねえからな。ただの冒険者だし、カリンから出る気はねえよ。」
「では、命令に変更しよう。拒否するのならば拘束する。」
「いや、こいつらに俺は止められねえよ。じゃあな。」
俺は周囲の重力を3倍にして兵士を振り払い、城を出て自動馬車に乗り込んだ。
周辺に群がっていた奴らは重力に押しつぶされて転がっている。
王子!とか叫ぶ声も聞こえたが聞こえないふりをする。
陽は沈みかけているが、蓄光球も装備してあるし問題ない。
俺はおそらくその日のうちにカリンに帰り着いた。
以上はすぐに分かった。
領主邸が異様に明るいのに、俺の住処は真っ暗なのだ。
建物の内外だけでなく、牧場にもせっちしてあるハズの蓄光球がまったく見えない。
速度を落として近づくと、蓄光球の灯りに浮かび上がったのは子供たちの死体だった。
殆どの死体が矢で貫かれており、中には斬られたと思われる死体もあった。
俺は死体を庭に運び出して数える。
教育係に来てもらっていた婦人5人と子供32人。
そして黒耳……
蓄光球や調理器は全数持ち去られ、防犯用に持たせてあった氷の矢や火の玉を撃ちだす筒もなかった。
俺は死体を一か所に埋め、大岩をその上に設置して墓碑とした。
そのまま領主邸に飛んで横の兵士宿舎上空に停止する。
そしてフォーミンゲで埋めた。
領主邸の敷地にいる兵士や家人は雷の技で無力化して、応接で酒を呑んでいた5人の前に顔を出した。
その場にいたのは、領主・副領主と城からの使者3人。
「何故お前がここにいる!」
「なあ……、人を傷つける事と人の物を盗む事ってのは、犯罪だと聞いてたんだが違うのか?」
「何を当たり前の事を……」
「じゃあ、お前らは犯罪者なんだな。」
「ふん。まさか、孤児が人だとでも思っているのか。」
「ほう。人としての線引きは何処にあるんだ?」
「ふん!少なくともお前の仲間は人とは言えんな。おい!衛兵、何をしてるんだ!」
「無駄だ。今屋敷で目を開けているのはここの5人だけだぞ。」
「なにぃ!ワシの家族は……娘たちはどうした!」
「さあな。運が良ければ生きてるかもしれんが、遅かれ早かれって奴だ。」
「き、貴様!貴族に手を出したらどうなるか分かってるのか!」
「知らねえよ。まあ、人を殺そうが、人から奪おうが、正当化していいって事は学べたからな。」
「な、なにぃ!」
「何百人の兵士が子供をなぶり殺しにしてもいいんだろ。俺が何千人殺そうが、この国の1番になっちまえば良いって事だよな。」
「その通りだ。兵士たちも屋敷の異常に気づく頃だろう。観念するがいい。」
「兵士?兵舎ごと埋めちまったが、生きてればいいな。」
「ば、バカな……」
「お、王都からきた私たちは何もしていない。」
「こいつが王都から戻る事はないと言ったのはお主たちではないか!」
もう、話す必要はない。
5人を雷で気絶させ、金庫室から箱に入った多量の金貨を運び出す。
ついでに、蔵の小麦も頂いておいた。
盗られた道具を回収した上で、屋敷は埋めてしまった。
10mの地下から出てくる事はないだろう。
俺は住処のドームを修復し、蓄光球などの道具を設置した。
そうしておいて、各町から孤児たちを連れて来る。
町の運営は、冒険者ギルドのギルド長に暫定運用を頼んであるから問題ない。
元々貴族に対する不満が大きく、国から独立する事で、税金も半分にできると言ったらみんな喜んで賛同してくれた。
孤児が300人を超える頃になると、町は完全に独立した運営を実現していった。
俺は牧場ごと住処を移動して、完全に町の一部に組み込んだ。
町中に蓄光球を普及させて城壁も強化し、火球や氷矢を撃ちだす固定砲台も据え付けていく。
王都からの制圧部隊が3回派兵されたが、ことごとく撃退してやった。
というか、町に近づく前に埋めたため、戦闘すら行われていない。
兵士の運んできた食料や武器はそのまま頂いたし、馬も無傷で頂戴したのだ。
財政的に苦しくなってきた王国は、課税を拡大した事で他の町の反感を買い、カリンに泣きついてくる。
その度に、俺は現地へ出向き、領主の追放に手を貸してやった。
こうして国から独立する町が増えていき、俺は王都も乗っ取った。
王族・貴族は追放して、自治政府を作ってやったのだ。
そして今、新生国家が誕生しようとしていた。
【あとがき】
食スラ完了です。
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