第9話 王都の魔道具師

 ギルドでの買い取り額は、金貨37枚になった。

 魔導調理器を見た職員のアカリさんからは、王家に献上するべきだと言われたがどうしたらいいんだろう。

 正直言って、王家とか貴族とか興味ない。

 

 とりあえず、道具屋に行ってクズ水晶を大量に買い込み、アカリさんに教えてもらった飯の旨い宿に入って10日の宿泊を頼んだ。

 そして、部屋に案内された俺は、水晶を精製して長い杖にする。

 頭の部分は、龍が玉を咥えたデザインにして、玉の中に赤いバラの花を入れた。


 出来上がった杖をウェストポーチに収納して、チタンの塊を取り出す。

 それを成形して、魔導調理器の形にする。

 足の部分や、鍋を支える部品も飾りをつけ、サラマンダーのウロコを固定して回路を構成する。

 ウロコ自体もリング状に加工してあるので、一目見ただけではサラマンダーのウロコとは分からないだろう。

 そして最後に魔石をセットし、外に出て動作を確認する。


 動作確認できた調理器を、過熱部分を除いて白く塗装してダイヤル部分には強・中・弱の文字を書いて完成だ。


 次に、チタンでケトルを作る。

 注ぎ口は細くして、カップに注ぎやすく工夫し、これも白で塗装する。


 ケトルを作り終えてから二つを並べてみると、少し物足りなく感じたので、細くツタのような模様を書いてみた。

 これなら、インテリアとしても見られるだろう。


「こんなもんかな。」

 

『魔導照明はいいのか?』


「ああ、あれを出しちゃうと、いくつ作っても足りねえからよ。」


『そういう事か。』


「まあ、剣術好きのお姫様いるらしいから、もう一つ作っておくかな。」



 準備が整った俺は、魔道具ギルドを訪ねた。

 

