王都へ
色々な事をやり始めると、どうしても時間が足りなくなってきた。
例えばオーロックスやヤギの乳も確保したいし、皮を剥いで干したりしてみたいのだが、そんな時間は惜しい。
ギルドで聞いたところでは、この町にも廃屋に住む子供がいるらしい。
俺は廃屋に出かけ、メシを食わせる代わりに、仕事を手伝えと説得し、全員を連れ帰った。
まず、全員を湯に入らせて体を洗わせ、買ってきたハサミで髪を短く切らせた。
小さい子は、大きい子に面倒を見させる。
そして用意した服を与え、メシを食わせる。
ドームをいくつか増やして、一人2枚の毛布を与えて寝床も作ってやる。
ドームには、年齢的な偏りがないようにして、一番大きい子供に責任者を命じる。
まあ、俺と変わらなそうな奴もいるが、俺は雇用主だ。
オーロックスは麻痺させて荷車で運んだり、黒耳と一緒に追い立てたりして10匹を確保した。
そして牧舎を作って、そこに乳の張ったメスをつないだ。
乳の絞り方等は、町の牧舎から人を呼んで教えてもらった。
そんな折り、俺は領主とかいうのから呼び出しを受けた。
領地を勝手に使ってけしからんという訳だ。
土地を使うのなら金を払えと言われ、俺は言われるままに金貨30枚を払って、永代使用の許可証をもらった。
高額だったが、広さの制限はない。
使い放題という訳だ。
俺は川まで塀を広げ、水路を作って水を引き込んだ。
これで生活用水を確保でき、水路の上にトイレを作る事ができた。
選択する係も決めて、洗い替えの服も買ってやる。
そして、読み書きや礼儀を教えてくれる高齢の女性も住み込みで雇った。
料理や裁縫を教えてくれる女性もだ。
金がなくなってくると、蓄光球を作って商業ギルドに買い取ってもらう。
銀で見栄えをよくしてやれば、一つ金貨5枚で買い取ってくれる。
夜になると俺の居住区は遠くからでもよく見える。
効果を宣伝するまでもないので、量産を頼まれるのだがお茶を濁している。
とある依頼を受けて少し東に遠出した際、黒いスライムを捕獲した。
依頼を済ませた後で、ドームを作ってそれを呑んだ。
喉と腹の痛みは半日続いたようで、周囲は暗くなっていた。
黒いスライムを呑んで覚えた技は、他のわざと組み合わせて使う”領域固定”と”重力魔法”。
それと、”魔法付与”と”温度制御”だった。
色々と試してみた結果、領域固定で地面を指定し、そこに含まれる鉄をフォーミングで取り出したり、その範囲内を凍らせたりできる事が分かった。
重力魔法は、物を軽くしたり重くしたりできる技で、地面から浮き上がらせる事もできた。
魔法付与は、魔石に技を覚えさせる事が可能で、魔石を練りこんだ剣でアイスニードルを撃ちだしたりできた。
そして温度制御は物の温度を上げたり下げたりできる技で、鍋の水を一瞬で湯にする事もできた。
「これって、魔法付与と組み合わせれば、結構面白いんじゃねえか。」
「ミャ?」
「ああゴメン。お前に言っても分かんねえよな。」
ずっとついてくる黒耳は、どうやら西の外れに生息する黒耳ワイルドキャットという種類のヤマネコらしい。
多分迷い込んできたか、飼われているものが逃げ出したのだろう。
普通は人間に慣れないらしく、町の中には入ってこない。
俺は最初に魔石を混ぜた鉄の円盤を6枚作った。
そしてそれぞれに温度制御の技を覚えさせた。
魔力を1回流すとON、2回連続でプップッと流すとOFFになるよう設定する。
円盤を鉄の箱にセットして配線してやる。
円盤の上に鍋や鉄板を乗せて料理に使うのだ。
弱火にセットした円盤を使えば、長い時間をかけて煮込む事ができる。
というか、常に保温状態でお湯や具材を継ぎ足し、いつでも暖かいシチューを食べられるようにしたのだ。
そしてもう一つ、42度に温度を保つ石を作成し、浴場を作った。
これで、子供たちはいつも清潔に保つ事ができる。
