第2話 なぜか冒険者にされてしまった

「ギルドで製品の仕様を変更する時には、冒険者ギルド等に10個サンプルを渡して、10日間試用してもらい規則になっている。」


「じゃあ、この腕輪もそうなんですね。」


「ああ、サンプルを10個作ってくれ。」


 私は、午前中に10個のサンプルを作ってジョイさんに渡した。


「他にも出願中のものがあるって言ってたよな。」


「はい。疑似的に空気を固形化する魔法式を編み出して、靴と腕輪を出願しています。」


「な、何を言ってるのかな……?」


「えっと、この靴がそうなんですけど、起動すると……こうやって、空気中に足場を作る事ができます。」


「ま、待て!お前スカートだろ!」


「あははっ、中に短パン履いてますから大丈夫ですよ。」


「そ、そうか……。た、確かに室内なら、脚立代わりに使えるが……」


「外だと、崖や木に昇ったり、飛行系の魔物に対処できますね。」


「まさか、そんなものを……」


「先生にアドバイスもらって、色をつけたりして大変だったんですよ。」


「そ、そうか……」


「あとは、この機能を腕輪に付与して、空気の盾を出現させる魔道具です。」


「なにぃ!」


「空中に固定されちゃいますけど、サイクロプスの攻撃は防げるって聞いてます。」


「サ、サイクロプスだと!」


「魔道具局に出願したら、この機能を使って10時間効果が継続する野営用のテントを作れって言われて、今魔法式の記述を考えているところです。」


「た、確かに、そういう活用もできるな……」


「2人用から10人用まで5パターン作れとか、無茶言ってきますよね。」


「だ、だが、実現したら兵士の荷物はぐっと減るぞ。」


「でも、外から丸見えなんですよ。雨対策で、床を作れとか言われてるし、面倒なんですよね。」


「いや、軍隊での採用が決定してる魔道具なんだろ?」


「私が儲かる訳じゃないですから!」


「そ、そうか……」


「実家で販売するにしても、私はお金もらえませんからね。」


「……なあ。」


「はい。」


「それらをギルドで作らせてくれれば、特別ボーナスを出してやる事もできるぞ。」


「ギルドのボーナスなんて、高が知れてるじゃないですか。」


「だったら、歩合制にすればいい。30%までは交渉可能だぞ。」


「えっ!」


「この腕輪もそうなると思うが、認可から1年は許諾者の独占販売が保証されているからな。」


「それって……」


「腕輪が金貨1枚で販売されるとして、1000個売れれば金貨300枚だ。」


「い、家が買えるじゃないですか!」


「まあ、住居兼工房でも作ればいいさ。」


「靴やテントもお金になれば……、憧れのメイド付き生活も夢じゃないですよね!」


「ああ、メイドを雇おうが、奴隷を買おうが、好きにすればいいだろう。」


「ド、奴隷って……、まさか、ケモ耳モフモフメイドとか!」


「可能だろうな。」


 ギルド勤務1日目にして、私の目標が決まってしまった。

 目指せ! ”ケモ耳モフモフメイド生活!”


