第3話 スライムの体液
「最初に聞いておきます。コディさん、フェルミナで働きませんか?」
「ムリです。俺はキャサリン・フェルミナを許す事ができません。」
「……なぜ、お母さまを?」
「6年前に、俺の目の前で森を焼かせた罪は消せません。」
「ろ、6年前?」
俺は森が焼かれた経過とその後について話してやった。
「……そんな事が……」
「まあ、あの女は許せないが、家族に対して恨みがある訳じゃない。あんたが敬意を払ってくれるんなら、俺もそれなりの対応はさせてもらうよ。」
「……王妃キャサリンと……血のつながりはありません。」
「えっ?」
「というか、私は第3王子の娘で、政略結婚の駒として養女に迎えられただけです。」
「……転落……」
「何も言わないでください。どこに”耳”があるかしれませんから。」
王女はそう言って屈託のない笑顔を向けてきた。
「では、具体的な交渉に入りましょう。馬車には金貨1000枚が積まれています。」
「ほう、それで決着かな?」
「いいえ。金貨100枚上乗せするので、こちらの条件としては城壁の復元。あなたの魔法なら、簡単ではないかしら?」
「まあ、半日もらえればそれくらいはできるな。」
「2点目は、領主邸の復元。完全とは言いませんので、この兵士が寝泊りできる程度にしてください。」
「いいだろう。」
「3点目は……」
こうして俺たちは正式に契約書を取り交わし、俺たち3人は森の拠点へと住居を移動した。
その代わり、金貨1000枚を手に入れたが、今のところ使い道はない。
約2か月後には、大勢の職人を連れて首都から兵士が訪れるらしい。
そして30日過ぎた頃、俺は3つ目の約束を果たした。
3つ目の約束は”王女を護る”というものだった。
その日、近衛兵たちは勇者パーティーを連れ出し、領主邸に残っているのは小隊長のフガと側近だけだった。
俺は領主邸の復元を行った際、姫さんの部屋に隠し通路を仕込んでおいた。
隠し通路を使ったときには、俺にだけわかる警報が発信されるようになっている。
その警報が鳴り響いたのだ。
隠し通路には認識疎外の魔法を施し、地下の非難空間には結界をはってある。
だが、他に逃げ道はない。
追い詰められれば王女は殺される。
俺は領主邸に急いだ。
「この部屋で何をしている?」
王女の私室でウロウロしていたフガに声をかけた。
「き、貴様!王女をどこに隠した。」
「隠したんじゃなくて、お前らから隠れてんだよ。」
「ふざけるな!王族の誘拐など、死罪だぞ!」
「じゃあ、王族の暗殺未遂はどうなるんだ?」
「我らは王女を捜しているだけだ!」
「剣を抜いて王女を捜すのか。逃がすなとか聞こえたのも俺の気のせいかな?」
「う、煩い!こいつを始末しろ!室内では派手な魔法は使えまい!」
「残念だったな。補助系の魔法も使えるんだよ。」
俺はその場の全員にマヒをかけて縛り上げた。
そして王女を解放し、勇者を待った。
「やっぱり仕掛けてきやがったか。」
「お前らを誘い出した奴も仲間だと思うが。」
「ああ、こっちは既に捕まえて口を割らせてある。だが、下っ端だからな、誰から指示されたのかは知らねえみてえだ。」
「じゃあ、フガに白状させるしかねえみてえだな。」
フガのマヒを治療し椅子に縛り付けた。
「王女の殺害を誰に頼まれた?」
「何の事だ!俺にこんな真似をして、ただで済むと思ってるのか!」
「大丈夫だ、お前が首都に帰る事はない。」
「なにぃ!」
「正直に話して楽に死ぬか、拷問で苦しみながら死ぬかの2択だ。好きな方を選べ。」
「俺は何もやってない。ウソじゃない!」
「知ってるか?異教徒を審問する時のやりかたなんだが、爪の間にクサビを打ち込んで一枚ずつ剥がしていくんだ。」
「や、やめろ……」
「ああ、俺もそんなのは好みじゃないんだ……けどな。」
勇者カタギリは薄気味の悪い笑みを浮かべた。
これがこの男の本性なのだとしたら、お友達にはなりたくないレベルの顔だ。
「で、できれば、あまり残酷な事は……」
「ですがねアリータ王女。こいつらは王女の命を狙ったんですよ。」
「ああ、そういえば……」
「何だ?」
「エルフの秘薬……自白薬というのがあったと思います。」
「なにい、そんなモンがあんのか?」
「森に戻って材料と作り方を確認してくるよ。」
最近開発した飛翔技ウィンドトルネードで森へ跳ぶ。
身体強化したジャンプに、風のトンネルを作って押し出して跳びあがるイメージだ。
風を受けやすくするため、手足を広げて抵抗を大きくする。
着地場所やコースなど微調整が必要だが、移動時間の短縮には効果絶大だった。
拠点に帰って古い本を確認する。
「材料は……ソトギ草と森トカゲの尻尾と森キノコとスライムの体液……、スライムの体液って何だろう?」
少し歩き回って材料を採取し、スライムを捕まえて湿った部位がないか確認するがそれっぽい感じはない。
「なあ、何か水っぽいもの出せないか?」
「キュウ?」
「水だよ……」
俺は池に手を浸して、手からポタポタと雫を滴らせてみせた。
「キュ!」
スライムから触手のようなものが伸びて先からポタポタと液体が垂れてきた。
俺はあわてて土魔法で器を作ってそれを受けた。
正直なところ、それが体液なのかは自信がない。
それらの素材を混ぜて煮出す。
沸騰したところで火から降ろして素材ごとツボに流し込んで完成だ。
ツボにコルクで蓋をして領主邸に戻る。
「自白薬ってのはできたのか?」
「ちょっと微妙な素材があって、それが正しいのか分からないんだ。」
「微妙な素材?」
「スライムの体液って書いてあったんだけど……」
「体液って血とかだろ。スライムの体液って事は、切った時に出るドロッとした水みてえなやつか?」
「広い意味では、人間でいうツバや汗とかおしっこも体液に含めるんだ。」
「で、どうやって採ったんだ?」
「スライムに頼んだら、触手みたいなのからポタポタ出してくれた。」
「……待てよ。スライムに頼んだ?どういう事だよ!」
「コディさんは子供のころからスライムと遊んでいたと言われましたよね。ペットを飼っていると何となく言っている事が分かるらしいですけど……」
「まあ、そんな感じかな。」
「……今回使ったのは、汗なのか小便なのか分からねえって事か……」
「沸騰させたから大丈夫だと思うけどね。」
勇者カタギリは兵士たちに命じてフガを押さえつけ、無理やりツボの液体を飲ませた。
「一口でいいのか?」
「一口で30分くらい効果があるらしい。」
「すぐに効果が出るのか?」
「いや、30分程でハイになって笑いだすそうだ。そうなったら煽てれば何でも話すようだ。」
「自白薬っていうか、抑えが効かなくなるってわけか……」
30分後、フガは笑いが堪えきれなくなったようだ。
カタギリの煽てにのってペラペラと喋りまくる。
王女の殺害は、フガが王妃に提案して採用されたと得意そうに話してくれる。
そして、聞いてもいないのに第1王子から第3王子の殺害まで自慢げに話してくれた。
前国王については、強心薬の入手は行ったが、どうやって死に追いやったのかは分からないとの事だった。
こうして、王妃側の貴族と主要兵士に関する情報など、フガのしている情報は全て聞き出す事ができた。
【あとがき】
自白薬……
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