第11話 ダニエラ・バンシュタ

「さ、さっき上がってきた昇降機もつけてくれるんですか?」


「いや、あれは大がかりな建物の改修が必要だから、ちょっとムリですね。」


「えーっ、荷物だけでも運べると便利なのに……」


「あはは、次は町の外側に出ます。」


「えっ、城壁の外って事?」


「そう言う事です。少し前は森だったのですが、切り拓いて使っています。」


「こ、こんな使い方が許されるのですか?」


「城壁を加工しちゃいけないって決まりもありませんし、城壁の外は開拓した者が自由に使えますからね。」


「これって、城の敷地よりも広いんじゃないの?」


「畑を含めるとだいたい同じくらいですね。」


「畑もあるのか!」


「畑の前に、鳥の飼育場がここです。」


「鳥って、あれ、地面を走り回っているわよ。」


「殆ど飛べない種類なんですよ。繁殖期以外でもタマゴを産んで増えていくようになると思います。メスは7日で6個タマゴを産みます。」


「えっ、繁殖期以外でもタマゴを食べられるっていう事ですか?」


「できれば、全市民が毎日食べられるくらいにしたいですね。」


「それって……」


「3万羽いれば、3日に1度食べられるでしょ。」


「だって、タマゴみたいな贅沢品、年に1回食べられるかどうかでしょ!」


「えっと、食べたことないです。」


「それで、この先の畑ではサトウキビを作っています。」


「砂糖も贅沢品だね。」


「砂糖も、市民が手に入れられるくらいの価格にしたいんですよ。」


「それって……」


「もし、砂糖とタマゴに関わっておられる親族がおられたら、2年以内に暴落させますから注意してあげてください。」


「そんな……」


「いや、関係する貴族が黙ってないだろう。」


「でも、陛下も宰相も、俺に出ていかれたら困るから、身内を俺に嫁がせようとしてるんです。」


「じゃあ、伯爵令嬢との婚約も……」


「政治的な判断ですよ。まあ、エルザ王女はご自身が俺の嫁になると宣言してくれましたけどね。」


「そんなの、卑怯じゃないですか!」


「卑怯?市民の健康と幸福を願うのが間違っていると思うんですか?」


「……貴族の権利を護る事だって大切です!」


「何で?」


「えっ?」


「これまで暴利を貪ってきて、生産の拡大や自由競争をさせなかったのはそいつらの罪だろ。」


「それでも、安定した供給をしてきました!」


「まあ、鳥は知識がないとムリだったかもしれないが、サトウキビはいくらでも増産できたハズだ。だが、そいつらは何もしてこなかっただろ?」


「そんな……」


「畑を広げて、精製する設備を増やすだけだ。何でやらなかった!」


「冗談じゃない、うちは公爵家なのよ!」


「都市の民が俺を拒むなら、いつでも一式持って他所に行くだけだ。その時には、俺の提供したものは全部壊していく。」


「そんなもの必要ないわ!」


「自分達の利権だけを考えてるからそんな言葉が出てくるんだよ。俺に去られて困る一番の理由を見せてやる。ついてこい。」


 俺は全員を飛空艇に誘導して飛んだ。


「こ、これは!」


 課長が驚きの声をあげる。


「レイ、魔物を捜せるか?」


「温度センサーで探知できます。……大きいです、およそ50m。多分、島クジラ……仕留めますか?」


「ああ、やってくれ。」


「バカな!島クジラを怒らせたら都市が津波で襲われてしまうぞ!」


「氷槍、最大出力で発射します。」


 残念ながら発射音はないが、それでも軽い振動が船体を揺らす。

 高速で発射された槍は、次々にライトに照らされた島クジラに命中し、アタマが無くなった。

 レイは飛空艇を近づけてクジラを収容する。

 あんなのまで収容できるんだと驚いてしまった。


「よし、帰ろう。」


「承知いたしました、帰還します。」


「これがお前が必要ないと言った俺の力だ。」


「こ、こんなの、あり得ない……」