「すみません、フリーの魔道具師なんですが、上の方にお取次ぎいただけないでしょうか。」


「えっと、いきなり上の者と言われましても。」


 俺は冒険者証を提示した。


「ほう。そのお歳でAランクですか。」


「はい。実は、ツリトの町のドランさんという魔道具師に指導いただいたのですが、二人でこういう魔道具を開発したんです。」


「ドランさんの弟子という訳ですか、それは期待できますね。で、これは?」


「サラマンダーのウロコを使った魔導調理器です。」


「えっ、サラマンダー……」


「このダイヤルを操作すると弱い火がつきます。」


「ぐう……魔道具師としては、正直悔しいですね。こんな魔道具を開発されてしまうなんて……」


「中火と強火にも切り替えできますので、いつでも料理を始められますし、お茶も気軽に飲むことができます。」


「素材といい発想といい、感服しました。」


「ドランさんにウロコを100枚渡してありますので、少しずつ市場に出てくると思いますよ。」


「ふむ。で、これは、献上品という事ですか?」


「はい。そう考えてきました。」


「お待ちください。ギルド長に伝えてまいります。」


 少しして、応接に案内され、ドランさんによく似たドワーフっぽい壮年の男性が入ってきた。

 もう一人、中年の女性が一緒についてきた。


「よく来たな。お前がドランの弟子というのは本当か?」


「弟子という程ではありませんが、魔道具造りをいちから教えてもらいました。」


「そうだよな、あいつが弟子をとるとは思えんからな。」


「ドランさんをご存じなんですか?」


「弟弟子ってやつだな。同じ工房で鍛えられたんだよ。」


「世間話はいいわ、速く魔道具を見せてちょうだい。」


「あっ、はいこれです。」


 俺はポーチからもう一度魔導調理器を取り出してテーブルに置いた。

 女性は興味深げに調理器を持ち上げたり、背面の接続を確認したりしている。


「これは、鉄じゃないのね。」


「はい。鉄よりも軽いチタンを使っています。」


「これ、出力を落とさないとどうなるの?」


「火柱が上がりますね。」


「この部分が発火するのよね、素材は何を使っているの?」


「サラマンダーのウロコです。」


「まさか……城に展示してあるアレ?」


「見たことありませんが、多分そうです。」


「ウロコが何でリングになってるの?」


「俺のスキルで、物質を変形できるんです。」


「チタンもそのスキルで加工したのね。」


「そうです。」


「魔石への魔法付与はできるの?」


「はい。えっと、……ああ、ありました。発光というスキルを付与した魔導照明です。」


 照明のスイッチを入れて点灯して見せた。


「あっ……」


「えっ、何か?」


「……いえ、その発光というスキルも持っているって事よね。」


「はい。」


「ふう。水晶で魔石の魔力を増幅してるのね。こんなものが知られたら、城で強制労働させられるわよ。」


「ですから、これは公開しません。」


「……ちょっと待って。魔石に書き込みだけなら、1日に100個くらいできるんじゃない?」


「はあ。」


「魔石を持ってくるから、やってみてくれる?」


「魔石ならいくらでもありますから、いいですよ。」


 俺はリュックから魔石を一つかみ取り出した。


「お願い。10個くらい魔法を書き込んでくれる?」


「あっ、はい。」


 俺はその場で、魔石に魔法を書き込んでいく。


「な、なんてスピードなのよ。」


 5分程で、10個の魔石に書き込んだ。


「これに魔力を流すと……光ったわ。」


「ルイーダ……」


「ヨクサといったわね。書き込んだ魔石を1個につき銀貨5枚で買いたいのだけど如何かしら?」


「えっ?」


「100個で金貨50枚よ。うちで商品化して金貨1枚で販売するわ。」


「はあ。」


「この調理器と一緒に一つだけ献上するけど、追加はお金をとるわ。」


「ギルドの建物でも10個くらいは使うし、城なら100個は確実だな。」


「金貨1枚なら、うちでも3個買わせてもらうわ。」


「今日中に200個作りますけど、あとは暇な時に作る形でお願いします。」


「結構よ。それから、ギルドで推薦する以上、あなたには魔道具師として登録してもらうわよ。」


「はい、分かっています。」


「ルイーダ、ランクはどうするんだ?」


「Bランクの魔道具師が作った魔道具を、陛下に献上できると思っているんですか?」


「だよな。新規登録のAランク魔道具師かよ……」


「あの、これも献上しようと思うのですが。」


 俺は杖をポーチから取り出して、テーブルに置いた。


「これは、魔法の杖か……」


「まさか、全部水晶で出来ている……」


「不純物を取り除いてありますので、出力は保証します。ザガの町で半分のロッドを作ったんですけど、アーティファクト級だと言われました。」


「それにこの赤いバラ……、スキルで水晶の中に入れたの?」


「はい。今回は展示品になると思いますので装飾品として作りましたが、悪用すれば国を破壊できるレベルに仕上がっています。」


「冗談には聞こえんな……」


「でも、正しく使えば、ドラゴンの大群が来ても国を護れる力という事よね。」


「そういう想いで作りました。」


 それから2時間、俺は工房に軟禁され魔石の書き込みを行った。

 献上用には、杖と同じ感じで、水晶の龍が魔石を咥える壁掛けに仕上げて、献上用の梱包をしてもらうため、一式をルイーダさんに預けて宿に帰る。


 宿で食べた夕食は、俺の差し入れしたオーロックスの肉をトマトをベースとした複雑な味わいのシチューに仕上げてくれ、絶品の仕上がりだった。

 

「これって、弱火でもっと時間をかけて煮込んだら……」


「そうだな。一晩くらい煮込んだら、肉はもっとトロトロになると思うんだが……」


「いい方法があります。」


 俺は、宿の厨房用に、3台の改造型魔導調理器を設置した。

 ルイーダさんのアイデアで、”発火”の魔法を魔石に書き込み、出力を調整した魔道具だ。

 発火部分の魔石は、円盤状に成形してあるので、面で熱を発している。

 絶対に、これも量産しろって言われるよな……



【あとがき】

 魔道具師デビューです

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