カリンでの拠点づくり
パープルスライム3匹目からは、”マギ・ストロング2”を覚える事ができた。
これは、ストロングを更に2倍にする技で、普通なら50cmのジャンプ力がストロングで1m。ストロング2で2m程にジャンプできるのだ。
だが、ストロングはそんなに都合がいい技じゃなかった。
使った後はとんでもなく疲れてしまい、動けなくなってしまう。
つまり、それだけ体に負荷がかかっているのだろう。
こればかりは、体を慣らすしかなかった。
最初のうちは、1日に3回しか使えなかったストロングだが、日ごとに回数が増えていった。
回数が増えるという事は、俺の基礎体力が増えるという事でもある。
1カ月もすると、俺のジャンプ力は1mになり、ストロング2を使えば4m程飛び上がる事ができた。
この頃になると、俺はイノシシの人型モンスターであるオークも、ソロで倒せるようになっていた。
オークは肉も旨く、体内に核となる魔石を保有しているため、討伐報酬と魔石・肉をあわせると、1匹で銀貨8枚くらいになる。
最後の夜、俺は子供たちにオークを食わせてやった。
屋台のおっちゃんから譲ってもらった、甘辛いタレを付けて肉を焼くのだ。
オーク1匹で30kg程の肉になる。
子供30人ならば、喰いきれない程の……と思ったが、ほぼ完食されてしまった。
恐ろしい食欲だ。
こうして俺は、生まれ育ったタツジの町を出て南に向かった。
100km程南に行くと、カリンという町があるらしい。
タツジの町で受けた依頼に、夜光石の採集というのがあった。
これは、結構川の上流で見つかる鉱石で、夜になると淡く青白い光を放つ石だ。
この採取を終えて依頼主に納品した時に、加工の仕方を見せてもらった。
魔石と夜光石を粉にして混ぜ、形を整えながら高熱で焼くと畜光石になる。
これを太陽にあてておくと、暗くなると光を発するのだ。
問題は、光が弱いのと、青白い光だという事なのだが、それでも町では重宝されている。
俺はフォーミングでこれを試してみた。
魔石と夜光石を常温のまま混ぜ合わせ、青い色素を取り除いて中を空洞にして8cm程の玉にしてやる。
成功だった。
昼のうちに光を貯えた玉は、夜になって昼間と同じくらいの強い光を発してくれた。
色もついていない。
俺はその球を10個作って、教えてくれた魔道具師に金貨10枚で売ってやった。
俺のリュックには、その”蓄光球”が2個ぶらさがっている。
銀の鎖でぶら下がった、5cm程のオリジナル品だ。
夜は土のドームを明るく照らしてくれる。
腰の両脇にぶら下げれば、夜歩く事も可能だ。
ただし、寝る時にはリュックにしまう事にしている。
眩しすぎて眠れないのと、空気穴から漏れた光が、虫や獣をよんでしまうからだ。
急ぐ旅ではない。
草原の中を続く道をゆっくり歩いていく。
時折、馬車が通るため草場に足を踏み入れて避けてやる。
草原で草を食む大型の動物は、ロングホーンオーロックスという立派な角の生えた2mを超える牛というやつだ。
オークとは違う肉の旨味があるらしい。
夕方になって、群れから離れた位置にいたロングホーンオーロックスをアイスニードル3発で仕留める。
その場で肉を切り出し、十分離れた場所で野営の準備を始める。
寝るためのドームを作って、その横にはカマドを作って大部分の肉を吊るし下に薪を組んで火をつける。
空気穴を残してカマドを塞ぎ、蒸し焼きにしていくのだ。
残りの肉は串焼きにして、塩を振って食べる。
肉の匂いにつられて集まってくる獣は、アイスニードルやサンダーボールを放って追い払う。
畜光石で十分な明るさがあるので見落とす事はない。
ふと、聞きなれない鳴き声が聞こえた。
ミギャーというネコ科の鳴き声だ。
蓄光球の光に浮かび上がったのは、50cm程のヒョウ柄の体に黒く尖った耳の獣だった。
名前は分からないが、見るからにネコの仲間だろう。
