スライムショット

新素材コウスラ

 ダダダダダッ!

 1秒間に5発の弾を発射する魔道具は、ほぼ無敵だった。

 目の前のサイクロプスが、肉片を吹き飛ばしながら次々と倒れていく。

 

 1年前まで、冴えない冒険者だった俺。

 髪は大多数と同じ茶系で、瞳も同系色。

 身長は人並みで、やせ型。

 目立つところは何もない、15才の冒険者ガルラだ。


 目立つところはないのだが、一通り何でもできた。

 3元素の初級魔法に初級の回復魔法。

 最低限の剣技に体術とか身体強化も使える。

 それらは、結構簡単に覚えられたのだが、その先へ発展する事はなかった。

 つまり、器用貧乏ってやつだ。


 最初の頃は初級冒険者のパーティーに入れてもらえたのだが、パーティーのレベルが上がるにつれ、ついていけなくなってしまった。

 そんな俺に、1年前転機が訪れた。

 偶然立ち寄った魔道具屋の主人がアルケミスト(錬金術師)で、気に入ってもらえた俺に複数のものを混ぜ合わせるミキシングという魔法を教えてくれたのだ。

 そして、その延長線上にある物を成形するフォーミングもすんなりと覚えられたのだ。


 面白くなって、ミキシングとフォーミングを練習しまくった俺は、いつしか生体錬成に手を染めていた。

 構造の複雑なものは難しいのだが、特にスライムと色々なものをミキシングして遊んでいた。

 そしてとある日、スライムとギリコギ草を生体錬成すると鉄以上の硬い物質に変化する事が分かった。


 俺は硬質化スライムにコウスラという商品名をつけて、商業ギルドに依頼販売を頼むことにした。

 ガントレットや胸当、シールドにレイピア等だ。

 当然だが、スライム本来の色ではなく、染料などを加えて着色してる。

 商業ギルドの依頼販売を使えば、身元を隠して販売してもらう事ができる。

 その代わり、商業ギルドの審査に何日もかかってしまうのだ。

 

「ガルラさん、このレイピアですが少し柄が滑りますので、皮で柄巻きをした方がいいですね。よろしければ、ギルドの職人にやらせますけど。」


「あっ、それでお願いします。」


「あと、鞘とツバは少し色を変えた方がいいと思いますよ。」


「あっ、お任せします。」


 先に販売してもらったガントレットとシールドが好評だったみたいで、色々とアドバイスをくれるようになった。

 受注生産のヘルメットやスケイルメイルも注文が入っており、安定した収入も見込めるようになってきた。


 俺は家を借りて職人を雇い、細工や仕上げ、それとギルドへの運搬や連絡などは任せるようにした。

 自分でやるのは、ギリコギ草の採取とスライムの捕獲。

 生体錬成とフォーミングまでだ。

 俺の作業部屋は、スタッフも立ち入りできないようにして、製造の秘密が漏れないようにしてある。


 そんな作業部屋で作業をしていたら、不意にドアが開けられた。

 

