スライム喰ったら……

無理やりスライムを喰わされた

 龍歴986年

 最後の龍ベテルギウスが討伐された事で、龍歴は終わり3代皇帝ギル・アーファルドによって神歴元年が宣言された。

 だが、ベテルギウスの最後の魔法により人は魔法を忘れ、多くの魔法陣が隠蔽されてしまった。


「ギャハハ、貧民街のガキは泥でも食ってろ!」


「アハハ、ついでに俺の小便も恵んでやんよ!ありがたく受け取りな。」


 頭に生暖かい水がかかった。

 相手は富裕層の子供。

 体も一回り大きいうえに、3人で取り囲まれている。

 悔しいけど耐えるしかない。


 ここは町の外、食料を探しているところを見つかってしまった。


「おっ、旨そうなのがいるじゃねえか。」


「俺に任せろ。」


 俺は二人によって仰向けにされた。

 空が青かった。


 俺の視界に、水色のプヨプヨした物体が映った。

 

「ほら、腹減ってんだろ。」


「お前のために捕まえてやったんだ。ほら口を開けろ!」


「ヤメロ!ヤメロ!」


「暴れんじゃねえよ!」


 両手を押さえられ、鼻をつままれる。

 必死に口を閉じる俺だったが、木の棒で口をこじ開けられてしまう。

 スライムが視界いっぱいに広がった。


「ウーッ!」


 そいつは柔らかく、味は感じなかった。口いっぱいに押し込まれたそいつのために息ができない……

 ウーッウーッともがくが、頭を掴まれているためどうにもならない。

 喉の奥まで達したと感じた瞬間、ヌルっと喉を通っていった。


 焼けるような喉の痛み。

 左のわき腹にも焼けるような痛みを感じた。


「ギャハハ、スライム喰っちまったよ!」


「オ、オイ、ピクピクしてんぞ。ヤバいんじゃね……」


「い、行こうぜ!」


 3人の足音が遠ざかるのを、朦朧とした意識の中で聞いていた。

 喉の痛みはすぐに治まったが、腹の焼ける痛みは治まらなかった。


 小便くさい水たまりの中で、体を丸めて耐えるしかなかった。



 どれくらいの時間が経ったのだろうか。

 腹の痛みは消えていないが、喉がヒリヒリした。

 何とか体を起こして、ふらつく足で少し離れた川に向かう。


 服のまま川に入り、ゴクゴクと水を飲みながら全身を洗った。

 服をめくりあげて痛む脇腹を見ると、コインサイズの丸い痣ができていた。

 丸の内側が模様のようになっている変な痣だ…… 


 痣に手をふれると、言葉が浮かんでくる。

 

「えっ、まぎ……ふぁいやー……ぼーる……」


 その瞬間、右手の先に青白い円が浮かんだ。

 あわてて右手を痣から離したが、その円から火の玉が飛び出して水面に当たってジュッと煙をあげた。


「な……なに?」


 青白い円はすぐに消えた。

 俺は恐る恐る右手をひっくり返して手のひらを見る。

 別に火が出たような痕跡はなく、いつも通りの手のひらだった。




 俺の名前はガジ。

 貧民街で子供たちが集まる廃屋で暮らしている。

 年齢は分からない。

 体の大きさから、あと2年くらいで冒険者登録できるんじゃないかって言われてる。

 だから、多分10才くらいなんだと思う。


 灰色の髪の毛と青い瞳みたいで、青い目はこの町では珍しいんだと聞いた。

 

 冒険者に登録できるのは12才って決まっているらしいけど、銀貨1枚あれば大丈夫みたいだ。

 つまり、銀貨1枚分の獲物が狩れるようになれば、冒険者になれるって事だ。


 そんな俺が、無理やりスライムを喰わされたあの日から、なぜか火の玉を出せるようになった。

 見渡す限り、そんな事ができる奴は見たことがない。

 スライムを喰う奴も見たことがない。

 そうすると、この2つには関係があるのかもしれない。


 そう考えた俺は、スライムを捕まえて川の近くで呑み込んでみた。

 本当に死ぬんじゃないかと思ったが、またコイン状の痣ができて今度は水の玉を飛ばす技を覚えた。


 本当に関係があるとは思わなかったが、スライムを呑み込む事で体に痣ができて、新しい技を覚える事ができるんだ!