 初日から、量産品制作から解放されてしまった私は、毎日サンプルの制作に明け暮れ、サンプルが冒険者ギルドに持ち込まれる度に大騒ぎになったそうだ。

 当然だが、試用は高ランクの冒険者に割り当てられ、スライム技師シュリの名前は一気に広まっていった。


 ギルドとも、追加の販売権契約を結び、勤務時間中のテント開発も認められてしまった。


 10日後には、テントの出願書も提出し、数日で軍によるサンプル試用も始まった。

 身体強化の腕輪が販売されると、1週間経たずに500個が購入され、軍からの注文も殺到した。

 魔道具局も異例の扱いで認可を出してくれたので、私の考案した4品目は恐ろしい勢いで売れていった。



「如何ですか?たまたま、ここを拠点にしていた冒険者パーティーが解散したという事で、昨日売りに出た物件なんです。」


「これ、裏の建物は冒険者ギルドなんですよね。」


「はい。」


「1階の広間は工房で使うとして、キッチンと食堂と物置。2階は3部屋ですか。」


「庭は狭いですが、この立地で金貨100枚ならお買い得だと思いますよ。」


「分かりました。購入させていただきます。」


 ギルドで働き始めて半年。

 スライム技師のランクも”C”に昇格していた。

 お金も十分に貯まったので、昨日の仕事終わりに商業ギルドに出かけ、家を探していると申し出たところ、丁度いい物件が出たばかりとの事で、案内してもらったのだ。

 冒険者ギルドの裏ならば、防犯上申し分ないし、色々と都合がいい。


 お金は、ギルド間の口座送金ができるので、書類上の手続きだけで鍵を受け取る事ができた。


 実家から荷物を運んでもらう手配をして、いよいよ憧れの一人暮らしだ……

 考えてみたら、食器はあったが、鍋も釜もフライパンもなかった。


「こんにちわ。」


「あれっ、あなたは……確か、魔道具ギルドの……」


「はい。魔道具ギルドのシュリです。」


「どうしたの、こんな時間に。」


「今日から、裏の家に住む事になりました。」


「えっ?裏の家って……」


「ホント、すぐ裏にある赤い屋根の家です。」


「な、何で……」


「えっ?」


「出るって……言われませんでした?」


「出る……何が?」


「オバケですよ!」


「いやいや、アンデッドや死霊ならともかくオバケって……」


「今まで住んでいたのはBランクの冒険者パーティーですよ!そんなものなら退治できますよ。」


「なあ、いいですよ。それより、何か食べさせてください。」


「その前に……、シュリさんって、冒険者登録してませんよね。」


「そりゃあ、デスクワーク中心ですからね。」


「今、新人獲得キャンペーン中なんですよ。」


「いいです。それよりもごはんです。」


「いえいえ、今なら登録料半額でなんですよ!」


「ゴハンが先です!」


「しかも、5ポイントサービスなので、依頼を一つこなせば”E”ランクに昇格できるんですよ!」


「興味ないデース。」


「ぞ……ぞんなごど……いわないで……」


「な、何で泣いてるんですか!」


「し、新規勧誘できてないの……わだしだけ……」


「わ、わかりましたよ。ご飯食べたら……」


「ホント!絶対だよ!」


 こんな具合で、冒険者ギルド受付のアイさんに勧められて冒険者登録までしちゃいました。

 ついでの、薬草採取の依頼も受けさせられて、そのままEランク冒険者だそうです。

 薬草といっても、家の庭に生えていたんですけどね。


 そうして、家に帰ったんですが……工房の真ん中付近に、陽炎のように揺れる微かな光。

 これは……オバケ!

 ……な訳もなく……


「スライム光に似てるわね……」


 光の中に、パラパラと文字が浮かんでは消えていく。

 これは、溶解液に溶かした魔石の魔力が切れる状態に似ている。

 だから、一般的な魔道具の寿命は5年程度なのだ。


「という事は、元凶は床下にあるのね……」


 どうしようか悩んだ末、私は工具箱を持ってきた。

 スライム光に敏感な私だから、はっきりと見えているが、一般の人なら空気の揺らぎみたいなものだろう。

 多分、それがオバケ騒動の原因。


 私は、床板を固定しているクギを1本づつ抜いて、床板を外していく。

 3枚の床板を外して下を確認すると、光は土の中から発生している事が分かった。

 更に5枚の床板を外して地面を掘ってみると、ボロボロに腐った木の板が確認できた。


 ボロボロに腐った板が崩れないように、慎重に土をどけていったが、板全体を露出させるために2m四方の床板を外す必要があった。


 ボロボロとはいえ、木は10cmほどの厚さがあったようだ。

 慎重にも慎重を重ねて、腐った板を取り除いた下には石の階段が見えた。


「地下室?」


 私は、そうつぶやいた。

 明日も仕事だから、それほどの時間はかけられないが、私は魔道具のランタンを手にして石段を降りて行った。



【あとがき】

 首の痛みが酷くなり、左手は三角巾で吊っている状態。

 寝るのも辛く、1時間程で目が覚めてしまいます……

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