第8話 魔法使いの杖

 特注の小屋で仮眠した俺は、昼頃町に戻った。

 ギルドでオーロックスとムカデを売り、総菜屋でシチューを受け取った俺は、道具屋でクズの水晶を大量に買い込んだ。

 宿に戻った俺は、部屋の中で水晶を並べ、ミキシングで一本にした上で不純物を取り除いてフォーミングで成形していく。

 実用品なので、細かい装飾をしても欠けてしまう可能性が高い。

 なので、先端を玉にして、その中に防腐処理をした白いマーガレットの花を包み込んだ。


 花は、昼間泉のほとりで摘んだものだ。

 最後に破損抑止のコーティングを施していく。

 こうして、全長30cm、オリジナルのワンドが完成した。

 

 俺は武器屋を訪れた。


「すいません。」


「おう、何の用だボウズ。」


「こういうのって、買い取ってもらえるんですか?」


「何だ、ワンドか。」


「純度の高い水晶を使って、オリジナルの技術でマーガレットの花を埋め込んであります。」


 明らかに店主の顔色が変わった。


「ガ、ガラス玉じゃねえのか?」


「魔力を流してもらえれば分かりますよ。」


「だがなあ……」


 その時、ふいに後ろから声がかかった。


「金貨3枚!」


 振り返ると、金髪の女性がいた。

 その後ろから覗いていた黒髪の女性が試させてほしいと申し出た。

 店にいた客5人と、俺と店主で外に出る。


「どこかの工房にいたの?」


「いた訳じゃないんですけど、ツリトのドランさんって人の工房で教えてもらいました。」


「ツリトのドラン……もしかして、王宮魔道具師をやめて引退したドランか?」


「そういうの知らないですけど、マジックバッグの作り方を教わりました。」


「行きます、ファイヤーボール!」


 ドーン!という音と共に撃ちだされたのは、とんでもない熱量の火球だった。

 

「い、今のが……」


「ファイヤーボールの威力じゃないわよ……」


「こ、これ、魔力をきちんと制御しないと、とんでもない事になるわよ……」


「国宝級?」


「その上ね、アーティファクトってやつかしら。」


「お姉さんならいくらで買ってくれる?」


「む、ムリよ、こんなの買えるわけないじゃない……」


「き、金貨30枚でどうだ!」


「王都に持っていけば、最低でも金貨100枚よ……」


「き、金貨50枚!」


「うーん、金貨100枚の杖なんて、飾られるだけで、使ってくれないでしょ。」


「そうね。」


「ちゃんと制御出来て、使いこなしてくれる人に譲りたいんだけどな。」


「……」


「ちょっと、私にも試させて!」


 最初に声をかけてきた金髪の女性が杖を持った。

 その女性は、杖を空に向けて少し間をおく。


「ウィンドカッター!」


 シュンと音を立てて撃ちだされた風の刃は、遥か上空を飛んでいた鷹のような鳥を切り裂いた。

 

