第4話 首都フェミナン

「さて、どうしますか姫さん。」


「……父の仇を討ちたいです。酔って転落したなどという不名誉な汚名を晴らしてあげたい……」


 王女の目から涙がポロポロとこぼれている。


「どっちにしろ、増援が来てからでないと動けない訳だが……」


「となると1カ月後で、首都につくまで2カ月か……」


「当然ですが、私と同じ境遇にある従妹たちが気になります。」


「そうだな……、俺一人で先に行って……いや、向こうでも自白薬で白状させないといけねえか。」


「カタギリさんとコディさんお二人で行っていただけないでしょうか?」


「いや、それは姫さんが危険すぎる。次に来る奴らの中にも、絶対王妃側の手先がいる。」


「でしたら、ここは兵士たちに任せて三人でまいりましょう!」


「やっぱり、それしかねえよな。」


「二人が戻ると相手に警戒されるんじゃないのか?」


「……それは……確かにあるな。最悪の場合、行動する前に捕まっちまうか……」


「二人はゆっくり来てくれ。俺が先に行くから、手紙と信頼できる相手を教えてくれ。」


「どうやって首都にいくつもりなんだ?」


「空を飛んでいく。長距離を試したことはないが、多分2・3日で着くと思うぞ。」


 二人にウィンドトルネードを見せたら驚いていた。

 それから綿密な打ち合わせを行い、王女は宰相あての手紙と、最初に頼る産業大臣のウィリアム卿にあてた手紙を書いてくれた。

 俺は自白薬の素材を大量に集めてそれなりの量確保した。

 

 自白薬のツボやフガの自白記録と王妃派の一覧等をリュックに詰め込むと流石に大荷物になったが、俺は隣町に向けて飛び出した。

 西に飛び始めてすぐに、思いのほか寒い事に気が付いた。

 速度を上げると目を開けていられないし、速度を上げるほどに風が体温を奪っていく。


 7時間ほどで隣町タカナにたどり着いたものの、体は冷え切っていた。

 俺は飛行対策を整えるため、道具屋を訪ねた。

 

「なあ、防寒用の服や帽子みたいなものはないか?」


「何だよ、寒がりか。待てよ、北の町で使ってるのがあったな。」


 店主は目のところだけが開いた、首から被る革製のフードを出してきてくれた。


「大雪の時に外出するためのフードだ。これとセットになってる。」


 店主が出したのは、ゴム製で目の部分がガラス張りになったゴーグルという道具だった。


「あとはこの外套だな。水鳥の胸の羽毛を使った保温性抜群の代物だぜ。まあ、この町じゃ売れなかったがな、ガハハ。」


 俺は店主の言い値でそれを買った。

 一式で金貨1枚という、俺にとってはお買い得な装備だ。


 その日は宿で1泊し、体をゆっくりと休めた上で。翌朝早くタカナを出発した。

 余裕ができると空の旅は快適だった。

 風の音は耳障りだが、地上50mくらいを飛ぶと遥か彼方まで見える。

 次の町ダコダを通り過ぎ、夕方に首都に到着した。

 

 トコヨしか知らない俺にとって、首都フェミナンは圧倒的だった。

 領主邸の10倍はありそうな城と広大な城下町。

 それを取り囲む5m程の城壁は上部が通路になっていて、行き来する人が見える。


 少し離れた場所に着地し、装備をリュックにしまって門から入る。

 国民証は正規のものを持っているから問題はない。

 