俺は焼いた肉を冷まして投げてやる。
そいつは驚いて飛び退いたが、警戒しながら匂いを嗅いで恐る恐る口にした。
まあ、肉は十分にある。
そいつ用には、塩を振らずに生焼け程度にして3個・4個と投げてやる。
翌朝、カマドを壊して肉を取り出し、朝食分の肉をさっと炙って食べる。
少し離れた場所に、昨日の黒耳のネコがいた。
昨日と同じように肉を投げてやると、旨そうに食べていた。
残りの、というか25kg程の肉塊に、大きめの笹の葉を張り付けて包んでリュックにしまう。
南に向けて歩き出すと、いつの間にか黒耳のネコはいなくなっていた。
まあ、あいつらネコ科は夜行性だろうから、どこかで寝たのだろう。
道は森を抜け、川沿いに沿って南に向かっている。
道沿いには魔物は殆ど現れない。
俺は黙々と歩き続け、またドームを作って野営する。
土でテーブルを作って、その上で燻製肉を切っていると、昨日と同じだろうか黒耳が現れた。
警戒心が薄れたのか、今日はドームの上に飛び乗って横になっている。
「ほら、焼けたぞ。」
焼けた肉をドームの上に投げてやると、また匂いを嗅いで喰っている。
その夜だった。屋根の上からシャーッという威嚇音が聞こえた。
草原の方からは、グルルとうなり声がする。
俺はドームに窓を作り、そこから外を確認すると、闇の中に3体のクレイウルフが見えた。
俺は左手を伸ばしてアイスニードルを飛ばしてオオカミを追い払った。
その日以来、ドームの屋根が黒耳の定位置になった。
4日目になると、黒耳は昼間も俺の後をついてくるようになった。
5日目にカリンの町に着いた俺は、冒険者ギルドを訪れた。
常設依頼の品をいくつか提出して完了の処理をしてもらう。
「字が読めないので、どんな依頼があるか教えて欲しいんですけど。」
「タツジの町から来たの?」
「はい。」
「お金に余裕があるなら、字を習いなさい。銀貨3枚あれば、3日で依頼に関する字とノウハウを教えているの。」
俺はギルド主催の勉強会に参加した。
そこで貰った紙は、絵と文字が組み合わされて分かりやすいものになっている。
それに、文字だけでなく、周辺に出没するモンスターや出現エリアなどの情報があったり、食べられる草や木のチップを使った乾燥肉の作り方なんかも教えてくれた。
食堂に入れば、鉄板や網を使って肉を焼いたり、トングやオタマのような便利な道具を使うことも覚えた。
それに、素材屋というのがあって、鉄塊や革なども購入できる。
「おじさん、これは?」
「金属の一種なんだが、熱しても柔らかくならねえんだ。軽くて硬いから、使い道は色々ありそうなんだが、加工できねえんだから価値はねえんだよ。」
俺はそれを持てるだけ買って帰り、フォーミングで細く少し短い剣を作った。
軽いので、刺殺メインの武器としては使えるだろう。
鉄は買わなくても川の石等から抽出できた。
俺はドームの家を拡張し、部屋を増やしたり、燻製肉を作る釜をいくつも作った。
少し遠くまで歩けばロングホーンオーロックスは簡単に狩る事ができる。
その場で解体し、持ち帰って燻製肉にする。
燻製肉は肉屋に売るのだが、通ううちに色々な部位があると教えてくれた。
ほほ肉や舌、肝臓なども美味しく食べられるのだ。
そして、揚げるという調理も覚えて、溶いた小麦の粉をつけて揚げたり、パンくずをまぶして揚げる料理も覚えた。
油は大豆等の種や実から簡単に分離できる。
調味料やソースは町で買えばいい。
調理専用のドームも作ったし、オオカミなんかが入ってこないように、周囲に2mの囲いも作ってある。
依頼をこなすうちに、冒険者ランクはゆっくりだが上がっていく。
俺はDランクになっていた。
【あとがき】
カリンの町に拠点確保
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