ライボ

 内臓の燃え後に残った光る灰は、丸3日光り続けた。

 まさか、肝臓と体液と毒液が燃えた後の灰がこんな事になるとは……


 工房に戻ってから成分を分析し、必要な成分を粉末にしてみた。

 3種の粉を別々に持っておき、必要な時に混ぜてやる事で急速に燃焼して発光する灰になる。


「色々と試した結果、灰の量で光の持続時間を調整できる事も分かりました。」


「それで、灰をこの玉に入れて持ち歩けばいいって事ですね。これも人気商品になりますよ。」


「素材は冒険者ギルドに採取依頼を出せばいいし、乾燥はギルドの職人でもできますから、俺が手を出さなくても大丈夫ですよね。」


「はい。ガルラさんには売り上げの1割をお支払いしますから、全部ギルドにお任せください!」


「分かりました。それで、光り終えた灰が残りますよね。」


「はい、そうですね。」


「光りはじめと終わりで比較すると、無くなっている物質があるんですよね。」


「それって……」


「はい。それが何なのか分かれば、繰り返し光らせる事ができるんじゃないかと思って。」


「えっ?」


「うまくいけば、最初に燃やさなくても光るんじゃないかって思うんですよね。」


「えっと、やってみますね。」


 俺たちは外に出て3種の粉を混ぜて発火させ、光りだした灰から確認できている成分を分離して抜き出した。


「あっ、光が消えた。」


「これを戻してやると、また光ります。」


「ホントですね!」


「この成分を含むものが見つかれば、建物でも使えると思いませんか。」


「えっ?」


「今は、ランプに毎日油を追加して火をつけているでしょ。」


「えっと、普通の事よね。」


「こういう灰を入れたガラス玉をランプの代わりに壁につけて、暗くなったら一晩分の粉を追加して光らせたらどうでしょう。」


「……ランプの光って、揺らぐしオレンジ色の光よね。それにあんまり明るくないし、事務処理には厳しいのよ。」


「このボールに変えてもらえば、昼間並みに仕事してもらえるし、火事の心配もなくなりますよ。」


「……分かりました。ギルマスに言って前面支援をお願いしてみます。だからガルラさんは、その素材を探してください。」


 俺たちのパーティーは中級のダンジョンだけでなく、上級のダンジョンまで出向いてモンスターや植物の組成成分を確認していく。

 そして、アカハラトカゲというモンスターの爪等にその成分が含まれている事も突き止めた、


 光る灰はライトパウダーという商品名になり、追加で加えるアカハラトカゲから抽出した粉はドットと命名された。

 ライトパウダーは白い粉で、ドットは赤い粒だ。

 ライトパウダーの入ったガラス球に、一晩分のドットを加えて軽く振るだけで発光する。

 白い粉にする事も可能だったが、消費度合いが目に見えた方がいいので、赤い粒のままにしてある。


「まさか、本当に追加の成分が見つかるとは思いませんでした。」


「元の灰はいくらでも再利用ができるから、このアカハラトカゲの捕獲を依頼で出せば量産できますね。」


「いや、さっき冒険者ギルドで聞いてきたんだけど、アカハラトカゲってここの上級ダンジョンでしか見つかっていないらしいんだ。」


「それって……」


「狩りの依頼を出してしまうと、あっという間に数が減ってしまうかもしれない。」


「じゃあ、どうすればいいんですか?」


「捕獲依頼を出して、繁殖させられればいいんだが。」


「アカハラトカゲを養殖ですか!」


「幸い、体長50cmとそれほど大きくないし、毒もないだろ。」


「そうみたいですね。」


「ダンジョンの外の岩場でも出現しているし、エサは小型の小動物やカエルとかだろう。ほら、町の西側にある岩山なら繁殖できるんじゃないか?」


「……分かりました。ギルド長に相談してみます。」


 ギルド長と領主を説得するために、サンプルを作って運用して見せた。

 灰を入れたガラス球に、毎夕方アカハラトカゲから採った粉を混ぜて発光させる。

 商業ギルドと領主邸のホールは、朝まで昼間のように明るいのだ。

 

 アカハラトカゲの爪は、切っても10日程で伸びてくる事が分かった。

 商業ギルドでは専任チームを発足させて、西の岩山を壁で覆い、冒険者が捕まえてきたアカハラトカゲの養殖が始まった。

 雑食性のアカハラトカゲは、カエル・ネズミ等の小動物の他に、リンゴやパパイヤ等の甘い果実や木の実もよく食べる。

 そして空腹時以外は非常におとなしく、特に岩の上で寝ている時には、簡単に爪を切る事も出来た。


「歯もないので、爪の攻撃に注意すればそれほど危険ではありませんね。」


 半年後には繁殖も確認され、外敵のいない岩山でアカハラトカゲは数を増やしていく。

 死んだ個体から採れる皮は、ベルトや靴などに加工され、硬いといわれて敬遠された肉も、弱火で長時間煮込むとトロトロになって美味しくなる事も分かってきた。

 こうして、アカハラトカゲの養殖は町の産業として定着した。


 この光る球は、領主によってライボと名付けられ、金貨1枚で販売された。

 金貨1枚あれば、家族4人が3か月暮らせる金額だ。

 公共の施設や商店などへは、すぐに広まっていく。

 そして、富裕層だけでなく、一般家庭でも一つから2つ程度は保有するようになっていく。

 

 当然だが、ランプ職人やロウソク職人などの仕事が減ってしまう事から、商業ギルドはこうした職人にライボ関係の仕事を斡旋した。


「はあ、月に1000個の生産体制は作ったんですけど、王都や他の町から注文が殺到してて、とても間に合いません。」 


「そうすると、追加パウダーも足りなくなってきそうだね。」


「そうなんですよ。養殖場の拡張も計画されてて、とてもコアの町だけでは対応できなくなってきているんです。」


「それで、どうするの?」


「他の町の商業ギルドに外注する事が決定しました。ガラス職人は他の町にもいますし、リザードマンや火炎ムカデ・キラースパイダーも出現するダンジョンがありますからね。」


 他の町で作って販売する場合でも、俺の手元には売り上げの10%が入ってくるらしい。

 まあ、今でも月に数百枚の金貨が入ってくるし、商業ギルドに預けてある金貨は、もう3千枚を超えているらしい。

 商業ギルドに預けてある金貨は、他の町の商業ギルドで引き出す事も可能らしい。

 金貨100枚以上の預金者情報は、毎日更新されているらしいので、会員証さえ提示すればいつでも引き出せるらしい。


 そんな折り、俺は王都への同行をギルド長から頼まれた。

 行くのは、ギルド長と俺の担当であるネラさん、それとスケさんカクさんだ。


 王都まで500km。

 馬車で1日30kmほど走れるので、まあ20日みておけばいいだろう。

 ダンジョンへの行き来もあるので、俺も馬車を持っている。

 馬車の車輪と車軸受けには、新規開発したスラゴムという衝撃を吸収する素材を使っている。

 主要部分にはコウスラで補強してあるし、特殊な装備もある。


 座席を倒せば、中で寝る事もできるのだ。

 御者は、スケさんとカクさんが交代でやってくれる。


「何でこの馬車は揺れないのかしら……」


「あっ、特別仕様です。」


「こういうのを、一般に広めれば、馬車の移動が楽になりますよね。」


「これ以上忙しくなりたくないですよ。」


「それは分かりますけど、ご自分だけというのはズルいんじゃありませんこと。」


「だって、ギルド長の馬車を加工したら、領主もって言い出すでしょ。」


「それはそうですけど……」



【あとがき】

 ライボによる生活革命

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