武器を作って子供たちに装備させ、身体強化を書き込んだ腕輪を渡した。
もう、子供たちは自分で歩いていけるだろう。
俺は例の軽い金属で荷馬車を作った。
底に重力魔法を書き込んだ魔石を配置して、地面から浮かせる事に成功した。
次は推進力だ。
風の力を書き込んだ魔石を車体の周囲に配置し、その強弱で進行を制御する。
コントロールは難しかったが、すぐに慣れた。
こうして俺は、便利な移動手段と輸送手段を手に入れた。
この浮動荷馬車ならオーロックスでもオークでも、3匹くらい余裕で持ち帰る事ができた。
流石に町中で空を飛ぶ訳にはいかないので、荷重をゼロにしてある。
ギルドに大物を搬入する場合、建物の西側にある倉庫へ直接持ち込む。
「おお、オーク3体か。肉不足だから助かるよ。」
「なら、高値を期待しちゃいますよ。」
「まかせとけ。それにしてもお前の自動荷馬車はいいよな。」
「遺跡で見つけた時には何だこれって思いましたよ。」
「アーティファクトか。俺も遺跡を探してみるかな。」
「ぎっくり腰で冒険者引退したんでしょ。再発しますよ。」
そんなとある日、国王の使いという、偉そうな男が住処へやってきた。
「陛下はお前の発明品に興味をお持ちになったようだ。城に赴き、自動馬車・蓄光球・調理器の3品を献上するように申し伝える。」
「なんで?」
「国民の財産はすべからく陛下の所有物である。」
「孤児の面倒も見れねえような国に期待はしてねえよ。まあ、蓄光球と調理器くらいは譲ってやってもいいけどな。」
「くっ、なんという不敬な!」
「だって考えてみろよ。会ったこともねえし、世話になった覚えはねえんだぞ。」
「いいか、町を作って発展させたのは国だ。お前が金を得ている冒険者ギルドが成り立っているのも国があればこそだと分からんのか!」
「ああ、確かにそうとも言えるな。」
「ならば、国民としての務めをはたせ。」
「分かったよ。だが自動馬車は断る。あんなのが町中を走り回ったら危険すぎる。俺以外は制御できねえからな。」
「よかろう。」
「蓄光球10個と調理器2台でいいか。」
「かまわん。どれくらいで用意できるのだ。」
「そうだな。まあ3日もあれば王都までいけるぞ。」
「バカな!王都まで500km以上あるのだぞ。」
「これから自動馬車を改造するけど、多分移動だけなら1日でいけると思うぞ。道具も作らなくちゃいけねえから、全部で3日だよ。」
俺は早速自動馬車の改造に取り掛かった。
というか、2台目を作る事にした。
1台目は荷馬車ベースだったが、今度は子供たちも乗せられる乗合馬車のイメージだ。
底面は荷重ゼロ・地上1m・地上5m・地上10m・地上30mの5パターンの重力制御を組み込む。
座ってヘソの位置から上は、軽鉄の細かい網組み込んだガラスを全面に嵌め込んで見晴らしが良くなるようにして、衝突保護用のガードをつける。
それと、夜間走行用の蓄光球と推進用の風噴出孔を全方向に設置する。
後ろ面だけは、高速飛行ができるように風噴出孔は10個つけておいた。
自動馬車2には、車輪を固定して動かなくする機能と、乗降口を施錠する工夫も施した。
献上する蓄光球と調理器は、まあそれなりに装飾を施して見栄えを良くしておく。
こうして、3日目の朝、俺は王都に向かって飛び立った。
今回、黒耳は留守番させてある。
南に向かう街道の上空を最大出力で飛んで行ったら、昼前に城に着いてしまった。
流石に飛んで行ったら騒ぎになると思って少し離れた場所に着陸し、荷重ゼロにして最低速度で王都に入っていく。
城の馬車停めに自動馬車を停め、道具を入れた木箱を担いで城の入口に立っていた兵士に宰相への面会を頼んだ。
【あとがき】
王都
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