極東の戦士たち

「それで、今日はなんじゃ。」


「遠隔攻撃用の武器が欲しいなと思ってるんですよ。」


「遠隔かよ。普通に考えれば弓や投擲じゃな。」


「吹き矢を作って、風魔法で威力を上げたんですけど、射程距離15mがいいところだし、なにより弱いんですよね。」


「当たり前じゃ。吹き矢なんぞは、先端に毒を塗って使う、どっちかといえば暗殺向きの武器じゃぞ。」


「そ、そうだったんですか……矢も加工が大変だし、方向性を変えた方がいいのかな。」


「正確性には欠けるが、こういうのもあるぞ。」


「何ですかこれ?」


「スリングショットといってな、この皮の部分で弾をつまんで、ゴムの勢いで飛ばすのじゃよ。」


 店の裏で試射してもらったが、簡単な造りのわりにとんでもない威力だった。

 撃ちだされた1cmほどの鉄球は、木の幹に2cmほどめり込んでいる。


「子供でもそこそこの威力を出せるんじゃが、構造上正確な射撃は出来んのじゃよ。」


「だったら、吹き矢と組み合わせて、パイプの中を通したらどうだろうか。」


 俺は黒板に簡単なスケッチを書いた。


「それだと、ボウガンと同じ構造じゃな。」


「だが、飛ばすのは矢じゃなく弾だぜ。」


 師匠と意見を出し合いながら、ゴムを引いて仮止めし、弾をセットして弾き出す道具を実際に作ってみた。

 

「まあ、威力と精度はそこそこじゃが、一連の行動が面倒じゃな……まてよ。」


「何かうまい方法があるのか?」


「吹き矢の威力をあげるのに、風魔法を使ったと言っておったな。」


「ああ。」


「ゴムとアームをとっぱらって、風魔法だけで射出したらどうじゃ。」


「俺の風魔法は初級だから、そこまでの威力は出せねえよ。」


「ちょっとまってろよ。確かここに……ああ、これだ。」


「何だよこれ、……魔法陣ってやつか……」


「上級風魔法のエアーハンマーといってな。空気を圧縮して撃ちだす強力な魔法じゃよ。」


 構造的にはシンプルなものとなった。

 魔法陣を刻んだグリップの上に射出部のパイプと仮止めを解除するトリガーという構成だ。

 弾込め穴は、空気が漏れないように開閉式にしてある。


 バシュ!

 トリガーを引いた瞬間に、発動したエアーハンマーが1cmの弾を射出し、生木に10cmほどめり込んでいる。


「成功じゃな。」


「ああ。これなら申し分ねえ威力だよ。あとは、連射できるように上部から次の弾が補給されるようにしてやれば実戦で使えるな。」


 改造していったところ、上部に弾倉をつける事でどうしても重たくなってしまう。

 そのため、本体も弾もコウスラで作り、弾のサイズも5mmに縮小した。

 これで、より多くの弾を装着できる。

 全長も50cmに拡大し、弾は400発まで入れる事が可能となった。

 

 グリップの魔法陣を刻んだ部分には皮を貼り付け、表面には見えないようにしてある。

 パシュッ!パシュッ!と連続で撃ちだされる弾は、1秒で2発程。

 これでも十分に効果的なのだが、例えばゴブリンの群れに襲われた場合を考えると2倍は増やしたい。


「そうじゃな、魔法陣の発動速度を上げるには、水晶の粉を魔法陣をなぞるように均等に付与してやる必要があるんじゃが……」


 俺はフォーミングで水晶をそのまま変形させて定着させてみた。

 発射速度は1秒間に10発まで上げる事ができた。

 更に、魔石を魔法陣の回路に組み入れる事で、威力を上げる事ができると教わった。

 ただし、威力を上げるには魔石からのチャージ時間がかかってしまうため、連射はできなくなる。

 そこで、この2つを切り替え式にしてみた。

 つまり、連射モードと単発モードだ。


 俺はこの武器にスライムショットと名付けて実践投入した。

 肩から革ひもでぶら下げるために、持ち運びも苦にはならない。

 