「次は最高出力!」


 バシュっと撃ちだされた風の刃は、周囲につむじ風を引き起こしながら一瞬で大空に消えていった。


「お姉さんもなかなかだね。」


「まあね。これでも風のナンジェっていえば、そこそこ知られた魔法使いよ。」


「ダメよ!暴風のナンジェなんかに渡したら、町が壊されちゃうわ!」


「おだまりなさい!厄災のマリーに言われたくありませんわ!」


「まあまあ、イメージはナンジェさんがマーガレットで、マリーさんはこっちのライラックが似合いそうだよね。」


「えっ……」


「はいっ?」


 俺は2人に金貨1枚で杖を押し付けた。

 武器屋のオヤジは口をパクパクさせている。


 本当はレイラにあげようと思って作ったのだが、危険すぎるみたいだ。

 少し考えよう……


 当然だが、ナンジェさんとマリーさんからは、風と火の魔法をいただいてある。

 俺にとって、損はないのだ。


 ちなみに、ザガで開かれていた武術大会も観戦して、打撃技・蹴り技・関節技などを習得させてもらった。

 そして、タンポポの綿毛とも会わなかった。



 王都へ向かう道中は、金属収拾の旅となった。

 チタンは少ないが、鉄・金・銀・銅の他に、亜鉛・錫・その他宝石類を大量に確保できた。

 2か所のダンジョンでは、土系のモンスターと爬虫類系のモンスターを討伐した。

 スキルも、”擁壁”や”威嚇”など、それなりに確保できている。


「こ、これが王都かよ!」 


『ああ、俯瞰でみても、とんでもねえ広さだぞ。』


「迷子になりそうだな……」


 冒険者ギルドは、門を入ってすぐの場所だったので迷う事はない。


「すみません、買取をお願いしたいんですけど。」


「はい、モノは何ですか?」


「土とトカゲのダンジョンで狩った獲物なんです。数が多いんですが、優先的に欲しいものってあります?」


「肉系が欲しいんですが、ダンジョン系で急ぎはないですね。」


「じゃあ、オーロックスとイノシシを中心に出しましょう。マジックバッグなので、倉庫で出した方がいいですよね。」


 俺は先に冒険者証を提示した。


「えっ、あっ、Aランクの方だったんですね、失礼いたしました。」


 周りにいた冒険者が、驚いた顔で見てくる。

 こんなガキがAランクというのが信じられないのだろう。

 俺はお姉さんの後について、倉庫に移動する。

 さすがに都会だ、服装や化粧が地方とは違うし、お尻もプリプリしている。


「あら、お尻が好きなんですか?」


「ご、ごめんなさい。歩き方がきれいだなって思って。」


「うふふ、ありがとうございます。どちらのご出身なんですか?」


「北のサバクから来ました。」


「サバクなら、美味しいものがたくさんあるんでしょ?」


「サバクで美味しいって感じた事はなかったですね。それよりも、ツリトの宿屋の食事が美味しかったです。」


「ツリトですか、行ってみたいものですね。」


 話しているうちに倉庫に着いた。


「あら、こっちって事は、……マジックバッグ?」


「はい、お願いします。」


「じゃ、アカリ、よろしくね。」


「あいよ。ここに出してよ。」


「肉が欲しいって事だったんで、オーロックスから出しますね。」


「おっ、大物だね、嬉しいよ。」


 ドサッとオーロックスを台の上に出していく。


「3匹しか乗らないですね、床でいいですか?」


「ま、まだあるのかよ……」


「多分、まだ500匹くらい入ってると思います……」


「ど、どんだけでかいバッグなんだよ!」


「さあ?」


「だいたい、何が入ってんだよ。」


「ここからサバクまでの獲物ですね。」


「じゃあ、虫のダンジョンの獲物とかあるのか?」


「はい。ポイズンスパイダーと、赤ムカデ、黒ムカデに……ポイズンリザード。」


「お、おう……」


「全部3匹と、ついでに、サイクロプスとオーガも3体。」


「……」


「ああ、肉でしたね。イノシシとシカを5体。あっ、これはダメだ。」


「待て!何だ今の赤い奴は!」


「あーっ、内緒ですけど、サラマンダーです。」


「サ、ササ、サラマンダーだとぉ!」


「シィって、内緒なんですから。」


「あの、火山のやつか?」


「はい。」


「城に3枚のウロコが展示されてる……」


「多分。」


「……何で出さねえんだ。」


「俺が魔道具に使うからですよ。」


「魔道具だとぉ?」


「見ますか、俺の作った魔導調理器。」


「調理器?」


「ええ、これです。」


「ここに付いてるのがウロコか……」


「はい。このダイヤルで弱火、中火、強火に切り替えできます。」


「炭や薪を使わないって事か……」


「ダンジョンの中でも、暖かいシチューが食べられるんですよ。」


「お前……討伐をなめてるだろ……」



【あとがき】

 ついに、サラマンダーを見られてしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る