王都で暮らす事になった
「日が暮れてきましたね。スケさん適当な野営地を見つけてください。」
「ああ、丁度野営地らしいのがありますよ。」
確かに焚火の跡が残っている。
定期馬車等が野営に使っているのだろう。
俺はライボに追加パウダーを入れて四隅にぶら下げた。
馬車の全周が30mほど明るくなった。
「ライボは本当に便利なものですね。」
「その気になれば、夜間走行も可能ですからね。」
スケさんは馬の固定具を外して、馬を休憩させている。
カクさんは焚き木を探しに木立の中へ入っていった。
俺は馬車の底につけた留め具を外し、板を引き出して折り畳み式の足を出してテーブルとベンチを用意する。
「そ、それって……」
「テーブルと椅子があった方が食べやすいでしょ。」
「はあ、つくづくこのパーティーに常識は通用しないんですね。」
そこへカクさんが木を抱えて戻ってきた。
「ボス、枯れ木が見つからなかったので水抜きをお願いします。」
枯れ木が無ければ、生木を切って乾燥させればいい。
というよりも、枯れ木を探す時間など無駄だと思っている。
焚きつけの小枝も必要ない。
火の魔法で燃やしてやればいい。
火が付いたら、スラッグ鉄で作った枠組みをセットして、鍋を火にかけ水分を抜いた固形シチューと水を入れて加熱する。
「そ、それは何ですか?」
「ギルドの向かいにある六角亭で作ってもらったシチューです。水分を抜いて固形にしてあるので、水で戻してやるんです。」
「そんなの聞いたことがありませんけど。」
「ギルド長、考えるだけ無駄だと思います……」
「だって……、そっちは生肉ですよね……」
「馬車の荷台に、氷を入れた保管庫があるんです。スラゴムのパッキンで完全に密閉できるし、冷温で保管できるので、生肉でも1週間くらいもつんですよ。」
「あっ、肉焼くのお願いします。」
カクさんはそういって、馬車の側面につけた足場を使って屋根に飛び乗った。
すぐにパパパパッ!と発射音がして、遠くからギャオンという悲鳴が聞こえた。
「い、今のは?」
「馬車の屋根に、遠隔攻撃用の武器が据え付けてあるんです。1秒間に10発発射できるし、多分ドラゴンでも撃退できると思いますよ。」
その後で、シチューと堅パンと肉をおいしくいただいた。
たとえ堅いパンでもシチューを含ませて食べると美味しいのだ。
夜は馬車の中で座席を倒して、毛布をかけて寝る。
見張りはスケさんとカクさんが交代でやってくれる。
途中で一度だけオーロックスの肉を補充し、俺たちは18日目に王都に到着した。
王都では、商業ギルド長に会い、外務局長という偉そうなオッサンとの会談に同席する。
「実は、隣のエマール国から申し出があって、ライボの製造方法を教えてほしいと言われておるんじゃよ。」
「はあ。突然のお申し出ですが、私どもは商業ギルドですからそれに見合った対価をいただけるなら検討させていただきます。」
「ああ。俺も同じ意見だし、局長にもそう申し上げたんだが……」
「エマールの現王妃は、陛下の姉上なのじゃ。そこを酌んで欲しいのじゃが。」
「おっしゃっている意味が分かりませんが。」
「局長は、無償で譲渡してほしいそうだ。」
「た、頼む。この通りだ。」
「でしたら、国がその分補填してくだされば結構ですわ。」
「いや、今の国庫にそのような余裕はないのじゃ。」
「では、今回の話しはなかった事で……」
「それは困る。エマールはこれを拒んだ場合戦争だと言ってきているらしいのだ。」
「それこそ、国がどうにかしないといけない問題ではないですか。」
「だが、戦力では到底叶うはずがないのだ。」
「……でしたら、国の貴族から臨時徴収を行って、対価を用意してくださいな。」
「そ、そんな事をしたら、反乱が起きてしまうではないか!」
「商業ギルドの会員が損をするのは構わないが、貴族が損をするのはダメって、理屈が通らないですよね。」
「それは……」
「商業ギルドが会員の利益を護れなかったなんて事になったら、全ギルドの反発は必至ですね。局長はどう考えているんですか?」
「……」
「これって、当然陛下は承知されているんですよね?おかしいんだよね、このレベルの話しだと、宰相が動きそうな事案ですよね。」
「くっ、やむを得ん。この小僧を拘束しろ!」
室内にいた兵士2人が動き出す。
当然だが、廊下に控えていたカクさんが飛び込んできて兵士2人を無力化した。
「こ、こんなことをしてタダで済むと思っているのか!」
「商業ギルドの担当は産業局長ですからね。産業局長を通して宰相に問い合わせていただきますよ。どう対処したら良いのかね。」
こうして俺たちは宰相と産業局長に呼ばれて城にやってきた。
「産業局長より報告を受けて確認したところ、エマールから外務局長に直接要請があって、独断で動いていた事が判明した。諸君には迷惑をかけて申し訳ない。」
「それで、事実確認はできたのですか?」
「外務局長という男は、元々シャルロット王女……現エマール王妃と恋仲にあったようでな、まあ、相手方の有利に事を運ぼうとしていたようだ。」
「では、断れば戦争というのは?」
「ありえん事だな。」
「はあ、安心しました。」
「ただ、多少強引にでもライボの開発者をエマールに取り込もうと画策しているのは事実らしいのだよ。」
「それは納得できますね。ライボの存在を知った時に、商業ギルド本部でも緘口令を徹底しましたからね。私も今回ガルラ君に面会して驚いたくらいですからね。」
「うむ。私も昨日報告を受けたからな。ライボが偶然の産物ではなく、色々な素材の調合を繰り返して生まれた発明品で、その後の分析と研究で今の形に至ったと聞いている。」
「ダ、ダメですよ!ガルラはコアの職人なんですからね。王都には渡しませんわ!」
「だがなぁ、こういう事はこれからも起こるぞ。そうなった時に、コアで対応できるのか?」
「で、ですが宰相、ガルラにはこれからもやってもらう事が山積みなんです!」
「……ふむ、既に他の発明品があるという事だな。」
「あっ……」
ギルド長の自爆で、馬車の車輪とかスラッグ鉄の加工とか色々とバレてしまった。
「まあ、今はワシの名前でエマールに書簡を送って相手の出方を待つとして、ガルラ君には当分王都で待機してもらうしかないだろうな。」
「俺は、ダンジョンに行ければ何でもいいですよ。ライボはコアの職人だけで対応できますしね。」
「ガ、ガルラ……」
「まあ、気が向いたらコアにも帰りますよ。多分……」
「となると、王都における住まいだな。最低でも2か月……うん、そういえばワシの屋敷の離れが空いてるな。どうだガルラ。」
「俺は寝られればどこでもいいですけど。」
「メイドも十分いるし、部屋数も十分にある。後ろにいる従者も一緒に住めばいい。」
こうして、俺は宰相の屋敷に居候する事になった。
離れには宰相の部下とか商業ギルドの職員も常駐する事になった。
スライムとかギリコギ草等は、商業ギルドが手配してくれるので、すぐに外へ調達に行く事もない。
宰相の屋敷には居間に一つだけライボがあった。
最初にやる事は、屋敷の照明をライボに変える事だ。
「ああそうか、追加パウダーをワンプッシュで補充できたら便利だよね。」
「ボス、そんな事をしたら、全部のライボを改造してくれと言われませんか?」
「それもあわせて対応してもらえばいいだろう。職人は大勢いるんだしさ。」
【あとがき】
王都編スタート?
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