 俺はソロになってから入ったことのないダンジョンに挑戦していった。

 護衛の二人は、相変わらずついてくる。

 スケさんとカクさんの二人は、Bランクの冒険者で元から仲間だったようだ。

 剣士タイプのスケさんと、探索者タイプのカクさんは本当に頼りになる。

 

 二人は東の外れにある小さな国の出身で、正確にはスケさんの職業はブシ。カクさんはニンジャという職業らしい。

 ダンジョンに潜るようになって、俺は二人の装備も作り変えてあげた。

 当然、二人の意見を聞きながらだ。


 まずはスケさんからだ。

 今使っているのはショートソードという片手剣だが、元々はカタナという片刃の剣を使っていたという。

 その折れてしまったカタナを研ぎなおして短剣として使っていたので、その組成を再現して刃長70cmのカタナを作る。

 カタナは反りのある形をしており、峯に沿ってヒという彫りを入れる事で独特の風切り音を出すのだそうだ。


 ナカゴという柄の部分に彫られていたメイというのも再現した。

 俺の知らない文字だったが、テンメイという文字だそうで、天が鳴くという意味らしい。


 ヒュン!


「おお!まさしく天鳴の音!まさか、もう一度これを手にする事ができるとは!」


「折れたり刃こぼれしたらすぐに治しますから言ってくださいね。」


 他にも籠手をコウスラで作ってあげたら喜んでくれた。

 何より、カタナを抜いた時の気迫は、剣とは比べ物にならない。

 それだけ、スケさんにとっては大切なものだったのだろう。


 カクさんの希望は、似たような片刃の剣だが、ニンジャトウというらしい。

 カタナと同じ鉄中心の組成だが、反りがなくヒも不要だという。

 刃長も40cmと短い事から、斬りあい用とは思えなかった。


 他にも、コウスラを使ってクサリカタビラというチェーンで作ったベストや、カギヅメという手甲。いくつかの暗器も作った。


「くくくっ、まさか再び忍びとして働く日が来るとは思いませんでしたよ。」 


「カクさんにはこれも渡しておきます。」


「これは!スライムショットの小型版ですか。」


「弾倉には50発しか入れられませんし、単発仕様です。」


「十分ですね。ほう、服の内側に吊るすタイプのホルスターですか。抜きながら撃つ練習もしないといけませんね。」


 職人用のシールドやガントレットは、1週間分程作り置きしておいて俺たち3人のパーティーはダンジョンの挑戦を頻繁に行うようになった。

 正直なところ、今までで一番楽しかった。

 金銭的にも余裕があり、職人としての仕事もある。

 何より、冒険者として3人パーティーの力になれている事が嬉しい。


 ここ、コアの町から行けるダンジョンは中級と上級の2か所があり、俺たちのパーティーは今のところ中級ダンジョンに挑んでいる。

 色々と素材を調合しながらのダンジョン行なので、多分他のパーティーよりも時間がかかってしまう。

 リザードマンの皮にキラースパイダーの糸を混ぜたり、内臓を調合したりして様子を見る。

 

「ボス、見るからにヤバそうな色のそれは……」


「うん、リザードマンの肝臓は精力剤の原料として使われるんだ。そこに、火炎ムカデの体液とキラースパイダーの毒を混ぜてみたんだけど……」


「なんか煙が出てないですか?」


「うっ、発火した!」


「に、逃げましょう!」


 それは、激しく燃えたあとで光る灰になった。


「何で光ってるんですかね?」


「さあ……でも、色のついてないこれだけ強い光なら……」


 俺たちが使っていたのは、発火石という衝撃を与えて燃やす石で、そこまで明るくはないがダンジョンで普通に使われる照明だ。

 発火石は2時間程で燃え尽きてしまうので、それよりは明るい光だ。


 この灰を固めて、コウスラで作った棒の先に固定してやる。

 これで、長い時間光ってくれれば、ダンジョンの照明として使えるかもしれない。



【あとがき】

 発火石。イメージは1cmほどの石で、低温発火します。

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