 3回目には風の技、4回目には氷の技を覚えた。

 そして5回目に雷の技を覚えたんだけど、そこで終わりだった。

 6回目からは喉の痛みはあるものの、新しい技は覚えられなかった。


 技は、使えば使うほど、早く強くなっていった。

 

 技を覚えた事で、ウサギや鳥を狩れるようになり、メシに困る事はなくなった。

 そして、呪文を口に出さなくても、頭の中で唱えるだけで技が使える事も分かった。


 俺はウサギ3匹を仕留め、肉屋に持って行って銀貨1枚で買い取ってもらった。

 その銀貨を持って冒険者ギルドに行き、申請書ってのを書いてもらった。


 こうして、冒険者証ってやつを手に入れた。

 だが、掲示板に張ってあるという、依頼書ってやつが読めない。

 カウンターのお姉さんに教えてもらって、マナ草というのを探すことにした。

 

 マナ草は水辺に生えるユリ科の植物で、その球根が採取対象だ。

 ちょうど花の時期なので見つけやすいはずだと言われた。


 依頼達成の単位は3個なので、簡単だろうと思っていたのだがなかなか見つからなかった。

 川沿いに3時間歩き回ってやっと1個採取できた。

 本当に1日中歩き回ってやっと3個採取できた。

 

 依頼達成の報酬は銅貨5枚。

 途中で狩ったウサギ3匹とあわせて銀貨1枚と銅貨5枚。

 その金で、俺は皮のチョッキと短パンを買った。

 これまで着ていた……というか、拾った布を体に巻きつけていただけなので、俺にとっては初めて着た服だ。


 2日目には中古のリュック。

 3日目に中古のナイフを買えたので、それで肩まで伸びていた髪を切った。

 4日目の稼ぎで、俺は買えるだけのパンを買った。

 これが廃墟で暮らす俺たちのルールだ。

 稼げるようになったら、皆にパンをふるまい、そして数日後にここを出ていくのだ。


 5日目の依頼達成で、俺はEランクに昇級した。

 この日の獲物は、肉にして鍋を作ってやる。

 共用で使っている大鍋にウォーターボールで水を入れ、ファイヤーボールで焚き木を燃やして薄い塩味の鍋を作ってやる。

 八百屋で買った野菜も入っているのだ。


「ガジも行っちゃうの?」 


「まだ、もう少しいるつもりだよ。」


 廃墟に住むのは男の子供たちばかりだ。

 女の子達は、奴隷狩りで連れて行かれてしまう事が多い。

 仲間だと思っていた男に売られるケースもあると聞く。

 今、ここにいるのも、女の子は3才以下の小さい子ばかりだ。


 そして、独り立ちできるようになった冒険者は、別の町を目指す。

 孤児という過去を捨てて、冒険者として第2の生活をスタートさせるのだ。


 Eランクになって、まともな討伐依頼が受注可能となるのだが、基本は常設依頼のゴブリンや角ウサギが中心となる。

 だが、俺の目的はあくまでもスライムだ。

 オレンジスライムやグリーンスライム、パープルスライムなど、別種のスライムが存在するらしい。

 そいつらを試してみるまでこの町を離れるつもりはない。


 そして、その目論見は当たっていた。

 オレンジスライムとグリーンスライムは、上位の技を覚えさせてくれた。

 ファイーヤーボールがファイヤーアローになり、更にファイヤーランスも覚える事ができた。

 パープルスライムは少し違い、最初に覚えたのは”マギ・ストロング”という技で、これを発動すると1時間ほど力が倍くらいになった。

 2匹目は”マギ・フォーミング”という技で、これは石や土を変形させる事ができる。

 これを使えば、地面を盛り上げてドームを作る事ができた。

 つまり、野宿が安全になったのだ。


 ただ、中で火を使うと頭がボーッとしてくる。

 そこから、俺は空気穴の必要性を学んだ。



【あとがき】

 スライムを食べたらどうなるのか……という発想から生まれた作品です。

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