第6話 ウォールβの実力
翌朝、出勤するとギルド長に呼ばれ、冒険者ギルド長から連絡が来たと言われ、魔道具ギルドからの全面支援と自宅勤務も可能だと通告された。
私は、朝一番で5㎥のキューブを作り出す魔道具を制作した。
これには、魔法防御と物理防御も付与できる。
「ジョイさん、これの持続時間と耐久性チェックをお願いできませんか。」
「おう、分かったぜ。」
「申し訳ないのですが、私は家で次の魔道具を考えますので、よろしくお願いします。」
家に帰った私は、レノアと二人で魔法書を読み漁った。
その結果、2日で必要な情報を得る事ができた。
イヴの基盤に使われていたのは、銅に魔石の粉を混ぜたものだった。
この混合に必要な魔法も本に掲載されていた。
「いくわよ。”ミックス”」
銅板の上に散りばめた魔石の粉が光を放ち、銅板と一体化していく。
そしてこれを成形する魔法もあった。
「”フォーミング”」
フォーミング中の銅板は、加工が簡単になる。
麵棒で伸ばして、ナイフで10cm角に切っていくことで魔銅板の完成である。
この魔銅板に魔法式を彫るのだが、これも魔法で可能だった。
紙に書かれた文字を”読み取り”、そして”刻印”すればいい。
魔法式の中には起動光や魔法式の既視化を抑止する記述も加えて在り、更に魔銅板を2枚合わせにして圧着する事で読み取り出来ないようにする。
そして、この魔銅板を収納する箱を用意して、所定の魔道具を使わずに箱を開けると、魔銅板が溶けだす仕組みも組み入れた。
レノアにも同じことができた。
どうやらこの子には、魔道具師としての才能があるようだ。
こうして私は、魔道要壁ウォールβを完成した。
1台のウォールβで、10mから1kmまでの長さの壁を作る事ができる。
10mの次は100mでその先は100m単位だ。
高さも2mから10mまで調整可能だ。
壁は重力に沿って形成されるため、傾いて敷設される事もない。
そして、上面には幅1m、高さ1mの溝を作ってある。
これは、上部から魔法などで攻撃するための溝だ。
当然、手前側には、上に昇る階段を100mごとに配置する。
私はトーチカΩの試作品を持って冒険者ギルド長を訪ねた。
「ご依頼の品が完成しました。」
「ほう。早かったな。」
「こちらになります。」
「うん?ずいぶんと嵩張るな。」
「魔石を魔力源に使っているのと、このダイヤルでサイズを調整できるようにしたためです。」
「待て!魔石を……だと。」
「はい。それが秘匿の必要な理由です。」
「隠す必要はないだろう!」
「……魔石を魔力源にした魔道具は、あまりにも強力です。」
「それがどうした。」
「武器に使うと、強力な破壊兵器になります。」
「だが、優れた魔法士ならば、町一つ破壊する事も可能だと聞くぞ。」
「魔法士ならば、そこで魔力切れを起こして殺害できます。」
「……魔道具ならば、それがないと……」
「あとで武器の見本もお見せしましょう。」
「まさか……作ってあるのか……」
「後ほど。」
冒険者ギルドの中庭は訓練場になっていた。
私たちは訓練場に移動してウォールβの動作確認を行う。
「じゃ、最初は一番小さく出しますね。」
私はウォールベータを高さ2m、幅10mで起動した。
「2mでも威圧感あるな。」
「これが、ご要望の高さ5mです。」
「うぉ!ホントに壁だな!」
「ギルマス!表側からみたら、とんでもないです。絶望的ですよ!」
「だろうな……」
「上に昇ってみましょうか。」
「ああ、幅はどれだけ広げられるんだ?」
「1台で1kmまで拡張できます。高さは最大10m。魔力源は魔石ですから、大きい魔石なら数年もつと思います。」
「10mで1kmって、石を積んだら何年かかるんだよ。」
「手すりはないから落ちないでくださいね。」
「この真ん中の溝は何だ?」
「上から攻撃するための塹壕みたいなものです。」
「触った感触は、そこまでガチガチって訳でもないんだな。」
「あくまでも空気ですからね。ホントは空気を圧縮すると水になるんですけど、そこを疑似的に固体化しただけですから。」
「分かった。これから、軍の訓練所に行って、最大サイズで見せてもらおうか。」
「えっ、訓練所って塀の外ですよね。」
「何だ、知っているのか。」
「テントの納品の時に行きましたけど……」
「今日は水曜だから兄上もいるはずだ。一緒に見てもらえばいいだろう。」
あまり、乗り気はしなかったが、王族の要望だし、聞かないわけにもいかない。
仕方なく馬車に乗った。
今回はライラとイヴも同行してもらっているし、滅多な事は起きないだろう。
馬車は、一度東門を出てから左へ曲がり、10分ほど進んだところに国軍の訓練場がある。
「今日も、みなさん元気ですね。」
「まあ、あれで給料をもらっているのだからな。」
「私にはムリなお仕事ですね。」
「お前は魔道具師だろう。他の追随を許さない程のな。」
「買いかぶりすぎですよ。」
馬車は城壁側にある隊舎に横付けされた。
そのまま冒険者ギルド長の後について建物に入る。
「お久しぶりです兄上。」
「珍しいなお前がここに来るとは。」
「実は、スタンピードの兆候が見られます。」
「なにぃ!」
「モンスターの数が増えてきていると報告がありましたので、ここにいる魔道具師のシュリに防衛用の魔道具を作らせました。」
「シュリというのは、確かテントの開発者だったな。」
「覚えて頂けているとは恐縮ございます。」
「ああ、兵士の評判が良いので覚えているぞ。それで、防衛用の魔道具とは何だ?」
「テントの機構と同じもので、暫定的な擁壁を作らせました。」
「ほう。スタンピードに耐えられるような壁なのか?」
「ドラゴンの突進にも耐えられたと報告を受けています。」
「それ以上は未知数と言う事か。」
「まあ、兵士たちにも実際に見てもらって、評価しましょう。」
全員で外に出ていく。
「この両端はどれくらいの距離がありますか?」
「およそ1kmだな。」
「分かりました。じゃあ、最初は一番小さい高さ2m幅10mの壁です。」
「ふむ、まあこんなところだな。」
「薄紫なので、あまり威圧感はないですね。」
「では、高さを5mにします。」
私がダイヤルを操作して、高さを5mにすると、見ていた兵士たちからオーッと歓声があがった。
「続けて、幅を100mに広げます。」
今度もダイヤル操作で壁の幅を広げたのだが、誰も声を発しない。
「こ、これほどの規模になるとは……」
「300mに広げます。」
またしても無言だった。
「こ、こんなふざけた物が存在するとは……」
「第一部隊長、強度を試してみろ。」
「はっ、第5小隊、破城槌を用意しろ!」
「いや、大砲を試してみろ。」
「こ、この近距離で大砲ですか?」
「じゃあ、狙いやすいように高さを10mにしますね。」
ダイヤルを操作すると、今度は悲鳴のような叫びがあがった。
大砲が引っ張り出されてきて、3発撃ち込まれたが、壁はびくともしなかった。
「魔法だ!最大級の魔法をぶつけてみろ!」
総指令の叫びが、虚しく響き渡った。
【あとがき】
終わりのイメージが……
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