「おいおい、随分と羽振りがいいじゃねえか!」


「ノックもなしで入ってくるのはどうなんだい?」


 入ってきたのはレックという名の冒険者で、俺より2才年上の男だ。

 俺が最初に入れてもらったパーティーのリーダーだった。


「俺とお前の仲じゃねえか。かてえ事いうなよ。」


「パーティーをクビになった時点で仲なんて消えたものと思っているけどね。」


「まあ、そう言うなよ。お前を一人前にしたのは俺だろ。」


「3回目のダンジョンで、ケガをしたまま置き去りにされただけの付き合いだったろ。」


「まあ、そんなつまんねえ昔話はいいじゃねえか。それよりも、コウスラの作り方を教えろよ。」


「何の事だ?」


「とぼけんじゃねえ!おう、ウラス入ってこい。」


 促されて入ってきたのは、うちで雇っている職人だった。

 冴えない風貌にボサボサ髪の老人が、ニヤニヤと薄ら笑いを浮かべている。

 ギルドの紹介で雇った職人で、確かに器用で使い勝手のいい男だった。


「ウラス……、ギルドの規約違反だと分かってるんだよな。」


「金を貰って、別の町に行けば問題ねえよ。さあ、俺もコウスラの秘密を聞きたいんだ。教えてくれよ、なあボス。」


「バカな……そんなの教えられる訳ないだろ。」


「ボスから言われて買い集めてるこのスラッグ鉄を加工してるのは分かってんだ。他にここまで軽くて硬い金属はねえからな。」


 スラッグ鉄というのは、鉄の30%の重量で鉄よりも硬く錆びない性質を持った金属だ。

 だが、加工するには超高温の炉が必要で、その超高温でも液化させる事はできず、軟化させて鍛造するのがやっとという金属だ。

 当然、切り出して成形するにはとんでもない労力が必要となり、ごく僅か出回っている武具は国宝級の価値がついている。

 俺の作っているコウスラは、そのスラッグ鉄を加工したものだと勘違いされたのだろう。


「残念だったな。スラッグ鉄を加工するのは、アルケミストと鍛冶師の複合スキル”フォーミング”を使うんだよ。こうやってな。」


 俺は、作業台の上に置いてあったスラッグ鉄を成形してナイフにしてみせた。


「バ、バカな!そんなスキル、聞いた事ねえぞ!」


「国全体で3人だったかな。だから、スラッグ鉄の加工品はそんなに出回ってないんだよ。」


「お前が4人目って事か。しょうがねえな、じゃ俺はこいつを貰っていくからいいさ。王都で売りさばけば当分遊んで暮らせるだろうからな。」


「お、俺はどうなる!」


「スラッグ鉄を簡単に加工できる方法があるっていうからお前の企みに乗ったんだ。あてが外れたのは、自業自得って奴だろう。じゃあな。こいつは餞別にもらっていくぜ。」


「二度と俺の前に顔を出すな。」


 レックとウラスは部屋を出ていった。

 俺はその足で商業ギルドに出向き、この事態を報告した。


「分かりました。申し訳ございません、ギルドの調査不足でご迷惑をおかけいたしました。」


「ああ、いいですよ。能力は確かにありましたからね。」


「それで、レックとかいう冒険者の方はどうしますか?冒険者証の取り消しも可能だと思いますが。」


「今回は様子見でいいです。ナイフを1本持っていかれただけですからね。」


「承知いたしました。それで、……今のお話ですと、ガルラさんはスラッグ鉄の加工ができるんですか?」


「ええ、まあ……」


「よ、よろしかったら、サンプルに何か作っていただけないでしょうか。」


「いいですけど。」


 俺は、ギルド長のいる席で、レイピアを1本作ってやった。


「し、信じられん。伝説と言われたスキルを持つ者が、こんな身近にいたとは……」


「ギルド長、これが政府に知られたら大変な事になりますよ!」


「ああ、間違いなく国家錬金術師として連れていかれてしまう。いいか、これは絶対に漏らしたらいかんぞ!」


「「「はい!」」」


 その日から、俺の工房はギルド内に引っ越しさせられ、外出時には必ず護衛が同行するようになった。

 そして俺は次のステップとして、遠隔攻撃を考えるようになった。


 最初は吹き矢を作ったのだが、息だけでは10mがやっとだった。

 風魔法を併用する事で威力と射程距離を伸ばす事はできたが、矢を傘状に作らないといけないし、連続で撃つ事が難しい。

 俺は、師匠である魔道具屋のオヤジさんを訪ねた。


 苦しい時の師匠頼みだ。


「まったく、人気の職人がいちいちワシの意見なんぞ聞きにくるんじゃない。」


「そう言わないでくださいよ。これ、この前欲しいって言ってたスラッグ鉄で作ったナイフです。」



【あとがき】

 スライム素材シリーズです。

 まだ、右の肩とクビの痛みが消えず、眠れない状態が続いてます。

 考えていれば痛みを紛らわせる事ができるので……、スラスラが続いてます。

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