第2話 冒険者として旅立つ
翌年、15才になった兄貴が王都ガルから帰ってきた。
俺も13才になっている。
兄貴を迎えた日の夕食は、いつになく豪華なものだった。
「よく帰ってきたな、アルト。」
「お帰り、アルト。」
「ただいま、父さん、母さん。」
「……」
「これで、我が家も安泰だな。」
俺はメシを食べながら言った。
「じゃあ、俺は役目を果たしたから、明日町を出る。これまで育ててくれたくれて、ありがとう。感謝している。」
「な、何を言ってるの?」
「お前は、アルトと協力して……」
「そんなのムリだって分かってるだろ。」
「ああ。ヨクサと協力なんて冗談じゃない。スライム農家なんて仕事もゴメンだよ。」
「アルトが家を継ぐかどうかは知ったことじゃない。母さん、死んだ母ちゃんの妹だからって引き取ってくれて感謝している。これ、少ないけど受け取ってくれ。」
「これは?」
「空いてる時間に冒険者として貯めたお金が入ってる。片手間にこれくらい稼げるようにはなったから、心配しないで……」
「ヨクサ……」
「ふん、なら、それは俺が効果的に使ってやろう。」
アルトは母さんに渡した革袋を強引に奪った。
「おっ、銀貨10枚か。これだけあれば、店を借りられるじゃねえか。」
「アルト!お前というやつは!」
メシを食い終えた俺は、部屋に戻って荷造りを始めた。
アルトというのは、昔からこういう男だった。
自己中心的で性格は粗暴。
頭も悪く、特技といえば上の者に取り入る事だった。
文字を覚えるのも俺の方が早かったし、計算を覚えるのも魔法を覚えるのも俺の方が早かった。
ただ、腕力はアルトの方が強かった。
まあ、2才年上だから仕方なかったのかもしれない。
だが、それでも一人息子だったからか、両親は金を積んでアルトを王都の学園に行かせた。
それが3年前なのだが、俺はこの通り、教会付属の幼年舎を卒業してから家の手伝いをしている。
その時、オヤジが部屋に入ってきた。
「本気なのか?」
「ああ、そのための準備はしてきた。」
「アルトは王都でも変わらなかったようだ。俺としては、お前にここを継いで欲しいのだが……」
「あいつが王都で何を学んできたか知らないけど、あいつに商売なんてムリだろ。失敗したら、ここを継ぐしかない。」
「……そうか。身体に気をつけてな。」
「オヤジから教わった事は忘れない。いつか、”自慢できる息子”になれたら帰ってくるよ。」
「ふふふっ、ここにいるよりも、そっちの方が期待できそうだな。」
翌朝、俺は王都に向かって歩き出した。
荷物は少ない。
腰にはナイフを挿して、背中のリュックには鍋と水袋。
それだけだった。
王都まで約1300km。
途中には3つの町があるものの、馬車でも20日ほどかかるらしい。
その間には6つのダンジョンもあるので、それを攻略しながら行くつもりだ。
今の俺は、伸ばした指先を”硬化”して”斬る”事もできる。
髪の毛を虫状にして飛ばし、上空から周囲を俯瞰(ふかん)する事だって可能なのだ。
俺は、2日に一度くらい、ウサギなどの小動物を吸収すれば食事も必要ない。
「あれは何だ?」
『お前が知らないものを、俺が知ってるハズないだろう……虫みてえだな。』
「跳びながら光る虫か。あれなら、ダンジョンでも困らないよな。」
俺はそいつを吸収して、”発光”の能力を手に入れた。
道中で遭遇するモンスターからは、魔石や角・牙・爪等の素材のほか、皮の使えるモンスターもいる。
動物は、基本、肉と皮なのだが、乾燥肉を作るには時間と塩が必要になる。
だから、肉を採るのは町に近づいてからだ。
サバクの町を出て4日目に、ツリトの町に着いた。
俺は、その足で冒険者ギルドに出向いて素材の買取を頼んだ。
「こ、これは!」
「ああ、川沿いに出てきた、8mくらいのヘビの皮ですよ。」
「まさか、ブラックボア!」
「ブラックボア?」
「あ、頭はどうしたんですか?」
「魔石はこっちです。」
俺はリュックから魔石を出して並べた。
確かに、ヘビの魔石はひときわ大きかった。
「目……目はどうしました?」
「えっと、川に捨てましたけど……」
これは嘘だった。
頭は、魔石を取り除いて吸収させてもらった。
そのおかげで、3つくらいスキルが増えた。
「まさか、ブラックボアの目を捨てる人がいたなんて……」
「そ、そんなに貴重な素材だったんですか!」
「貴重なんてものじゃないですよ。魔道具に加工すれば、スリープかマヒの効果を持つ魔道具にできるんですから!」
ああ、そのスキルは確かに吸収で得ている。
ちなみに、もう一つは魅了だった。
「まあ、捨てたんなら仕方ないですね。えっと、この魔石って、ドリアードじゃないですか!」
「枯れ木のモンスターですね。たまたま、群れでいましたから、ラッキーでした。」
「群れって……、どうやってあの擬態を見破ったんですか!」
「えっと……勘ですかね。」
俺の嗅覚に、擬態は通用しない。
それに、水分を吸収してやると、極端に脆くなるのだ。
「ブラックボアの皮とドリアードの魔石とマリンカの根は、依頼にもありますから、依頼達成になります。ヨクサさんはこれでCランクですね。」
「あっ、ありがとうございます。」
「買取と報奨で、今回は金貨5枚と銀貨2枚ですね。」
金貨なんて手にしたのは初めてだ。
俺はその金貨を持って、魔道具師の工房を訪ねた。
「こんにちわ。冒険者ギルドから教えられてきたんですけど。」
「ギルドの紹介かよ。めんどくせえな。」
「これ、良かったら食べてください。」
「ほう、カネヤの水菓子かよ。気が利いてるじゃねえか。」
ここを訪ねるならと、ギルドで手土産を教えてくれたのだ。
「それで、用件は何だ?」
水菓子を食べながら対応してくれた工房の主は、髭もじゃの白髪頭。
小柄で小太りで、どう見てもドワーフのオヤジだった。
「マジックバッグの作り方を教えてください!」
「ほう。お前は魔導士なのか?」
「いえ。魔法も使いますが、ソロで冒険者をやってます。」
「まあ、見込みは薄そうだが、指導料として銀貨1枚。成功したら金貨1枚だ。」
「それで、お願いします。」
「金貨1枚と聞いて驚かねえのかよ。」
「成功するという事は、魔力切れで倒れるという事ですよね。金貨1枚というのは、実質魔力ポーションの金額だと聞いています。」
「そこまで理解してんのかよ。まあ、いい。ついてこい。」
俺は工房主について、奥の部屋に入っていった。
「これは、金剛石の粉ですね。水晶の研磨に使うんですよね。」
「ああ。魔道具や魔法具にも興味を持っているみてえだな。」
「本で読んだ知識なんだけど、魔力を増幅してくれるのが水晶なので、魔術師のスティックは水晶を研磨して作ってるとか。」
「ああ。水晶を叩いたら割れちまうからな。道具に加工するためには、研磨するしかねえんだ。」
「こっちは、魔石を使った魔道具ですね。」
「魔石に魔法を書き込めるのは、自分の使える魔法だけだからな。」
「工房長はどんな魔法が使えるんですか?」
「ドワーフが覚えるのは、土魔法と身体強化系だな。お前は何の魔法が使えんだよ。」
「スリープとマヒ、適性は水系と雷系ですね。」
【あとがき】
初めての町で訪れた魔道具工房……
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