「お前の発言に怒った俺は湖畔都市にでも移住して、京浜都市に攻撃を仕掛けてやろうか。」


「ひっ……」


「貴族だというなら、自分の発言に責任を持て。さあどうするんだ?」


「……わ、わ、私……」


「公爵って事は、お前の父親が都市長の弟なのか……しらんけど、父親に泣き付いてみろよ。俺は構わねえぞ。」


「ひ……卑怯よ……」


「どこがだ?」


「私一人を悪者にして……あなた達も私をフォローしなさいよ!」


「ケ、ケンギ君、それくらいで……」


「課長も他の人も発言は認めないよ。今は、俺とこのクソ生意気な伯爵令嬢の話し合いなんだ。さあ、何が卑怯なのか言ってみろよ。」


「…………よ……」


「なに?」


「自分だけこんな力を持ってて卑怯だって言ってんのよ!」


「お前だって、今まで父親の威を借りて好き勝手やってきたんじゃねえのか?」


「うっ……」


「誰も自分に逆らえないとか思って、好き勝手やってきたんだろうが、違うか?」


「な、何を……いって……」


「さっきも言ったように、俺はこの都市に残る必要はないんだ。さあ、お前はどうするんだダニエラ。」


「ど、どうしろって……いうのよ……」


「自分で考えろバカ。」


「……ウウッ……」


「泣くんじゃねえよ、バカが。ひとつずつ順をおって考えろ。論理的思考ってやつだ。」


「……ろん……り。」


「京浜都市にとって、俺がいた方がいいか、いない方がいいかだ。」


 こうやって誘導し、最後には泣きながらダニエラが謝ってきた。


 帰還した俺は、みんなにプリンをふるまった。


「うまいか?」


 コクリとダニエラが頷いた。

 素直になったものだ。


「こういうのを喰うと、幸せだって感じるだろ。」


 コクリ


「俺は市民の誰もが、こういう感じになれる世界にしたい。分かるか?」


 コクリ


 飛空艇を降りてから、ダニエラは俺の服を掴んで離してくれない。

 心を折られて不安なんだろう。

 幼児退行を起こしているような感じだった。

 他のやつらはレイに送らせて、ダニエラは泊める事にした。

 同じベッドで抱きしめて寝た、


 寝巻は俺のやつで、ブカブカだったがそれはそれでおかしかった。

 

 朝になって朝食をとり、城へ連れていく。

 服は夜のうちにミュウたちに用意させた。

 ミュウたちと同じ格好だ。


 宰相の配下である総括課に行き、ダニエラは皆に謝った。

 夕べ、これからどうしたらいいかと話し合い、ダニエラ自身が出した答えだ。


 今日はこのまま帰るが、明日から出勤させると俺が言うと、拍手が起こった。

 これなら大丈夫だろう。

 俺はダニエラを公爵邸に送り届けた。


 俺は城に戻り、宰相と面会した。

 実は、宰相からダニエラを追い詰めてほしいと頼まれたのだ。

 これは都市長と父親も了解しての事らしい。

 だから、ダニエラをあそこまで追い詰めたのは、俺の意思ではない。

 まあ、クソ生意気な娘を懲らしめてやろうという気持ちも少しだけあった。


 翌日城に行くとダニエラは出勤していた。

 表情はまだ硬いが、俺が言ったように笑顔は作れているようだ。

 

 俺は課長の用意してくれた図面を手に、今日同行してくれたセイと共に城の中を確認して回った。

 レイは馬車の改造で、ミュウは遺跡から回収してきた機材の復元だ。

 カリンは遺跡から回収してきた機械人形の改造だ。


 城の3階は、都市長家族の私室だ。

 当然だが、エルザ王女の部屋もある。


「ちょっとケンギ、あなたダニエラに何をしたのよ!」


「いや、えっと、説教?」


「あの子がそんなもの聞くわけないでしょ!」


「えっ?」


「親の言う事も聞かない子が、なんでケンギのいう事なんて聞くのよ!」



【あとがき】

 さて、どうなる?

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