 産業大臣の私邸は地図に書いてもらっていたが、ひとまず腹ごしらえだ。

 目についたメシ屋に入ってお薦めの肉料理を頼んだ。

 出てきたのはオーク肉の香草焼きという料理と、パンと野菜のスープだ。

 何と言うか、まあそれなりの味だった。

 銅貨5枚の料理だし、こんなものか。


 地図を頼りに、人に聞きながらたどり着いた産業大臣の私邸は、領主邸と同じくらいの屋敷だった。

 門番に大臣への面会を求め、王女からの紹介状を提示する。

 運よく大臣は在宅していた。

 通された応接で、俺は大臣と面会した。


「申し訳ございません。茶は結構です。人払いをお願いできませんか。」


「どういう事だ?」


「声に出さず、これを読んでいただければご理解いただけると思います。」


 大臣は王女からの手紙を読みながら、兵士と執事を部屋から出した。

 その目が潤んでいる。

 俺は部屋に遮音の結界を張った。


「音が漏れない魔法を使いました。何を話しても大丈夫です。」


「ああ……。コジュといったか。トコヨの領主とも面識はあるが、まさか息子に助けられるとは思わなかった。本当に……アリータを助けてくれた事、感謝する。」


「別に大した事はしてませんよ。」


「うむ、向こうに気づかれぬように事を進める必要がある。まずは宰相だな……。コジュ、疲れているだろうが、同行してくれ。宰相に会いにいくぞ。」


「はい。」


 大臣は家の人に行先も告げず、出かけるとだけ言い残して、そのまま歩いて隣の屋敷に向かった。

 門は通らず、敷地の境にある小さな戸を開けて入っていく。


 そして、裏口のようなころろから勝手に中に入ってメイドさんに声をかけた。

 

「アニー、ジョージは帰っているか?」


「あっ、ウィル様。ご主人さまは先ほどお戻りになり、書斎におられます。」


「ありがとう。」


「お茶は必要ですか?」


「いや不要だ。」


 大臣は案内もなしに勝手に進んでいき、とあるドアをノックした。

 中から応答があり、ドアを開けて中に入っていく。

 俺も後に続く。


「どうしたウィル?」


「こいつはコジュ。亡きトコヨ領主の息子だ。」


 簡単に挨拶を済ませて、遮音の結界を張った事を伝えた。


「トコヨ領主の息子がいるという事は、アリータ王女絡みか。」


「まず、これを読め。」


 読み進めるうちに、宰相の目が潤んでくるのが分かる。

 俺は宰相宛の手紙と資料一式をリュックから出した。

 途中で食事を挟んで、二人は夜遅くまで資料を前にして話し合った。

 夜中に3人が合流し、5日は朝方まで話し合い、仮眠をとった後、朝一番で行動を起こしていく。

 

 最初に近衛部隊長と中隊長が拘束され、次いで国王と王妃が投獄された。


 宰相は全大臣を緊急招集し、前国王殺害の容疑で国王と王妃を捕らえたと発表し、その場で財務大臣と国務大臣も捕らえた。


「国王と王妃を捕らえるなど、これは謀反ではないか!」


「少ししたら証拠を見せます。それまでは、アリータ王女から送られてきたこの資料の説明をさせましょう。」


 宰相の指示を受けて、事務官らしき人が資料の読み上げを行っていく。

 これは、暗殺の記録なのだ。

 そして呼び集められたアリータ王女の従妹たちが続々と集まってくる。


 やがて準備ができて、国務大臣、財務大臣、近衛部隊長、中隊長の順で独白大会が始まる。

 当然、拘束された国王と王妃も同席している。


 最初のうちは、謀反だ反逆だと喚き散らしていた王妃だったが、とんでもない事を言い出した。


「私はトロニカ帝国の皇帝の娘よ。私に万一の事があれば、父はすぐに兵をあげてこの国を滅ぼすでしょう。それでも良いのですか!」


「アリータ王女様はその点も考慮され、強力な対抗力を用意してくださいました。ご安心いただいて結構ですよ。」


 宰相のいう対抗力とは俺の事らしい。

 確かにアリータ王女とカタギリが来るまではここにいると約束したが……。

 というか、トロニカ帝国との国境はトコヨの森なのだ。

 トロニカ帝国が進軍してきたら、俺は徹底的に戦う、いや戦わざるを得ない……


 大臣会議は、国王と王妃および実行犯は死刑と決定した。

 まあ、俺は王妃が消えてくれれば問題ない。



【あとがき】

 フェミナン制圧は無血で行われました。

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