第2話 王女アリータ・フェルミナ
第4王子が何故戴冠できたのか。
聞いたところ、第1王子は馬車の事故で死に、第2王子はキラービーに刺されて今も半身がマヒした状態だという。
そして第3王子は酔ってバルコニーから転落死したらしい。
「そして、2年前に前国王が急死して現国王が戴冠した。」
「メッチャ怪しいが、あの気の弱そうな第4王子がやったとは……」
「ああ。王妃の仕業だろうって、もっぱらの噂だ。」
「あのクソ女……あいつだけは絶対に許さねえ!」
「王妃を知っているのか?」
「ああ、あいつがトコヨの森を焼くよう指示したんだ。」
「森を?」
「森にはあいつの嫌いなスライムがいっぱいいたからな。」
「ウソでしょ!スライムなんて、こっちから攻撃しなければ害にならないじゃない。」
「この森のスライムは特に穏やかだった。一緒に遊んでいた俺の目の前で、あいつらはスライムを殺し、そして森に火を放った。」
「森を失ったせいで、町には食料が足りなくなり、みんなここから出ていったわ。」
「まあいい。それで、お前たちは金貨900枚でここから出ていくんだな?」
「町は明け渡してもいい。だが、トコヨの森は渡さない。」
「現状で森とは言い難いが……、町から出て行ってくれればいいだろう。だが、交渉が終わるまではここにいてくれ。」
勇者パーティーには夕食と寝床を提供し、翌朝帰っていった。
ここから首都フェミナンまで往復するならば最低でも40日以上かかると言っていた。
それにあわせて、森の中に広場を切り拓いて土魔法で家を作る。
そこに地下保存庫を作って、屋敷から物資を運んでいく。
麦や大豆、武器や衣類等の布製品だ。
その拠点づくりをしている最中、俺はスライムを見つけた。
6年ぶりに見るスライムだ。
拠点のすぐ近くには、水の湧き出る岩場がある。
多分、水を求めてやってきたのだろう。
そこから水路を拠点の横まで伸ばし、掘り下げて池を作ってやると、翌日からスライムの数が増えていった。
スライムは、小麦の粉を練り団子状にして焼いたものを好む。
俺が拠点の横で火を起こし、串に挿した団子を焼いているとスライムが寄ってきた。
鼻の穴は見たことないが、匂いを感じる部分があるのだろう。
スライムは団子を旨そうに喰っておる。
「旨いのか。毎日作ってやるからな。」
「キュウ!」
スライムは体を振るわせて声を出す。
スライムが増えるに連れて、森の成長が加速していった。
1.5m程だった若木が太くなり、1カ月程で倍の高さになった。
花を咲かせて実をつける。
森を維持するには間伐も必要だ。
木が密集しすぎると下草も生えなくなり、草食動物も居つかない。
適度に陽の入る森が健全な森なのだ。
「キュキュウ!」
「うん?北西に魔物か。分かったすぐに行く。」
スライムの言葉が理解できる訳ではない。
なんとなく感じるのだ。
あっち、不穏な侵入者みたいな感じだ。
スライムが先導してくれるので、俺は簡単に5匹のゴブリンを発見し、剣を使って討伐した。
森の中では火系の魔法は使わない。
これは小さいころから教えられてきた。
そして、50日が過ぎたころ、勇者たちが戻ってきた。
30人程の兵士が一緒だ。
その中に1台、見るからに他とは違う豪華な馬車がある。
「あれは?」
「今回の正式な交渉役だ。」
「じゃあ、この前の話しは?」
「国王に伝えほぼ決まりかけたんだが、王妃の横やりが入った。」
そこへ、兵士の中でも偉そうなのが話しに加わってきた。
「早く中に入らせろ!王女が待たれているのだぞ!」
「誰だ、こいつ。」
「近衛騎士団から派遣されてきた今回の護衛リーダーだ。」
「まあいいや、交渉の場所を作ればいいんだな。」
「ああ、頼む。」
俺は土魔法で簡単なテーブルと椅子を作り、周囲を覆って屋根をつけた。
「き、貴様!こんなところで、王女様と話すつもりか!」
「何を勘違いしているのか知らないが、俺はフェルミナの国民じゃない。立ち退きを希望しているのはお前らだ。」
「ふざけるな!」
「なあ、こいつら焼いていいか?」
「まあ待ってくれ。フガ小隊長、王女にここで交渉すると伝えてくれ。貴殿に相手との交渉権限は与えられていないハズだ。」
「くっ、勇者風情が……」
小隊長とやらは豪華な馬車の方に歩いて行った。
「苦労してそうだな。」
「まあ、勇者の力は持っていても、貴族じゃねえからな。」
少しして小柄な女性が従者を連れて歩いてきた。
白のシャツに黒いパンツという軽装だ。
茶色の髪は短くカットされており、活動的な印象を受ける。
まあ、1カ月近く馬車で揺られてきたのだ。楽な恰好なのだろう。
「お初にお目にかかります。今回、東方開発担当に任ぜられましたアリータ・フェルミナと申します。」
「トコヨのコディです。そちらの意向も確認せず結界内に入れる事もできませんので、こんな場所で申し訳ございません。」
俺達が即席小屋に入ると、サイティーがお茶の用意をしてくれた。
俺たちが普段飲んでいるハーブを使ったお茶だ。
ハーブの優しい香りが即席小屋を満たしていく。
「あら、すごく良い香りですわね。」
「エルフに伝わるお茶ですよ。積み立ての葉でないとこの香りが出ませんので、市井では再現できないでしょうね。」
「では本題に入りましょう。ここを明け渡すのに金貨900枚を要求されていると聞きましたが、間違いありませんか?」
「はい。」
「そちらは3人だと聞きましたが、例えば今回同行した近衛兵30名で強制排除する事も可能だと思いますけど?」
「やってもいいですけど、あの程度の兵士なら広域魔法一発で壊滅できると思いますよ。多分、結界に入ってこられるのも勇者だけでしょうし。」
「なにぃ!」
「フガ!あなたに発言の許可は与えていませんよ!」
「し、失礼しました。」
「そのお力を拝見させていただく事はできますか?」
「いいですよ。」
俺たちは小屋の外に出た。
小屋から出た瞬間に、小隊長から殺気が立ち昇ったが、勇者カタギリがそれを咎めた。
「やめておけ。お前だけじゃなく、王女も消し炭になるぞ。」
確かに俺は警戒を解いてはいない。
いつでも相手を殲滅する準備はできている。
「じゃ、影響のなさそうな場所を……」
俺は50mほど離れた場所に、直径5mの火柱を3本出現させた。
「土魔法の時にも思ったが、無詠唱な上に発動のタイムラグがねえんだな。」
「どういう事ですの?」
「防御魔法を発動する事も出来ないって事ですよ。あの熱量じゃ耐火の鎧があっても息ができない。完敗でしょうな。」
「フガ、あなたの意見は?」
「……だが、不意をつけば……、結界から出たところを、弓で集中攻撃すれば倒せます!」
「例えば、瞬時に風魔法を展開して、雷撃をお見舞いする。」
俺は異なる属性の魔法を同時に発動して見せた。
「あ、あり得ない……」
「まあ、人間の常識だと、使える系統は1種類。稀に2種類使える人もいるみたいですけどね。」
「き、貴様は何系統……」
「ああ、貴方のような礼節をわきまえない人に応える必要は感じません。何か不愉快なので下がらせてもらえませんか。」
「なにぃ!」
「フガ、これ以上あなたの意見は必要ありません。野営の準備をしなさい。」
【あとがき】
予想外で王女を登場させてしまった。
どうする……
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